昇龍擾乱 14
(これで、止まるか?)
朝霞はアパッチの状態を確認、だが朝霞の期待は裏切られ、アパッチは朝霞に向かってダッシュして来る。
(今のは外れか! だったら……)
即座に朝霞もアパッチに向かってダッシュ、まるでクロスカウンターでも決めるかの様に、アパッチの右ストレート風のパンチをかわしつつ、左拳による突きをアパッチの右顔面に叩き込み、与える黒を発動。
朝霞の左手甲に刻まれた黒い六芒星が、黒い閃光を放つ。黒い閃光は稲妻の様にアパッチの全身を駆け巡りつつ、朝霞が適当に選んだ、全身を巡る魔術式の一つを上書きする形で、奪う蒼で奪った魔術式を固定化してしまう。
奪う蒼を使った時と同様、朝霞は即座に飛び退いて距離を取り、アパッチの様子を確認。すると、今度は明らかにアパッチが奇妙な動き……まるでブレイクダンスでも踊っているかの様な、不自然な動きを見せ始める。
「な、何だ? どうなってるんだ? 壊れたのか?」
アパッチの中から、狼狽気味の声がしたので、朝霞は確信する。上書きされた魔術式こそが、アパッチの魔動制御機構関連の魔術式なのだと。
(成る程、あの魔術式を奪うなり上書きするなりすれば、アパッチの動きは止められる訳だな!)
これでアパッチの動きを止める方法は判明したも同然なので、朝霞は心の中で喝采する。
(こいつの動きは、既に奪った! もう一体の方は?)
蒼玉の星牢を転がして来た、アパッチは二体。故に近くにはもう一体、アパッチがいる筈なのだ。
だが、もう一体のアパッチを相手にする必要は、朝霞には無かった。何故なら、蒼玉の星牢の近くにいた、もう一体のアパッチは、その甲冑の殆どを切り刻まれ、装着していた若い男が……姿を晒していたからである。
ウエットスーツに似た黒いコスチュームに身を包んだ、若い男の首筋を、神流は刀を手にしていない左手の手刀で打ち据える。頚動脈を強く打たれた若い男は、失神してアパッチの残骸の上に崩れ落ちる。
「禁術や禁忌魔術で、一応……仮面者並に強化されてるみたいなんだが、このアパッチ」
自分の突きでは凹みすらしない、通常のホプライトとは桁が違う強度のアパッチの甲冑を、あっさりと切り刻んだ神流に、驚き呆れた感じの朝霞の呟き。
「確かに、これまでのホプライトに比べれば、かなり硬いな。スピードもこれまでのより相当に速い……仮面者並だ」
アパッチの性能を、神流は肯定的に評価する。もっとも、そんなアパッチを数秒もかからずに、余裕を持って倒してしまったのだが。
奪うべき魔術式が分からなかった為、神流に比べれば余裕は無かったとはいえ、朝霞もアパッチを僅かな時間で倒してしまっていた。朝霞とアパッチ双方の動きが速かったので、派手に地面に大穴が開いた割りには、時間は僅かしか過ぎてはいない。
時間が僅かしか過ぎていないからこそ、朝霞達の襲撃に気付いた者が、それを伝える為に上げた大声が、マットチョイ中に響き渡るのは、朝霞達が二体のアパッチを倒した後になった。
「敵襲! 敵襲! 襲撃者は聖盗の仮面者三人!」
朝霞と神流に、蒼玉の星牢を運んで来た二体のアパッチが倒されたのに気付いた誰かが、マットチョイ中に響き渡る程の大声を上げる。その声に応じて、マットチョイの各所に配備されていた、二十体程の白いアパッチ達が、背中や腰に装備していた銃器らしき物を手に取り、朝霞達を狙うかの様な動きを見せる。
「聖盗の近くに、アパッチ破壊された味方が倒れてる! 飛び道具は使うな!」
声を上げた者は、神流が倒したアパッチの中にいた若い男が、無防備な状態で倒れているのに気付いて、指示を付け加える。その指示に応じて、構えていた銃器をアパッチ達は背中や腰に戻し、代わりに接近戦用のトマホーク風の斧を手にして、朝霞達に向かって駆け出す。
銃器による遠距離からの狙撃ではなく、斧を手にした接近戦に、アパッチ達は戦闘法を切り替えたのだ。広いマットチョイのあちこちに、アパッチ達は配備されているので、幾ら仮面者並に速いアパッチとはいえ、朝霞達の元に駆けつけるには、少し時間がかかる。
坑道の中にいる星牢を運んでいるアパッチ達は、自分達が運ぶ星牢を守る事を優先しているのか、それとも星牢が邪魔で坑道から飛び出せないのか、坑道の中から姿を現す様子は今のところは無い。
「頭に羽根飾りつけてるアパッチ……他のホプライトより、トマホークが似合うな」
斧を手にしてダッシュして来るアパッチの姿を目にした朝霞は、蒼玉界にいた頃に目にした西部劇映画を思い出しつつ、そんな感想を口にする。ちなみに、ハイパワーのホプライトが使う斧は、トマホーク風のデザインであっても、人間が使う本物のトマホークより、かなり大きい。




