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暗躍疆域 09

(タンロン鉱山跡?)

 明らかに地下街とは別の場所と思われる、タンロン鉱山跡という名称を冠し、その内部の様々な場所を記してあるプレートの一群が、配置表の左下に、並んでいたのである。どうやら、狙っていた情報に自分が辿り着いたらしいと自覚し、朝霞は心の中で喝采する。

(――どうやら、このタンロン鉱山跡が、ブラックマーケットの開催場所みたいだな。いや……でも、もう少し調べて、確認を取った方が良いか)

 興奮気味に朝霞は心の中で呟くが、確認を取る事は無理になる。何故なら、すぐに朝霞には、そんな余裕が無くなってしまうからだ。

 朝霞が呟いた直後、事務所の中に三メートル程の長さがある、細長い金属製の箱を、緑色のアオザイを着た男達が、運び込んで来た。その箱の上に向けられていた先端が、朝霞が隠れているエアダクトを、直撃したのである。

 箱をエアダクトにぶつけた者達が、焦りの声を上げる。

「あ、やばっ!」

 当たった部分は、朝霞が入っていた辺りでは無いのだが、余り丈夫では無いエアダクトは、あっさりと壊れ……朝霞が入っている部分ごと、ばらばらになりながら落下してしまう。

(な、何が起こったんだ?)

 直撃した箇所は死角だった為、朝霞は何が起こったのか分からぬまま、エアダクトごと落下し、受け身も取れぬまま、事務室の床に叩きつけられる。

(痛っ!)

 かなりの痛みを覚えたのだが、声を出すのを何とか朝霞は堪える。だが、声を出さずとも、自分の身を隠していたエアダクトが、ばらばらに分解してしまえば、朝霞の姿は丸見えなので、意味が無い。

 エアダクトだった銅版が散らばる中、すすに塗れて白さを失った服装の朝霞が、かなり間抜けな感じで、姿を現す。

「し、侵入者だッ!」

「エアダクトに、ばかでかい鼠が、忍び込んでいやがった!」

「鼠を捕まえろッ!」

 アジトの事務室にいた、十数人の薬幇の者達が、一斉に声を上げる。声を上げるだけでなく、一部を除いて腰に下げていた、如意電撃棍を手に持ち、それぞれに程良い長さに伸ばして、身構える。

(鼠って……どちらかといえば、猫なんだけどねぇ)

 鼠……侵入者に対する比喩なのだろうが、朝霞は煤だらけで、濃淡のある鼠色に染まっている自分の着衣を目にして、苦笑しつつ心の中で愚痴り続ける。

(ま、確かに鼠みたいな色に、なっちゃいるみたいだから、仕方が無いか)

 何時までも心の中で、愚痴ってもいられない。明日、ブラックマーケットが開かれるのが、タンロン鉱山跡だという情報は得られたのだから、さっさと逃げなければならない。

 朝霞は周囲を見渡し、逃げ道を物色する。一番近くにいた濃紺のアオザイ姿の若い薬幇の男が、帯電しているのだろう……先端が僅かに黄金色のスパークを放っている如意電撃棍で放った突きを、朝霞は飛び退いてかわすと、まだドアが開いたままの出入口に向って、駆け出す。

 出入口付近には、緑のアオザイを身に纏う、大柄の四人の青年。足元には細長い金属製の箱が落ちている、それがエアダクトを壊した物なのだが、朝霞は気付かない。

 四人の青年は、迫り来る朝霞に対し、次々と如意電撃棍で攻撃してくる。だが、上段や中断から殴りかかろうとした挙句、如意電撃棍は仲間や壁に当たったりして、朝霞には当たらない。

(あ、こいつら……動きが素人だ)

 かわず必要があったのは、一番手前にいた男が、短めに持った如意電撃棍を、上段で振り下ろした一撃のみ。残り三人の打撃は何れも、朝霞に迫りすらしない、未熟過ぎる攻撃。

 事務所自体は広いが、出入口近辺は狭くなっている。狭い場所で長い棍は振り難いし、仲間が回りにいるなら、下手すれば仲間に当たるので、戦い慣れている者なら、突いて来る……最初に突いて来た、濃紺のアオザイを着た若い男の様に。

 明らかに戦いという意味では素人レベルの四人を、朝霞はまともには相手にしない。一番手前にいた者を、足払いで転ばしつつ、軽めの当身で後ろに転ばせ、背後にいた三人を将棋倒しで巻き込んで倒す。

 情けない悲鳴を上げながら転倒した四人の上を、一跳びで越えると、灰色の壁や天井に覆われた通路を、朝霞は疾風の様に駆け出す。通路……だけでなく、薬幇のアジトや地下街まで含めて、警報が鳴り響く、不審者の侵入を伝える為に。

 ちなみに、アジトにはサイレン風の喧しい警報が響いているが、地下街の方は薬幇の者にだけ分かる、不審者の侵入を伝える音楽が流れ始めている。客達を驚かせない為に、薬幇の者にだけ不審者の侵入を伝える意味合いの音楽を、流しているのだ。

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