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昇龍擾乱 02

「薬幇の連中は、先生って呼んでたから……用心棒か何かだと思ったんだが、交魔法とかの聖盗の事情にも詳しい辺りが気になる。どこか別のとこと繋がりがある感じだ」

 煙幕で大混乱状態となったハノイの中を逃げる際、朝霞が言った言葉だ。「どこか別のとこと繋がりがある感じだ」と朝霞が評したのは、飛鴻や妖風についての事だった。

 朝霞が飛鴻達を見て感じた様に、神流もアパッチの行進を目にして感じたのだ。どこかの別の組織……しかも軍隊的な性質を持つ組織と、繋がりが有るのではないかと。

 だからこそ、朝霞の言葉が思い浮かんだのである。

「いや、でも流石に犯罪組織の薬幇と、軍隊が繋がってるというのは、無理があるよな。除隊した元軍人とかが、軍隊方式で鍛え上げた連中とかなんだろう」

 犯罪組織と軍隊が連携しているというのは、神流が生まれ育った日本だけでなく、煙水晶界でも常識的には有り得ない。神流は常識に縛られた思考で、そう判断してしまう。

「セカンダス・ケントゥリア、移動を開始して下さい!」

 神流が考えている間に、百体程のアパッチがサオモックを後にしていた。再びサオモックに響き渡る声に応じ、二列目のアパッチ達が行進を開始、別の坑道を通ってサオモックから出て行く。

 出来ればアパッチ達が、何処に向うのかまで神流は調べたいのだが、それは人が多過ぎるので不可能に近い。神流は基本、潜入調査や尾行には向いていないのだ。

「――どうする? ここで監視を続けるか? それとも、アパッチが向った方向から移動先を推測して、坑道通って移動先に向かってみるか?」

 サオモックを出て行く二列目のアパッチ達の行進を監視しつつ、どうするべきか神流が悩んでいる頃、朝霞は更に深い地下坑道に、昨日と同じ服装を身に纏い、身を潜めていた。サオトーに繋がる坑道の中で、サオトー内部を監視していたのだ。

 サオトーの様子は、昨日とはかなり異なる。完全記憶結晶が球体のケースに収納され、膨大な封印魔術と、ナジャの巣という謎の糸に守られているのは同じなのだが、ナジャの巣の周囲には、数十体のアパッチ達と、数十人の魔術師と思われる者達がいたのだ。

 アオザイ姿やスーツ姿、作業服姿の者もいれば、カジュアルな服装の者もいたりと、統一性の無い服装の数十人の者達を、朝霞が魔術師だと認識したのは、魔術師が使用する道具を所持していたからだ。例えば、ペン先が記憶結晶粒になっている魔術式記述用の筆記用具や、記憶結晶粒をストックしておくボトル、多数の記憶結晶粒を合成樹脂を使い、棒状に成型した燃料棒などを。

 アパッチに関しては、サオトーに繋がる坑道の中にも多数存在する様で、合計百体程のアパッチが、サオトー内部と周辺に存在しているだろうと、朝霞は推測していた。

(これだけの数のアパッチを、サオトーに回してるって事は、あのナジャの巣とかいうのが解かれるんだろう)

 サオトーの内壁などを利用し、雲の巣の様に張り巡らされている糸による魔術結界……ナジャの巣は、視認し難く触れる事すら出来ない、強力な防御用結界なのだが、仕掛け方からして固定式。保護する対象を移動させる際は、解除する筈だと朝霞は推測していた。

 完全記憶結晶をマットチョイに移動させる際、ナジャの巣による警備が不可能になるからこそ、多数のアパッチをサオトーに集めているのだと、朝霞は考えているのだ。そして、その考えは当たっていた。

「ポワカ様、ナジャの巣の解除をお願いします!」

 白いスーツにケープを羽織った、他の魔術師達よりは魔術師らしい服装をしている、眼鏡をかけた男性魔術師が声を上げる。歳は三十前後、白人で金髪……線の細い感じの魔術師だ。

「了承! 様は不要!」

 男性魔術師の声に応えたのは、十メートル程離れたサオトー内壁付近に立っていた、長身の女性……ポワカ。肌は褐色で彫りが深く、顔立ちは整っているが厳しい目つきで、筋の通った高い鼻が印象的。

 二束にまとめられている、三つ編みにされた長い黒髪。額の辺りに巻かれた枯草色のヘアバンドには、民族的な幾何学模様の刺繍がなされていて、カラフルな羽根に飾られている。

 豊かな胸とメリハリのある、鍛え上げられていそうな身体を、裾がフリンジで飾られた、丈の短い半袖の蜂蜜色のワンピースと、自然に色落ちしたデニムパンツで包んでいる。靴はワンピースと同じ色のモカシンで、これもフリンジで飾られているタイプ。

 ネックレスやブレスレットにアンクレット、ベルトに靴の装飾など……身体の至る所が銀細工で飾られている。銀細工には全て、少し緑がかった空色の石がめ込まれていた。


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