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昇龍擾乱 01

 雲僅かなはなだ色の空の下、朝の強い陽射に照らされたサンドベージュの荒野のあちらこちらでは、土煙が上がっている。風が強い訳では無い、荒野を走る車が舞い上げているのだ。

 ハノイなどの街から繋がる道は、一応舗装されているのだが、既に劣化が進んでいる箇所が多く、至る所がひび割れたり陥没していたりするので、道では無く荒野を走る車が多い。普段は殆ど車など通らぬ道路を、補修する余裕は越南州政府には無い。

 荒れた道や荒野を行く車は、いずれもタンロン鉱山跡を目指している。タンロン鉱山跡に辿り着いた車は、ゴーストタウン化している辺りで速度を落とし、白いアオザイ姿の者達の誘導に従い、行儀良く並んで停まる。

 タンロン鉱山跡で催されるブラックマーケット当日、現在時刻は午前九時を過ぎた辺り。開場予定時刻は午前十時であり、まだ準備中である為、早目に辿り着いた客達は、駐車スペースとして整えられている建物付近で、思い思いに暇を潰している状況。

 何れもブラックマーケットの情報を手に入れ、この場を訪れた裏社会のバイヤー達だ。薬幇の者達とは違い、一見すれば車も服装も普通のビジネスマン風だが、見る者が見れば、車にはイダテンの様に魔術的な改造が施されている事も、バイヤー達が武器を隠し持っている事も分かる。

 招かれざる客である黒猫団の愛車……イダテンは、薬幇が用意した駐車スペースには存在しない。三百メートル程離れた場所にある岩陰に、岩と同じ色のシートを覆い被せて、イダテンは隠してあるのだ。

 イダテンの後部には、幸手が夜中に起きて組み立てたトレーラーが繋がれていた。強度に不安があるのだが、イダテンの八割程の大きさがあるトレーラーは、朝霞が目にした三千以上と思われる蒼玉を、何とか積めるだけの大きさがある。

 黒猫団の三人は、陽が昇る前にホテルを出て、この場に辿り着いた。シートでイダテンを隠した後、三人はタンロン鉱山跡に潜り込んだので、既にこの場にはいない。

 三人がいるのは、地下坑道の中。それぞれ別の場所で、地下鉱山内部の様子を探っている最中なのだ。

 幸手がいるのは、地下鉱山跡最大の地下空洞マットチョイ。蒼玉界に存在する巨大なタンカーや空母などの大型の艦船が、すっぽり収まりそうな程に巨大な地下空洞の、北側に近い坑道の中に身を潜め、慌しく会場の準備を整えている薬幇の者達の姿を、幸手は監視していた。

 神流は更に深い坑道に身を潜め、サオモックの状況を調べていた。暗い坑道内での活動で目立たぬ様に、神流の服装はダークスーツにソフト帽という、黒猫団としての活動時の服装では、標準的といえるもの。無論、ソードベルトには長刀と脇差を差している。

 地上と違い涼しい地下鉱山跡の中では、ダークスーツでも暑くは無い。朝霞や幸手も同じ理由で、着なれた黒装束で地下鉱山跡に潜入していた。

 暑いハノイでは、普段の黒装束は使わない可能性もあった。だが、夜間行動などに必要かも知れないと思い、黒猫団の三人は着なれた黒装束も持参していたのだ。

 普段通りの格好で、坑道に身を潜める神流の目線の先で、サオモックに多数存在したアパッチは、三列の行列を作っていた。甲冑を着込んだ歩兵というよりは、パワードスーツと表現した方が相応しい外見の、多数のホプライトが整然と並んでいる光景は、まるでSFの映像作品の様だ。

「プリムス・ケントゥリアから、移動を開始して下さい!」

 誰かの声に応じて、アパッチの行列の一つが動き始める。行列を作っていたアパッチの群は乱れの無い動きで、サオモックの壁面に口を開けている坑道の中に歩いて行く。

「――かなり訓練されている感じの動きだな」

 神流が潜む狭い坑道からは、右斜め前に見える広い坑道の中に、整然とした動きで行進しながら、姿を消して行くアパッチの行列を監視しつつ、神流は誰にも聞こえないだろう小声で呟く。

「裏社会の連中というよりは、まるで軍隊の行進みたいだ」

 裏社会の用心棒や警備を担当する者達も、訓練されていない訳では無い。だが、一糸乱れぬ集団行動というのは、裏社会の者達らしくないと、神流には思えたのだ。

 聖盗としての活動を始めてから、神流は数多くの裏社会の者達を目にして来た。そんな過去の経験から、裏社会の者達は訓練を受けた者達であっても、個性が強くレベルが揃わず、集団行動は雑なものになりがちだと、神流は認識していたのである。

 故に、余りにも整然とした動きを見せ付けたアパッチの行進を目にして、裏社会の連中らしくない、まるで軍隊の行進の様だという印象を、神流は受けだのだ。そんな神流の頭の中に、日中の朝霞の言葉が蘇って来る。

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