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昇龍擾乱 23

「一応、確認」

 ポワカは腰に巻いていたストールを解きながら、夜叉を挟んで東側に緊那羅、西側に摩睺羅伽が位置する形で、横一列に並ぶ八部衆の三人に問いかける。

「――香巴拉の、八部衆だな?」

 問いに応じたのは、夜叉。ポワカの問いかけに、夜叉は問いで返す。

「だったら、どうするね?」

 解いたストールを左手に持ち、ポワカは背後に回す。同時に背後に回した右手には、既にベルトから外した空水晶粒を一粒、握り込んでいる。

「世を乱す者達、消し去るのみ」

 次にポワカの言葉に応じたのは、摩睺羅伽。

「たかが人間の魔術師風情が、僕等……香巴拉の八部衆を消し去る?」

 前髪をかき上げながら、おどけた様な口調で摩睺羅伽はポワカに問いかけるが、返事を聞く前に自分で話を続けてしまう。

「そいつは笑えない冗談だ。君……冗談下手だって言われるでしょ?」

「冗談は、しょうに合わない」

 淡々とした口調で、ポワカは摩睺羅伽の問いに答える。

「――で、そっちは何者だい?」

 緊那羅は問いかけるが、ポワカは答える気が無いのか、黙ったままだ。

「自分だけ訊いておいて、答えないってのはずるいんじゃない? まぁ、答えずとも君達がアナテマだっていうのは、おおよそ察しはついているが」

 アナテマという緊那羅が口にした言葉を聞いて、ポワカは微妙に眉を動かす。

「――アナテマだったのか!」

 別に盗み聞きという訳では無いのだが、話が聞こえてしまっていた朝霞は、驚きの声を上げる。アナテマとは禁術や禁忌魔術の取締りを行う、エリシオン政府直属の特務機関である。

 政府直属の特務機関という性質上、組織の実態の殆どは秘匿されていて、規模や具体的な活動に関する情報は、開示されていない。朝霞達黒猫団の三人も、名前と大雑把な組織の存在理由を知っているだけという、エリシオンの一般人と大差無い認識だった、ナイルと話すまでは。

 アナテマ本来の存在理由が、香巴拉八部衆出現の際に相対する事であるのを、朝霞はナイルとの会話で知らされたのだ。通常の禁術や禁忌魔術の取り締まりも行うが、禁忌中の禁忌魔術である香巴拉式の脅威を取り除く事こそが、その本来の役割だという真相を。

 ただ、ナイルとの話は主に香巴拉と交魔法に関するもので、アナテマに関しては軽く触れた程度であった。それ故、朝霞達はアナテマの実態について、殆ど知らないに等しいので、今回の罠を仕掛けたのがアナテマだと、思い至らなかったのである。

 そもそも、薬幇を隠れ蓑に他の組織が罠として、ブラックマーケットを開催した事にすら、朝霞達は気付いたばかりなのだし。

「それにしても、エリシオン政府の特務機関が犯罪組織を隠れ蓑にして、宝珠マニのブラックマーケットを開くなんて、随分と大胆にして悪辣な真似に走ったものだね」

 肩を竦めつつ、緊那羅は呆れ顔で言葉を続ける。

「人間の敵と看做した香巴拉から、人間を守る為に作られたアナテマが、膨大な数の人間の命を餌として利用し、罠を仕掛けるとは、君達こそ人間の敵じゃないのかな?」

「――罠だと知った上で、此処に来たか?」

 ポワカの問いに答えたのは、他の二人とは違って真顔の夜叉。

「罠だろうが、これだけの数の宝珠があるなら、構いはしない」

 夜叉はマットチョイの北側の壁付近に転がっている、膨大な数の完全記憶結晶を収納したカラフルな星牢と、天岩戸の中にある蒼玉の星牢に目をやる。ホァンダオを歩いて来る途中、既に星牢の姿は視認していたのだが、奪いに来た完全記憶結晶の存在を、夜叉は改めて確認したのだ。

 確認の為に蒼玉の星牢に目をやった際、その近くにいる黒猫団の姿が、夜叉の視界に入る。そして、その中の一人……透破猫之神姿の朝霞を目にした夜叉は、口元を歪めて無言で笑みを浮かべる。

「だいたい君等の仕掛ける罠で、僕等を消し去れる訳がないでしょ。君等はソロモンの連中と同様、所詮は人間という限界を超えられない、詰まらない存在でしかないんだし」

 嘲り口調で煽りつつ、摩睺羅伽は言葉を続ける。

「人間の限界を超え、神の領域に足を踏み入れた僕等を、人間を超えられない君等が、消し去れる訳が無いんだよ!」

 摩睺羅伽の話を聞いていたポワカは、呆れた様に深く溜息を吐いてから、口を開く。

「大いなる神秘の下、人は皆平等」

 そして、背中に回している左手の甲に、右手に持っている空水晶粒で、素早くトーテムを描く。トーテムは緑がかった空色の眩い光を放ち、大量の空色の煙を一気に放出する。

「お前達は神を僭称せんしょうする、愚かな人に過ぎぬ!」

 語気を強めて言い放ちながら、ポワカはマニトゥの魔術を発動。ポワカは先手を取る形で、戦闘の口火を切ったのだ。

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