昇龍擾乱 17
新しい技について、朝霞と神流が話し続けている間にも、アパッチ達は天岩戸を狙い、襲い掛かって来る。朝霞と神流は、それらを全て退け続ける。
最初からアパッチを圧倒していた神流は当然、最初の一体こそは手間取った朝霞も、既に奪う蒼や与える黒、威力が高い脚技などで、アパッチを次々と撃退出来る状態になっていた。アパッチ自体は過去に戦ったホプライトと比べれば桁違いの強さで、通常の仮面者なら苦戦する程度に強いのだが、交魔法発動中の二人の敵では無い。
本人達が自覚している以上に、朝霞や神流の基本的な戦闘能力……パワーやスピードは、上がっているのだ。
(――しかし、少し妙だな。確かに並のホプライトに比べりゃ桁違いに強いが、あれだけ大量の禁術や禁忌魔術使ってる割りには、普通過ぎる……)
朝霞が考える「普通」というのは、アパッチの攻撃方法についてだった。確かにスピードやパワー、防御能力は桁違いに高いのだが、アパッチの攻撃方法自体は、余りにも普通過ぎた。
魔動制御機構関連以外にも、複数の全身を巡る魔術式が存在し、他にも様々な得体の知れない魔術式が固定化されていたので、アパッチは何か特別な能力や攻撃手段を持っている様な気が、朝霞にはしていたのだ。ところが、そういった能力や攻撃手段をアパッチが使う様子を見せないので、朝霞は普通過ぎると評したのである。
多少、アパッチの攻撃方法の普通さが気になりながらも、朝霞は次々と迫り来るアパッチ達を、撃退し続ける、同様にアパッチを退けまくっている神流と共に、朝霞は天岩戸を守りながら、マットチョイの中央辺りまで辿り着く。
だが、そこで異変が起こる。突如、微妙に緑がかった空色の光を放つ粒子群が、朝霞達の進行方向の地面付近で、火花の様に煌いたかと思うと、無数の柱状の物が地面を突き破り、飛び出して来たのだ。
「な、何だ?」
驚きの声を上げる朝霞の正面で、土砂や岩の欠片を撒き散らしながら、柱状の物は一瞬の内に、百メートル程の高さがあるマットチョイの天井まで、伸び切ってしまった。
人や動物の姿を象った彫刻が為されている感じの、人の身体程の太さがある木製の柱。長さこそ全然違うのだが、目の前の柱と似ている物が蒼玉界にあるのを、朝霞達は知っていた。
「トーテムポール?」
その物の名前を、朝霞は口にする。目の前の棒はネイティブアメリカンの柱状の彫刻……いわゆるトーテムポールに、良く似ていたのだ。無論、朝霞達の知るトーテムポールは、地中から飛び出して来たりはしないし、百メートルに達する高さなど無いのだが。
林立する太い柱の間の隙間は狭く、仮面者姿の朝霞や神流は何とか通り抜けられるが、天岩戸どころか星牢ですら、通り抜けられるだけの幅は無い。そんなトーテムポールの様な長い柱を前にして、朝霞と神流はそれぞれ別々の行動を取る。
朝霞は行く手を遮る柱を、回避出来るかどうかを確認する為、即座に周囲を見回して状況を確認。神流は目の前に立ち塞がる柱を排除すべく、峰打ちでは無い二刀で、いきなり柱に斬りかかる。
周囲を見回した朝霞は、柱が進行方向だけでは無く、幸手の天岩戸を中心として、黒猫団の三人を取り囲む様に、円形に立ち並んでいる事に気付く。行く手を塞がれているだけでなく、既に周囲を取り囲まれていたのだ。
進行方向の柱に斬りかかった神流は、天岩戸が通り抜けられる様に、一度に四本の柱を斬り倒そうとする。一呼吸で左右の刀を振るい、神流は見事に四本の柱を斬り刻む。
巨大な四本の柱は、一瞬で緑がかった空色の光を放つ粒子群に変わり、消滅してしまう。だが、天岩戸は林立する柱の間を抜けて、前に進む事が出来ない。
何故なら、斬られた柱が光の粒子群となって消滅した直後、まるで何事も無かったかの様に、トーテムポール状の柱が一瞬で、地中から飛び出して来てしまったからだ。
神流は驚きの表情を浮かべつつ、再度二刀を振るい、飛び出して来た新しい柱を薙ぎ払って消滅させるが、前回同様に柱は一瞬で復活してしまう。
「どうなってんだ、これ? 斬っても斬っても、すぐに生えてくるぞ?」
疑問の声を上げる神流に朝霞は答えず、トーテムポール状の柱が飛び出して来る直前や、破壊された直後に出現する、微妙に緑がかった空色に光る粒子群に注視。
「――この空色に光ってる奴は、確か……」
朝霞は空色に光る粒子群を見て思い出す、同じ物をサオトーで目にしていたのを。




