表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/344

昇龍擾乱 13

(――何だこりゃ? どうなってんだよ、このホプライトの魔術式?)

 予想を超える、アパッチを構成する魔術の多彩さに、朝霞は面食らう。普通のホプライトの場合、構成する魔術式は多くも無いし、割とシンプルなものなのだ。

 記憶結晶粒を魔力に変換した上で、魔力から動力を生み出し、その動力を鎧全体に伝えて制御するシステム、魔動制御機構マジックアクチュエータは、基本的には殆どのホプライトで共通している。出力や運動性能などを高める為に、様々なカスタムがなされているものも多いが、本質的には大差が無い作り。

 魔動制御機構の動力伝達部分に相当する魔術式は、大抵ホプライトの甲冑自体に固定化されている。固定化されているので、魔術式を見ようとせずとも普通に見えるし、魔動制御機構を構成する魔術式を見つけて奪うのも、朝霞にとっては簡単な事。

 ところが、アパッチは違った。大抵のホプライトに存在している、見慣れた魔動制御機構の魔術式を含め、見慣れた魔術式が殆ど、アパッチの甲冑には見当たらないのだ。

(どれを奪えば良いんだ?)

 機能が分からない魔術式だらけなので、どの魔術式を奪い取れば、アパッチの動きを止められるのか、朝霞には分からなかった。魔動制御機構は大抵全身を巡っているので、全身を巡る魔術式を狙って奪い取れば、アパッチの動きを止められる確率が高い(関節部分など、魔術式が固定化されいてる甲冑がパーツごとに分離していても、パーツの魔術式が固定化された部分同士が、何らかの形で重なる様に設計されている為、全体として一つの魔術式となっている)。

 だが、アパッチには全身を巡る魔術式だけでも、五つ存在しているのを、朝霞は視認していた。通常のホプライトの場合、それは大抵二つしか無いというのに(センサー系統と動力伝達系統、どちらを奪ってもホプライトは止められる)。

 アパッチの左側に回りこみ、甲冑に固定化された魔術式の中に、魔動制御機構関連の魔術式を見つけ出せないままでいた朝霞の存在を、アパッチも視認。アパッチの方が先に、攻撃態勢に入る。

 戦闘モードに入り、一気に出力を上げたせいだろう。それまでは目立たぬ程にしか煙を出していなかった、背中にある排気口から、アパッチは勢い良く灰色の煙を噴出しながら、星牢から手を離し、朝霞に拳を振り下ろす。

 地面を蹴って後ろに飛び退き、朝霞が拳をかわした為、アパッチの拳は地面を打つ。まるで小さな爆弾でも爆発したかの様に、岩の破片を撒き散らしながら、アパッチの右拳は岩盤に直径数メートル程の大穴を穿つ。

(おいおい、こりゃ仮面者レベルじゃねえか!)

 ただのホプライトではないだろうと、予想してはいたのだが、アパッチのスピードとパワーは、予想の範囲を超えていた。パンチのスピードや威力から推測されるパワーは、朝霞が知っているあらゆるホプライトを数段上回り、並の仮面者に匹敵するレベル。

 並以下の仮面者なら、今の一撃でやられていてもおかしくは無いし、並の仮面者なら苦戦した相手かもしれない。だが、朝霞……透破猫之神は並の仮面者ではなかった。

 幾らアパッチがホプライトにしては速いとは言っても、聖盗の仮面者の中で最速といえる透破猫之神であり、しかも交魔法発動中の朝霞からすれば、食らう様な攻撃では無い。アパッチを操る者も何らかの武術を習得しているらしく、スムーズな動きで次々とパンチやキックを繰り出すが、朝霞は完全に見切ってかわし、その懐に潜り込む。

 そして右拳を突き出し、アパッチの腹部を殴りつける。鈍い痛みと衝撃を、朝霞は右拳に感じる。アパッチはかなり固く、交魔法発動中とはいえ透破猫之神の突きで、どうこう出来る様な物ではない。

 並のホプライトの甲冑なら、通常状態の透破猫之神の突きでも、凹ませられる。交魔法発動中なら破壊すら可能だろうが、アパッチの甲冑は凹みもしない。

 拳撃で倒せたら儲け物程度のつもりで、朝霞は本気でアパッチを殴った。だが、倒せはしなかったので、即座に狙いを本命の攻撃である、奪う蒼に切り替える。

 殴った時点でアパッチの装甲に触れているので、奪う蒼を発動させる事が可能なのだ。

(全身を巡っている五つの内、二つが当たりの筈! とりあえず適当に奪っちまえ!)

 突きが当たった直後、朝霞は奪う蒼を発動、右の手甲に刻まれた青い六芒星が閃光を放つと、青い稲妻の様にアパッチの全身を駆け巡る。即座に朝霞は飛び退いて、アパッチから十メートル程の間合いを取る。

 飛び退いた朝霞の右手からは、アパッチから引き剥がされた魔術式が、紐の様に伸びている。魔術式はすぐに右手甲の六芒星に、伸ばした巻尺メジャーが巻き取られるかの様に、吸い込まれてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ