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暗躍疆域 03

 並んでいる建物の見た目だけなら、イー・ホフ通りは他の通りと、何ら変わりは無い。二階から三階建てと、余り高くは無い、統一感の無いデザインの、余り出来が良いとは言えない感じの建物が建ち並ぶ、長くも広くも無い通りに過ぎない。

 だが、明らかに他の通りとは、雰囲気が異なる。十メートル程の幅しかない通りの東側出入口には、蒼玉界の中華街などの出入口などにあるのと同じ、牌楼はいろうという門がある。

 牌楼は煙水晶界にも、ほぼ同様の物が、同じ名称で存在している。蒼玉界でいえば中国に該当する、四華州と呼ばれる四州の、建築文化として。

 二本の柱に支えられた牌楼の梁には、「河内薬師街はのいやくしがい」と記された赤い看板が掲げられている。梁の上には青い瓦葺かわらぶきの屋根があり、龍を象ったと思われる象が、その頂点を飾る。

 牌楼の存在による、見た目の違いだけでは無い。牌楼……というか、通りの出入口に、武装した警備員達が、何人も目を光らせている点も、明らかにイー・ホフ通りと、他の通りは違う。慧夢が見て回った範囲での話ではあるが、ハノイには他に、武装した警備員が守る通りなどは無かった。

 武装と言っても、客を怯えさせない為なのか、銃器や刀剣の類では無い。三十センチ程の長さの棒……正確にはこんを装備している。白いアオザイに身を包んだ、体格の良い男女は、ソードベルト風の白いベルトに、白い棍を装備している。

 一見しただけでは、武器だと気付かれない程に、存在感の無い武装といえる。

(華北で見たな……如意電撃棍にょいでんげきこんとかいう奴だ)

 アオザイ姿の者達が、腰に下げている棍……如意電撃棍を、朝霞は過去に何度か目にしていた。華北に遠征した際に出会った、地元の繁華街や歓楽街を仕切る犯罪組織の者が、近接戦闘用に装備していた武器が、この如意電撃棍。

 電撃を発生させる魔術機構を装備した、スタンガンの様な能力を持つ棍棒が、電撃棍。如意電撃棍とは、ある程度は長さが自由に変えられたり(大抵の場合、三十センチから三メートルの範囲だが)、電撃が有効となる対象を選べたりと、使用者の思うままになる……つまり如意である電撃棍の事なのだ。

 四華州に伝わる伝統武術には、棍棒で戦う棍術こんじゅつを伝える流派が多数、存在する。電撃棍は、この棍術と相性が良く、四華州系の組織には、近接戦闘用に刀剣ではなく、電撃棍系の武器を使う者も多い。

 イー・ホフ通りの警備員達が、武器として如意電撃棍を携帯しているのは、仕切っているハノイ薬幇が、華南を源流とする組織だからだろうと、朝霞は推測する。無論、客達を無用に怯えさせない為、目立たぬ如意電撃棍を選んだだけなのかも知れないと、考えもしたのだが。

 警備員達が薬幇に所属しているのは、アオザイの刺繍から明らかだ。薬幇に所属するしるしなのだろう、「薬」という東方表意文字の黒い刺繍が、アオザイの左胸には小さく、背中には大きくされている。

(あの店員が言ってた通り、刀下げた神流じゃ、揉めてたかもしれないな……)

 警備を固めている者達は、客と思われる人間の通行を、止めたりはしない。だが、いくら刀剣の携帯が許されている都市だからといって、自分達が仕切る通りに、大っぴらに武器を携帯している者の侵入を許す程、気楽な裏社会の組織は、流石に無い。

 二刀を腰から下げた神流が、そのままイー・ホフ通りに来ていたら、ほぼ確実に揉めていただろう。それは朝霞達にとって、当然の様に避けたい事態である。

 イー・ホフ通りの名を出した六人の中で、警備している薬幇の者達と、武器を携帯している神流が揉める可能性を指摘してくれたのは、最期の女店員のみ。余計なトラブルを未然に防げたのは、あの女店員のお陰といえるので、朝霞は心の中で、女店員に感謝する。

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