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昇龍擾乱 21

 だが飛鴻やポワカの存在を知り、交魔法を得た上でも得体が知れないと感じる者達が、この世界に存在するのを思い知った朝霞は、その誘惑を理性で抑え込む。八部衆も当然、得体が知れないレベルの存在なので、少なくとも得体を知るまで安易に戦うべきでは無いと、今の朝霞は判断出来るのだ。

(強過ぎる力は麻薬に似ている、決して溺れる事勿れ……だ。交魔法で強くなりはしただろうが、過信して安易に戦うべきじゃない!)

 朝霞は色々と頭を巡らせはしたが、時間にして数秒に過ぎない。朝霞は神流の問いに、答を返す。

「逃げるに決まってるだろ! 相手してられるか!」

 朝霞はマットチョイ全体を見回して、状況を確認。既に退避は終ったらしく、黒猫団の三人とポワカ以外に、マットチョイの中に人はいない。

 蒼玉以外の七色の星牢も、マットチョイの北側に転がされたまま。警報を耳にしたアパッチ達は、星牢を放置してマットチョイから退避したのだ。

(マットチョイにいるのは、もう俺等とポワカだけ。ここで煙玉を使おうが、混乱状態になって犠牲者が出たりはしないだろう)

 目線をホァンダオに移そうとした朝霞の視界に、ポワカの姿が映る。朝霞達の東側を通って、ホァンダオに向い始めていたポワカの姿が。

 少し前まで朝霞達の北側に立っていたのだが、八部衆達に対処する為、ポワカは移動を始めていたのだ。既に意識が八部衆の三人に集中しているのか、黒猫団の三人に何かをして来る気配は無い。

(煙玉で視界を奪われたくらいで、どうこうなるレベルの魔術師じゃねえな、こいつは)

 自分達を追い抜いて、ホァンダオに向うポワカを目で追いながら、朝霞は心の中で呟く。ポワカとポワカの背後にある、マットチョイの東側の壁……そして、ポワカの進行方向にあるホァンダオが、朝霞の視界に映る。

 そして、朝霞は気付く。東側の壁が、そのままホァンダオに通じている事に。

(――東側の壁伝いに進めば、ホァンダオから外に出られるのか!)

 煙玉で視界を完全に潰してしまっても、東側の壁を伝って前進すれば、ホァンダオから外に出られる事に、朝霞は気付いたのだ。

「様子を見て、煙玉を使う」

 指で東側の壁を指し示しながら、朝霞は神流と幸手に指示を出す。

「視界が潰れても、東側の壁を伝っていけば、ホァンダオから外に逃げられる」

「様子を見てって……具体的には?」

 余裕を持っているのだろう、ゆっくりとホァンダオを歩いて下りて来ている八部衆の三人を見ながら、朝霞は神流の問いに答える。

「八部衆とポワカが、ぶつかってからだ。八部衆とポワカがお互いを抑え合ってくれた方が、俺達が仕掛け易いだろう」

「――要するに、八部衆をポワカに押し付けるのね?」

「有り体に言えば、そうなるな」

 幸手の問いに、朝霞は同意の言葉を口にする。

「それって、少し卑怯じゃないか?」

 やや突っかかる感じの口調で、神流は朝霞に問いかける。基本的に正義感が強い神流は、自分達の仇敵といえる八部衆をポワカに押し付け、逃げるという朝霞の策に、微妙に納得がいかなかったのだ。

「別に卑怯だとか……引け目なんて感じなくていいんじゃない? ポワカ自身が私達に、逃げろって言ってたんだし。むしろ、私達がいたら邪魔なくらいなんでしょ」

 朝霞は幸手の言葉を聞いて、ポワカと交わした会話の内容を思い出す。そして、ポワカの一連の発言が、ブラックマーケット開催者側の、完全記憶結晶を守る立場の者としては、かなり妙であった事に、朝霞は気付く。

(何でポワカは、あんな事を俺達に言ったんだ?)

 蒼玉を盗みに来た朝霞達に、「逃げれば、追わない」などと言うだけでも、自分達の扱う商品を盗もうとする相手にかける言葉としては、異常に甘い。その上、「聖盗の気持ちは、理解」などと、聖盗の気持ちに理解を見せる様な発言や、「でも、逃げなければ、無駄死に」などと、朝霞達の身を案じる様な発言まで、ポワカはしていたのだ。

 ポワカが言うところの「無駄死に」というのは、その後の「奴等」に関する発言から、香巴拉八部衆に殺されるという意味に、朝霞には受け取れた。

(――どう考えても、ブラックマーケットで完全記憶結晶を売買し、商売しようって側にいる奴の発言じゃないだろ。そんな奴が聖盗に理解を示したり、聖盗の命の心配なんて、する訳がない!)

 朝霞はポワカの後姿を睨み付けながら、考え続ける。

(しかも、ポワカ……だけでなく、ここの警備固めてた連中は、明らかに八部衆の襲来を予測し、備えていやがった。ブラックマーケットで商売する事には本気を見せないのに、香巴拉相手には相当に本気の備えをしているって事は……)

 この段階に至り、ようやく朝霞はブラックマーケットの真実に気付く。

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