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昇龍擾乱 16

(殴るのは駄目だったが、蹴りならどうだ?)

 大抵の人間は腕より脚の方が力が強いが、スピード特化型の朝霞の場合は、それが更に顕著な傾向がある。手技より足技の方が得意であり、威力も圧倒的に高い。

 蹴り以外にも、忍合切から取り出せる手裏剣や斧による攻撃という選択肢も、朝霞にはあるのだが、朝霞は蹴りを選択する。蹴りの威力に自信があるせいでもあるのだが、跳躍して天岩戸に迫る二体のアパッチを目にした朝霞は、試してみたい蹴り技を思い付いてしまったからだ。

 その蹴り技は攻撃範囲が広く、二体のアパッチの間に飛び込んで放てば、二体のアパッチを同時に倒せる気がしたのである。朝霞は即座に、その蹴り技を放つべく、身体を捻りつつ腰を落として、いわゆる「ため」を作ると、「ため」を解放して身体に時計回りの回転を与えながら、勢い良く跳躍する。

 回転しながら宙に舞った朝霞は、天岩戸に斧を振り下ろそうとする二体のアパッチの間に現れる。そして時計回りに回転しながら、伸ばした右脚で二体のアパッチに、超高速の回転蹴りを放つ。

 周囲の空気を渦巻かせる程に、朝霞は勢い良く回転していた為、二体のアパッチは渦巻く空気に空中姿勢を崩されてしまった。その上、朝霞の跳躍や蹴り自体は圧倒的に高速であった為、二体のアパッチは蹴りをかわせもしなければ、受けられもしない。

 一瞬の内に朝霞の回転蹴りに蹴り飛ばされ、二体のアパッチは十メートル程吹っ飛ばされて、取引用のブースに落下。テーブルや椅子……仕切りなどを破壊してしまう。

(まだ未完成だが……上出来だ!)

 空中姿勢をコントロールして、回転速度を落としつつ着地した朝霞は、二体のアパッチを倒したのを視認してから、心の中で喝采する。まだ練習し始めたばかりの蹴り技で、上手く二体のアパッチを同時に撃退出来た事を、素直に喜んだのだ。

「――何だよ、今の技? あんな技、教えてない筈だけど?」

 先程片付けた二体とは別のアパッチを、中断で水平に払った峰打ちで退けつつ、神流は着地した朝霞に問いかける。

「昨日、薬幇の奴が使ってた技の真似!」

 迫り来る一体のアパッチの斧をかわしつつ、擦れ違い様に奪う蒼で、魔動制御機構の魔術式を奪いつつ、朝霞は問いに答える。魔術式を奪われたアパッチは転倒し、その場で彫像の様に動きを止めてしまう。

 朝霞が先程、二体のアパッチを退けた跳躍しながらの回転蹴りは、昨日の地下街の階段で、ヴァンタンが使った掃旋虎尾脚の二段目、旋風脚を真似した技。食らってしまった掃旋虎尾脚を、朝霞は有効な技だと判断。

 自分でも使える様になれないかと考え、暇な時に掃旋虎尾脚の動きを思い出しながら、自分で再現して練習してみたのだ。練習してみたとは言っても、昨日見たばかりの技なので、まだ練習も始めたばかりの段階なのだが、朝霞は掃旋虎尾脚……もどきの技を、一応は放てる様になっていた。

 もどき……というのは、自分でやり易い様にアレンジを加えた上で、一応は放てる程度の出来でしか無いからだ。その掃旋虎尾脚もどきの二段目……旋風脚もどきが、横に攻撃範囲が広い、跳躍した上での蹴り技だったので、跳躍中だった二体のアパッチを迎撃するのに、向いているのではと考えて、朝霞は旋風脚もどきを使ってみたのである。

 まだ未完成過ぎる段階の技であっても、交魔法発動中の仮面者が放てば、その威力は凄まじい。アパッチを一撃で倒すどころか、周りの空気を渦巻かせて、相手の姿勢を崩す効果までもが、旋風脚もどきには追加されていた。

「旋風崩しみたいに、空気渦巻いてたな」

 そんな感想を、神流は口にする。旋風崩し同様に気が何らかの影響を与え、高速回転で発生し得る以上の空気の流れ……渦が発生していたのに、神流は気付いていたのだ。

「旋風崩しみたいな蹴り……旋風蹴つむじげりってとこか」

 思い付いた言葉を、神流は口にする。実は、朝霞が真似た元の旋風脚なら、蒼玉界での空手や中国武術に、ほぼ同様の技が存在するのを、神流は知っていた。

 だが、空手や中国武術の旋風脚は、余り高くは跳ばないし、空気を渦巻かせたりはしない。しかも、朝霞はかなりモーションにアレンジを加えて放った為、神流は朝霞が真似たのが、自分が知っている旋風脚だと気付かなかったのだ。

「旋風蹴りか……いいね、それ。元の技の名前分からないし、それでいいや」

 神流が思い付きで口にした言葉が、技の性質を良く表している様に思えたので、そのまま旋風脚もどきの技の名を、朝霞は旋風蹴りに決めてしまう。

「いいのかよ、そんないい加減な命名で!」

 呆れ気味の口調で言い放ちながら、神流は進行方向に現れたアパッチ三体を、二刀を抜いて一まとめに峰打ちで薙ぎ払う。ちなみに、得意技である旋風崩しを使わないのは、交魔法状態で威力が上がっている旋風崩しに、マットチョイ内にいる非戦闘員を巻き込まない為。

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