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暗躍疆域 47

「勘違いすんなアホ!」

 朝霞も頬を赤らめつつ、強い口調で神流の勘違いを正す。

「そういう意味での興奮じゃなくて、明日の事とか色々と頭に浮かんで、気が昂ぶって眠れないって意味だよ!」

 厳密に言えば、その色々の中には、神流や幸手相手にしてしまった艶事についても含まれているが、その比率は僅か。あくまで頭に浮かぶ様々な事柄は、明日のブラックマーケット関連の事なので、朝霞の言い方は誤魔化しでもあるのだが、間違っているという程でもない。

「あ、そうなんだ」

 艶っぽい方向の興奮だと、決め付けてしまっていた自分が恥ずかしく、神流は気まずそうに目線を泳がせる。

「遠足や運動会の前の日に、眠れなくなる小学生みたいな感じだね」

 小学生に例えられるのは、微妙な気分ではあったのだが、外れてはいないので朝霞は頷く。重大なイベントがある日の前日に、気が昂ぶって眠れないという意味では、同じ現象といえるのだから。

「――らしくないじゃない。幾ら大仕事だからって、これまで眠れないとか……無かったのに。何か気になる事でも?」

 気になる事と問われた朝霞の頭に、真っ先に浮かんだのは、タンロン鉱山跡のサオトーで多数の蒼玉を目にした時、妙な懐かしさを覚え、その中に美里の完全記憶結晶が含まれている様な気がした事だった。

「今日……サオトーで沢山の蒼玉を目にした時、妙な懐かしさを感じたんだ」

 そう言いながら、朝霞はベッドに歩み寄って行く。

「さっきは、そんな話しなかったよね?」

 神流の言う「さっき」とは、明日の作戦についての話し合いの際だ。

「具体的な根拠とかがある話じゃないから、話すべきかどうか迷って……話しそびれた」

 上体を起こしたままベッドに座っている、神流の傍らに朝霞は腰掛ける。

「――ひょっとしたら、あの蒼玉の中に妹の蒼玉が含まれているせいで、そんな懐かしさを……俺は感じたのかもしれなと思ってさ」

「確かに、具体的な根拠がある話じゃないね。肉親故の直感みたいなのは、あるのかもしれないけど」

 神流は少し考え込んでから、言葉を続ける。

「――ただ、有り得ない話じゃないのかも。三千って数になると、確率的には妹さんの蒼玉が含まれている確率は、高いんだろうし」

 朝霞は、神流の言葉に頷く。

「俺の妹の蒼玉が含まれてる確率が高いのなら、当然……同時に盗まれた、お前や姫の家族の蒼玉が含まれてる確率も、高いのかも知れないぜ」

「そうだね……」

 その可能性を考えたのだろう、神流は神妙な面持ちで呟く。神流の場合は父親と妹、幸手は妹と弟が、記憶を蒼玉にされて奪われているのだ。

「だから、タンロン鉱山跡にある蒼玉は、絶対に取り戻したいんだ。俺達の家族の蒼玉を、裏社会で売りさばかれるのも嫌だが、間違っても香巴拉の連中に奪われる訳には行かないからな」

 蒼玉は裏社会で取引された場合も、記憶を奪われた人間が命を失う形で、禁忌魔術や禁術に利用される可能性はある(香巴拉式以外にも、完全記憶結晶を完全に消費する禁忌魔術は存在するので)。だが、香巴拉の者達の手に渡る方が、命が失われる確率は圧倒的に高いのだ。

「だったら、さっさと寝て……身体と心を休めないと駄目だろ」

「それは分かってるんだけど、寝つけないから困ってんだよ」

 愚痴ってから、朝霞は手にしていたオレンジジュースの瓶を煽る。

「ねぇ、一口頂戴」

 喉の渇きを覚えた神流に強請ねだられた朝霞は、丁度一口分程が残っている瓶を右手で神流に差し出すが、神流は瓶を受け取らない。

「――口移しで」

 甘えた感じで付け加える神流に、朝霞は呆れた様に言い放つ。

「普通に飲めよ!」

「せっかく寝てたあたしを、起こしたのは誰だったかな?」

 要するに、寝ていたのを起こしたのを悪いと思うなら、それくらいのお強請りには素直に応じろというのが、神流の問いかけの言外の本音なのは、朝霞にも分かる。

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