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暗躍疆域 45

 滅魔煙陣の発動には干支に擬えた十二のレベルが存在し、気の補充を始めた最初の日は、最低レベルのの状態でしか発動出来ない。その後、毎日気の補充を続ければ、レベルが一つずつ上がり、十二日間連続で気の補充を続けると、最高レベルのの状態に達する。

 亥の状態に達した後は、毎日気の補充を続ければ、亥の状態をキープ出来るのだが、一日でも補充を欠かせば、また子のレベルまで戻ってしまうのだ。故に、ブラックマーケット当日に滅魔煙陣を最高レベルで発動出来る様に、亥の状態をキープし続ける為、ここ暫くの間……飛鴻は妖風の気の補充相手を、続ける羽目になっていた。

 同性愛趣味ではない飛鴻からすれば、悪夢の様な仕事なのだが、滅魔煙陣が亥のレベルで使えないと、本来の目的が果たせない可能性がある為、欠かさず補充の相手を続けている。気を操る達人である飛鴻の場合、常人の域を超えたレベルで自身の身体をコントロール出来る為、欲情せずとも男を抱ける状態にはなれるので、問題は無い。

 問題は無いと言っても、仕事を行う為に問題が無いだけであり、飛鴻の精神衛生には大きな問題が有る。その事は、ベッドに腰掛けて項垂れている飛鴻の表情を見れば、明らかだろう。

 そんな飛鴻の前で、妖風が立ち止まる。脱いだガウンを丁寧に畳み終えて、自分のベッドの上に置いてから、妖風は飛鴻のベッドの方に歩いて来たのだ。

 飛鴻は顔を上げて、月明かりに浮かび上がっている妖風の姿を、微妙な表情で見上げる。

「一部を除けば、見栄えの良い女に見えない事も無いんだがねぇ……」

 この場合の一部と言うのは、胸と下半身の一部。

「――好みじゃない部分が一部なら、我慢しといて下さい」

 前屈みになりつつ、妖風は続ける。

「完璧な人間なんて、この世にいやしないんですし」

「いや、好みとかいう次元じゃ片付けられない、大事な部分だと思うよ、その一部……」

 そう言いながら、近づいて来る妖風の胸に、飛鴻は顔を寄せる。そして、滅魔煙陣の太極球を軽く一舐めして、唾液を付着させる。

「ん……」

 妖風が心地良さ気に軽く呻くのと同時に、太極球が仄かな……白い光を放ち始める。気の混ざった唾液が表面に付着した事により、滅魔煙陣が気を補充するモードに入り、その相手として飛鴻を認識したのを示す光だ。

 これで、滅魔煙陣が気を補充する準備は、全て整ったと言える。

「――じゃ、いただきますよ……飛鴻」

 耳元で囁いてから、飛鴻の肩に両手を置き、ベッドの上に押し倒す様に伸し掛かる。マットレスが弾み、スプリングが軽く軋んだ音を立てる。

 飛鴻が「抱く」という言葉で表現した通り、行為を男役と女役に分けるのなら、飛鴻は男役を担当する。だが、男相手には積極的になれない飛鴻は、いわゆる「抱く」段階に入るまで、妖風の為すがままになるのが何時もの流れであり、最初は大抵、妖風に押し倒される形になる。

 四つん這いになっている妖風が、艶っぽい笑みを浮かべているのを、下から見上げながら、飛鴻は心の中で呟く。

(顔以外はなるべく、見ない事にしよう……)

 飛鴻の視界の中で、妖風の顔が大きくなり、唇が重なる。唾液に濡れている唇や、積極的に絡めて来る舌の感触、肌や髪から香る……化粧水か何かの香りなどは、女と大して変わりが無い。

 妖風の気の補充相手を始めた頃は、キスだけでも相当な嫌悪感を覚えていたのを、飛鴻は思い出す。それが最近では、キス程度なら嫌悪感は殆ど覚えなくなってしまっていた。

(慣れってのは、怖いもんだねぇ)

 流石にキス以上の行為に関しては、嫌悪感は消えていない。熱心に妖風が奉仕する為に、快楽が無いと言えば嘘になるのだが、それでも得られる快楽よりは、嫌悪感が勝るのが事実。

 長く濃密なキスを続け、飛鴻の唇を貪り続けていた妖風が顔を上げ、口元を濡らす唾液を美味しそうに舐め取る。唾液が帯びている飛鴻の気を、本当に味わっているかの様に。

 妖風の顔を見上げつつ、飛鴻は心の中で愚痴る。

(――まぁ、不味そうな顔されるよりは、マシなのかもしれないけど)

 そして程無く、妖風の行為がキスの先に移行するだろう事を、飛鴻は察する。ハノイに入ってからは毎晩繰り返している行為なので、妖風の表情を見れば、次に何をしようとしているのかは、勘の良い飛鴻には分かるのだ。

 飛鴻からすれば、快楽より嫌悪感が勝る段階に移るのだから、無論良い気分はしない。

(嫌悪感が無くなる方が、やばいといえばやばいのか……)

 男相手の性的な行為に嫌悪感を覚えるのは、自分が正常である証とも考えられる。避けられぬ行為である以上、嫌悪感はむしろ歓迎すべき存在なのだろうと、飛鴻は思う。

 始めた頃は嫌悪感が強かったキスに、何時の間にか嫌悪感を覚えなくなっている事を、飛鴻は思い出す。キスより先の行為も、何時の間にかキス同様に慣れてしまい、嫌悪感を覚えなくなる可能性もあるのではと、飛鴻は不安を覚える。

(いや、流石にそれは……有り得ないと思うが)

 不安を心の中で打ち消そうとする飛鴻の視界で、妖風が身体の位置を変え始める。キスより先の行為を始める為の、妖風の動きだ。

 本格的に気を貪り始めた、妖風の為すがままになりながら、飛鴻の夜は更けて行く。




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