表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/344

暗躍疆域 08

(臭っ!)

 強い勢いで空気が流れるエアダクトの中は、飲食店の煙やトイレの排気……その他得体の知れない臭いなどが混ざり、かなり嫌な臭いがしている。煙が流れているので、エアダクト壁面は煤だらけ、擦れる朝霞の服は、どんどん灰色に染まっていく。

(洗濯機で水洗いとかじゃ、汚れ落ちないんだろうな……こりゃ)

 面倒な仕事が一つ増えた事に、少しげんなりとしつつ、朝霞は狭いエアダクトの中を、匍匐前進して行く。大雑把にではあるが、薬幇のアジトがある筈の方向に向って、エアダクトの中を進み続ける。

 数分かけて、曲がりくねったエアダクトの中を、百メートル程進んだ辺りで、下から聞こえて来る音の感じが、変わって来る。店舗特有の、賑やかな喧騒が遠ざかる感じ。

 代わりに、聞こえて来る様になったのは、事務的な会話や、仲間同士の気楽さを感じされる、フランクな会話などだ。

(――そろそろ、アジトなのかも)

 緊張しながら、音を立てぬ様に、朝霞はエアダクトの中を進む。余り丈夫な作りでも無さそうなので、エアダクトが壊れぬ様に、ゆっくりと。すると、換気扇では無く、金網状になっている換気口らしい部分が、目の前に現れる。

 換気口から下の様子を、朝霞は見下ろす。バスケットボールがプレイ出来そうな広さがある、雑然とした広い事務所が、朝霞の目に映る。

 白に濃紺、水色に緑……様々な色のアオザイ姿の人々が、机の前で事務作業をしていたり、話し合っていたり、書類や荷物を運んでいたりする光景は、犯罪組織のアジトというより、会社の事務所の様。アオザイの色の違いは、役割なのか階級なのか、良く分からない。

「おい、ホアビン! お前……明日マーケットの方に、回される事になったぞ! 最新の配置表、確認しとけ!」

「俺もっスか? 無茶言わないで下さいよ! 俺まで店離れたら、どうにもならなくなっちまいますって!」

「仕方が無いだろ! 今回はマーケットの規模がでか過ぎるんで、マーケットの方に回せる限りの人員回せって、上から命令来てるんだから!」

「店の方が回らなくても! 俺責任取らないっスからね! 記憶結晶の取引なんて、俺……専門外なんだから!」

「俺だって専門外だよ! 上が決めたんだ、諦めろ!」

 アジトの事務所風の部屋での、薬幇の者達同士の会話が、朝霞の耳に飛び込んで来る。

(明日のマーケット? マーケットの規模がでか過ぎる? 記憶結晶の取引?)

 会話に含まれるキーワードから、朝霞は気付く。会話で語られる、明日開かれるマーケットというのが、例の大規模ブラックマーケットであるらしいと。

 手に入れようとしていた情報を、自分が目の前にしているのを察し、朝霞は興奮気味に、心の中で呟く。

(配置表って言ってたよな? 配置表なら、人員が配置される場所……つまり、ブラックマーケットが催される場所も、書いてある筈だ!)

 朝霞は室内を見回し、配置表らしき物を探す。すると、右斜め前に見える壁に掲示されている、かなり横に大きい濃紺のボードが、朝霞の目に映る。

(あれかな?)

 目を凝らし、朝霞はボードが配置表かどうか、確認する。多数のプレートがぶら下がっているボードは、配置表風に見えるのだが、二色記憶者となり、視力が異常に強化されているとはいえ、金網越しではプレートに記された文字までは、確認出来ない。

(邪魔だ、外すか……)

 朝霞はペン型の工作道具を取り出すと、万能ドライバー機能で、エアダクトにはめられて、螺子で固定されている、金網状の通気口パーツを外す。そして、もう一度……ボードを凝視し、多数ぶら下がっているプレートに記された文字を、確認する。

 金網がどけられ、視界がクリアになったので、今回はプレートの文字が読める。プレートの殆どには、越南もしくは四華州風の、見知らぬ人名が記されているが、一番左側の縦一列には、一部……朝霞にも見覚えのある単語が並んでいた。

 見覚えのある単語とは、階段や回廊……そして、地下街で目にした店の名前など、場所の名前だ。

(店名とかの場所が記してあるって事は、あの左端の列が、配置される場所か!)

 緊張しながら、朝霞は集中的に左端の列に並ぶプレートの文字を、確認する。その多くが地下街で見かけた店や、各種施設の名称と思われるものだった。

 だが、その一番下に……とって付けたかの様に、一まとめにされているカテゴリーは、地下街とは余りにも無縁の名称だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ