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暗躍疆域 07

(これかな? だとしたら、隠し扉に繋がっている筈なんだが……)

 純魔術式が書き込まれている左側の壁に、隠し扉らしき部分は見当たらない。だが、純魔術式から細く伸びている線は、天井に向って延びている。

 純魔術式と繋がる何か……つまり隠し扉は、どうやら天井にあるらしい。

(扉が天井にあるという事は、薬幇の事務所は、地下の歓楽街と地上の間にあるのか?)

 疑問を持った朝霞は、地上から階段を下りて来る時、二階から三階程の高さ分の長さの階段を、下り続けた感覚があったのを思い出す。

(下りて来る時の階段、今考えてみれば、妙に長かったな。あれなら、地上部分と地下街の間に、何か大型の地下施設があっても、おかしくは無いだろう)

 無論、その大型の地下施設は、薬幇の事務所である可能性が高いと、朝霞は考えているのだ。

(薬幇の事務所というか、アジトみたいなのが、この上にあるとして、どうやって中に入る? 鍵魔術の暗証番号が分からない以上、破るのは無理だし)

 朝霞は鍵魔術の魔術式を読み解こうと試みるが、朝霞の知らぬ魔術流派の魔術式までもが組み合わせてある、思いの他高度な魔術式。ハッキングする感覚で魔術式自体を上書きし、無効化や解除を行うのは、難しいタイプ。

 透破猫之神になれば、強引に引き剥がしてしまえるが、大量に煙を発生させるので、確実に誰かに発見されてしまうだろう。

(こりゃ下手に手を出したら、火傷やけどするタイプの、凝りまくった魔術式だな。俺の手には余る)

 この場合の火傷とは、警報が鳴り出したり、侵入者を撃退したり捕らえたりする為の、何らかの罠が発動しかねない事態を、意味している。

(蹴り破ろうと思えば、出来ない事も無いだろうが、警報鳴るだろうからなぁ……)

 扉自体を防御殻的なものでガードする魔術式は見当たらないので、全力で床を蹴り、バック宙をしながら蹴れば、鍛え上げられた今の朝霞なら、扉を蹴り破るのは可能だろう。でも、当たり前の様に、警報用の魔術式は作動し、あっさりと侵入には気付かれてしまうに違いない。

(鍵魔術を、どうにか出来ない以上、また誰か出入りする為に、隠し扉が開いた時に侵入するか? それとも、他にアジトに潜り込めそうなルートを探すか?)

 次に出入りする者が来るのは、何時になるか分からない。それに、隠し扉を開いた先の状況が、分からな過ぎる。

 天井の隠し扉の周囲に、多くの薬幇の者達がいれば、その者達を朝霞が倒せたとしても、警報は鳴らされてしまうだろう。そうなれば、アジト内で情報を探るのは難しい。

(他に潜り込めそうなルートを、探した方が良さそうだな)

 そう判断した朝霞は、その場を離れて、さりげなく辺りをうろつき始める。地下街の上に行けそうな何かがある場所を、探し回り始めたのだ。

 アジトは上にあるので、必然的に天井辺りを、朝霞は見上げる事になる。そして、気付く……上に行けそうな方法の存在に。

 朝霞の目線の先にあるのは、天井を覆う灰色の建材と同じ色で塗られた、長方形の太いパイプ。空調の為に使われる空気導管……いわゆるエアダクトだ。

 大規模な地下街だけの事はあり、人が通れそうな太さのエアダクトが、地下街の天井を這い回っていた。薬幇の隠し扉があった通りの天井には、エアダクトは無かったのだが、その通りに入る辺りで、エアダクトは不自然に天井の中に、折れ込んでいた。

(この上にあるアジトと地下街のエアダクトが、あの辺りで繋がっているのかも)

 アジトに繋がっているかもしれないエアダクトを、朝霞は目線で辿り、見付からずにエアダクトに潜り込めそうな場所を探す。程無く、その潜り込めそうな場所を、朝霞は見つけ出す。

 それは、二階の回廊から、少し突き出した通路にあるトイレ。エアダクト自体は様々な店舗に繋がっているだろうが、人の多い店舗の中で、人目につかずエアダクトに潜り込むのは難しい。

 だが、トイレの中なら、人がいないタイミングもあるだろう。トイレが店内に設置されている店舗も多いので、回廊にあるトイレの利用者は少ない様に、朝霞には思えた。

(とりあえず、トイレ調べてみるか)

 朝霞はトイレに向い、中に入る。全体的に洒落た黒で統一され、清潔感のあるトイレに、人気ひとけは無い。小便器の並びだけでなく、五部屋ある個室の方も無人だ。

(運が良いな、誰もいないとは)

 静かではあるが、エアダクトに空気を送り込んでいる、換気扇の音が聞こえる。トイレの奥……一番奥の個室から、その音は聞こえて来る。

 一番奥の個室に入り、朝霞は天井を見上げる。壁の色に合わせた黒い換気扇は、下を向いて設置されている。エアダクトはトイレの天井を、通っているのだ。

 念の為、朝霞は換気扇付近の魔術を、見ようとする。魔術機器である換気扇を動かす為の魔術式は確認出来るが、それ以外に魔術式は見当たらない。換気扇の魔術式も、何かが仕掛けられてはおらず、単なる市販の魔術機器に搭載されているレベルのものだ。

(流石にトイレの換気扇にまで、凝った魔術式を仕掛けたりはしないか)

 凝った魔術防御がなされていないのに安堵しつつ、朝霞はポケットに手を突っ込み、黒いドミノマスクを取り出し、装着する。ドミノマスクとは、顔の上半分を隠せるマスクで、顔を見られたくない作業をする場合の為などに、朝霞が大抵、携帯している物の一つだ。

 夜間の侵入ではなく、日中に大っぴらに侵入している為、大量の道具が入っている、愛用のウェストポーチは携帯していない。だが、換気扇はシンプルな螺子ねじで固定されているので、シャツの胸ポケットに挿している、ペン型の工作道具でどうにか出来る。

 市販の魔術機構である換気扇は、スイッチを切るだけで止まる。後はペン型の工作道具の万能ドライバー機能を使い、螺子を外せば外せてしまう。慧夢は手早く螺子を全て外し、換気扇を外してしまう。

 外した換気扇を便座の陰に隠すと、朝霞は邪魔になりそうなキャスケットを脱いでポケットにしまい、天井に開いた穴の縁に手をかけて、天井裏に上がる。より正確に言えば、天井裏にある銅製と思われるエアダクトの中に、朝霞は入ったのだ。


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