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昇龍擾乱 22

「――罠だったんだ! このブラックマーケット自体が、香巴拉八部衆をおびき寄せる為の、完全記憶結晶を餌にした罠だったんだ!」

 ポワカを指差しながら、朝霞は興奮気味にまくし立てる。

「あいつらの狙いは、最初から香巴拉の八部衆! 完全記憶結晶の裏取引で、金を稼ぐ事じゃない!」

 朝霞の話を聞いた神流と幸手は、仮面の下で驚きの表情を浮かべる。

「そんな馬鹿な! ハノイのローカルな犯罪組織が、エリシオン政府が総力挙げても、勝てるかどうか分からない八部衆に、何で喧嘩売ったりする訳?」

 当然といえる疑問を、幸手は朝霞にぶつける。

「たぶん薬幇は只の隠れ蓑で、今回の罠を仕掛けたのは別の組織なんだろう。考えてみれば、幾ら大規模だからといって、今回のブラックマーケットには戦力が揃い過ぎだ!」

 その揃い過ぎである戦力を、朝霞は並べ立てる。

「飛鴻やポワカみたいな、得体の知れないレベルの実力者がいる上、禁術や禁忌魔術を大量に使った、エリシオン政府軍にすら配備されていない、高性能なホプライト……アパッチを大量に揃えるなんてのは、幾らなんでもローカルな犯罪組織のレベルを、越え過ぎている」

 朝霞の話を聞いて、神流は思い出す。サオモックでアパッチの行進を見た時に抱いた印象と、呟いた言葉を。

「裏社会の連中というよりは、まるで軍隊の行進みたいだ」

 そして、薬幇は別のとこと繋がりがあるという朝霞の言葉を思い出し、薬幇が軍隊的な性質を持つ組織と繋がりがあるのではと考えながら、その考えを否定した事も、神流は思い出した。

「サオモックでアパッチの部隊を見たんだけど、裏社会の連中というよりは、軍隊みたいに統率の取れた動きをしていた。まさか薬幇が軍隊と繋がってるなんて、有り得ないと思ったんだけど、有り得るのかも知れないよ」

「つまり、何処かの軍隊が薬幇を隠れ蓑につつ、膨大な数の完全記憶結晶を取引する、巨大なブラックマーケットを開くフリして……」

 天岩戸の中にある、蒼玉の星牢に左手で触れながら、幸手は言葉を続ける。

「この蒼玉とかを餌に、香巴拉八部衆を誘き寄せ、喧嘩を売ろうとしてるって訳?」

「喧嘩というよりは、戦争って言った方が相応しいだろうな。どこの軍事組織だか知らないが、軍隊が八部衆を相手するとなると」

 ポワカを一瞥しつつ、朝霞は言葉を続ける。

「――だから卑怯だのなんだのと、ポワカ達に対して後ろめたさなんて感じる必要は無い。あいつらは最初から八部衆とやり合うつもりだし……」

 朝霞は左手の親指で、天岩戸の中にある蒼玉の星牢を指差す。

「俺等の世界の人間、三千人分の命を……八部衆誘き寄せる餌にした様な奴等に、俺らが遠慮する必要なんてあるかよ!」

「それは、そうだな……」

 八部衆をポワカに押し付ける形で逃げるのに、後ろめたさを感じていた神流も、朝霞の話に納得する。

(ポワカの口振りが、俺等を気遣ってる感じだったのは、多少は後ろめたさを感じていたからなんだろう)

 完全記憶結晶が八部衆の手に渡れば、記憶の本来の持ち主である人間の命は、失われる可能性が高い。ポワカ達の組織が仕掛けた罠は、おそらくは二万人以上の人間達の命を、危険に晒す性質の物。

 危険に晒される命の内、三千人分は朝霞達の世界である蒼玉界の人間の命。そして、血族であるが故の勘なのか、その三千の中に美里の命が含まれている気がしてならない朝霞からすれば、ポワカ達のやり口は、腹立たしく許し難いのだ。

 だが、腹立たしさを感じているから、ポワカに八部衆を押し付けた上で、その隙に逃げ出そうとしている訳では無い。あくまで、その方が蒼玉が詰まった星牢を持ち出して、逃げ遂せられる確率が高いと、朝霞が考えた故での判断である。

 ポワカと八部衆が戦闘に入った隙を狙い、煙玉でポワカや八部衆の視界を奪う。その上で東側の壁伝いにマットチョイからホァンダオへ移動、そのまま地上に出て全力で逃げる……という策が固まった朝霞達は、とりあえずポワカと八部衆の様子を注視する。

 既に八部衆はホァンダオを出て、マットチョイの南側に足を踏み入れている。相変わらず余裕が有るのは、勝利を確信しているからなのか、それとも標的である完全記憶結晶を収納した星牢が、全てマットチョイに存在しているのを視認しているからなのかは、分からない。

 ポワカはマットチョイの中央から、南側に向かって歩いている。現時点では一人で三人と対峙する状況のせいか、表情に余裕は一切感じられず、全身から殺気を放つかの様な、危険な雰囲気を漂わせている。

 黒猫団の三人がいるのは、ポワカの柱により動きを止められた場所、つまりマットチョイの中央辺り。マットチョイ南側で衝突するだろう、ポワカと八部衆の成り行きを見守る状況。

 誰も喋らない、足音だけが響き渡るマットチョイ。張り詰め過ぎた空気は、その場にいる朝霞達を息詰まらせる。

 そして、間合いが二十メートル程に詰まった辺りで、どちらからという訳でもなく、ポワカと八部衆は立ち止まる。

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