昇龍擾乱 11
「どうなってる?」
サオトーから急いで合流地点に戻った朝霞は、その場に元からいた幸手と、朝霞より先に合流地点に戻っていた神流に問いかける。二人は坑道の中に伏せて、マットチョイの中を監視中だった。
合流地点である坑道は、マットチョイの底から二十メートル程高い部分にあるので、監視は見下ろす形になる。廃坑になる前はマットチョイの中に階段が設置され、利用されていたらしいのだが、階段が壊れて撤去されている現在、利用される可能性は無いも同然の坑道。
そんな坑道を、朝霞達は合流地点として利用していたのだ。
「それが妙なんだよね。ホプライト……アパッチの数が少な過ぎる。サオモックに三百体はいたと思うんだが、二十体くらいしか配備されてないんだ」
多数のアパッチがサオモックを後にしたのを確認してから、サオモックから戻った神流が、朝霞の問いに答える。神流は尾行が苦手な為、結局アパッチの行列の後をつけなかったのだが、多数のアパッチはマットチョイに配備されるだろうと考えていた。
だが、総数で三百体程だと神流が認識していたアパッチは、マットチョイには来ていなかったのである。
「それに、サオトーで行列作ってたアパッチの外装は、赤で統一されていたけど、ここに配備されているのは黒いのばかりで、赤いのがいないんだよね」
神流の返答を聞いて、朝霞は昨日サオモックで見た光景と、サオトーで見たばかりの光景を思い出す。
「確かに、昨日俺がサオモックで見たアパッチも、部品の状態のまで含めて……殆ど赤だったな。サオトーで見たのは、昨日も今日も青……いや、空色だったし」
「配備される場所によって、色が違うのかもね」
朝霞と神流の話を聞いて、幸手が呟く。幸手の目線の先にいるのは、白いアパッチに守られながら、ブラックマーケット開催の準備を進める、アオザイ姿の者達。
「――空色と言えば、ナジャの巣を使う魔術師の名前が分かった。ポワカって女だ」
神流と幸手の間に割り込む形で、坑道の中に伏せつつ、朝霞は二人にサオトーで見て得た情報を伝える。
「見た事が無い魔術流派の使い手で、たぶん禁忌魔術。空水晶っていう見た事が無い記憶結晶を使う魔術師で、カレタカとかいう絶対防御能力持つ防御殻を、略式で簡単に作り出していた」
それだけの説明で、ポワカの得体の知れない魔術の技量は、神流と幸手には十分に伝わった。
「記憶結晶って、八種類の筈だよね?」
驚きの表情を浮かべながらの幸手の問いに、朝霞は頷く。
「俺等の世界でいうところの、ターコイズみたいな色の石だ。ポワカって奴は全身に、その空水晶の粒をアクセサリーみたいに着けている」
情報を二人に伝えつつも、マットチョイの中を覗き込み、朝霞は状況を確認する。そのポワカの姿も星牢の姿も、マットチョイの中には見当たらない。
「明らかに厄介なレベルの魔術師なんで、可能な限りポワカってのと……やりあうのは避けたい。だから、ポワカがマットチョイに入る前に、星牢ごと蒼玉を奪い取る」
言い切った後で、朝霞は星牢について説明していなかった事に気付き、付け加える。
「あ、星牢ってのは完全記憶結晶を収納している、球体の名前だ。おそろしく頑丈みたいだから、まぁ……あれが壊れる心配は不要だと思う」
「ポワカがマットチョイに入る前に、その星牢ってのを奪い取れるチャンスはあるの?」
幸手の問いに、朝霞は頷く。
「坑道の中を、星牢は一列になって運ばれている。運良く蒼玉が入った星牢は、一番最初にサオトーを出た……つまり先頭だ。ポワカは終わりの方にサオトーを出たので、行列の後ろの方にいる筈」
「――つまり、蒼玉の方が先にマットチョイに着くんで、蒼玉がマットチョイに入った直後、ポワカがマットチョイに着く前なら、ポワカを相手にせずに奪い取れると?」
神流の問いに、朝霞は頷く。サオトーから合流地点に戻るまでの間に、朝霞はポワカの存在や星牢の性質を考慮して、予め用意していた策に修正を加えたのだ。
サオトーを出た順番通りに坑道を移動するなら、マットチョイには蒼玉が最初に到着し、少し遅れてポワカが辿り着く事になる。だとしたら、そのポワカが到着するまでの僅かな間に奇襲をかけて、星牢ごと強奪する方が、明らかに厄介過ぎるポワカを相手にする確率が、下がるのではないかと朝霞は考え、奇襲のタイミングを早める事にしたのである。




