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暗躍疆域 38

「――つまりマットチョイの北側が、ブラックマーケット当日の完全記憶結晶置き場になる可能性が高いと、黒猫っちは考えてる訳ね?」

 幸手の問いに、朝霞は頷く。時は夜、場所は壁を這い回るパイプに程良く冷やされた、シンチャオの一室。

 大きめのダブルベッドの上に、黒猫団の三人は車座になって、話し合っている最中なのだ。既に三人共シャワーで汗を洗い流し終えているので、白いバスローブ姿となっている。

 三人が手にしているタンロン鉱山跡の地下のマップは、部屋に戻ってから朝霞が手描きした物。かなり詳細に警備体制やルートとなる坑道が、書き込まれていた。

「マットチョイで取引用のブースっぽいのが設置されていたのは、ホァンダオと直結している南側から中央にかけて」

 タンロン鉱山跡への潜入時、坑道に潜んで目にしたマットチョイの状況を思い出しながら、朝霞は説明を続ける。

「北側には大きめの仕切りがあったが、その向こう側にはブースが設置される様子は無かったから、たぶん当日……北側が完全記憶結晶置き場になると思う」

「完全記憶結晶の数も警備体制も、これまでとは桁違い。今回は黒猫だけじゃなくて、全員で潜入しないと駄目だろ?」

 神流の問いに、朝霞は頷いた。黒猫団は通常、盗みに潜入するのは朝霞だけなので、三人揃って盗む為に潜入するのは珍しい。

 潜入して盗み出すのを朝霞が担当、朝霞が見付かるなどして戦闘になった際、陽動で敵を引き付けたり、戦闘の主力となったりするのを神流が担当。必要なら遠距離からの攻撃や回復、牽制や陽動などのサポートをしつつ、最終的に全員で盗みの現場から逃亡する手筈を整えるのが幸手の担当といった感じで、分業制になっているのだ。

 だが、今回は朝霞一人では運び出すのは不可能な程、蒼玉だけですら完全記憶結晶の数が多過ぎる。しかも流派すら分からない禁忌魔術や禁術の使い手や、それらの魔術で強化された多数のホプライトという、明らかに強力過ぎる戦力を揃えた警備体制なのだから、流石に朝霞だけで潜入しても、目的を果たすのは困難。

 故に今回は三人全員で潜入するべきだと神流は主張し、朝霞も同意したのだ。

「しかし、蒼玉だけで三千以上となると、三人がかりでも運べないぞ。どうやってマットチョイから運び出すんだ?」

 神流は朝霞に問いかける。

「巫女に天岩戸で運んで貰おうと思う」

「――成る程。防御だけでなく輸送にも使えるんだ、私の天岩戸」

 天岩戸の中に物を入れたまま、飛行して運ぶ使い方があるのに気付いていなかった幸手は、意外そうな顔で呟く。

「幾らマーケット当日でも、ある程度の封印魔術は仕掛けてあるだろう。まず俺が完全記憶結晶を守る封印魔術を排除する」

 大雑把な移動ルートを、マップ上に指先で描いて示しながら、朝霞は説明を続ける。

「それを巫女が天岩戸で運んで、ホァンダオを通って外に逃げるのを、俺と姫で護衛する……というのが、今回の基本的な手筈だ」

「今回は蒼玉の数が多いのは想定してたんで、イダテンにトレーラー積んであるから、トレーラー使えば三千個位何とか運べるとは思うけど、スピードは三分の二位に落ちるよ」

 幸手の言うトレーラーとは、イダテンに連結する事が出来る、組み立て式のトレーラー(被牽引車両)だ。イダテンの予備タイヤを使う物で、幸手自作の代物である。

「組み立て式だから、やっぱ強度に問題あるんで、路面状態良くないとこでスピード出すと、バラバラになる可能性もあるし」

「イダテンに辿り着く迄も辿り着いてからも、巫女には蒼玉の輸送に専念して貰って、俺と姫は護衛と牽制に専念だな。姫は何があっても巫女から離れないで、蒼玉を守り通してくれ」

 朝霞の言葉に、幸手と神流は頷く。

「――以上が基本だけど、とにかく今回は情報が足りない。交魔法の修行があったんで、いつもよりスケジュール的に厳しく、情報収集の時間が足りなかったから」

 渋い表情で頭を掻きつつ、朝霞は言葉を続ける。

「足りない情報を少しでも増やす為、情報収集しながら作戦を進める事になるが、いつもより即興性が強くなるのは、覚悟しといてくれ」

「何を今更、計画通りに行かないのは、毎度の事じゃない」

 幸手の口調は、当たり前だと言わんばかりだ。

「まぁ、そりゃそうなんだけど……今回は相手もやばそうだし、例の香巴拉八部衆だって出て来る可能性はある」

 朝霞が口にした香巴拉八部衆という言葉を聞いて、神流と幸手の表情も引き締まる。現時点で、最も恐れるべき相手の存在の名を出されたら、二人がそうなるのも当然だろう。

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