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河内夜曲 04

 ふと、夜のコンビニエンスストアの明かりに群がる虫の姿を、朝霞は思い浮かべる。煙水晶界に来る直前にも、そんな光景を朝霞は見た覚えがる。誘蛾灯に引き寄せられる蛾の様に、コンビニエンスストアの明かりに引き寄せられる、虫の姿を。

 光に引き寄せられる性質、走光性そうこうせいを、本能として持つが故に、虫は夜……光に引き寄せられてしまう。性欲という本能が強い、思春期の最中にいる自分が、肌を露にしている女性に惹き付けられるのは、当たり前ではあるのだろう。

 マッサージを切っ掛けと言い訳にして、幸手や神流が自分に好意を寄せ、触れ合いたがっているのを、朝霞は知っている。朝霞自身にも、魅力的な異性二人と触れ合いたいという、欲望が無いと言えば嘘になる。

 故に、切っ掛けと言い訳を手に入れた三人は、疲れた身体を癒す為の範囲を、明らかに超えた触れ合いを、楽しんでしまう。スキンシップというよりは、前戯に近い触れ合いを。

 ただ、前戯に近くとも、決して前戯とはならない。何故なら、ティナヤを相手にする時と同様、近い行為にまで及んでも、一線を越えはしないので、「前」に戯れる行為とはならないのである。

 ある程度……欲望に負けつつも、一線を越えないのは、朝霞が思春期特有の潔癖さを、持ち合わせているが故。恋人関係では無い相手と、身体の関係を持ってはいけないと……持ってしまったら、後で自己嫌悪に陥るだろうと、自分の中の潔癖な部分が、朝霞をギリギリの所で、踏み止まらせる。

 欲望に流されたい自分と、潔癖な自分とが、心の中で激戦を繰り広げ、最終的には潔癖な自分の方が勝ちはする。でも、その戦いの最中、恋人は作らないとうそぶきながら、限りなく恋人に近い存在の少女達相手の触れ合いを、楽しんでしまっている自分を、欲望に勝利した潔癖さが責め立てる。

 その程度に、朝霞は色々と拗らせてしまっている、思春期の少年というのは、面倒臭い生き物なのだ。

(今回も、これまでみたいに、なるんだろうな……)

 今まで通り、一線を越えはしないだろう。でも後で自己嫌悪に陥るのが分かっていながら、仲間の少女達と触れ合おうとする自分を、朝霞は止められはしない。

 朝霞は幸手の尻の上に跨ると、露になっている肩に、右手で触れる。熱を持った肌が、ピクリと震えるのが、手先から伝わって来る。

 豊かな胸などが醸し出す、女性的な身体のラインのせいで、誤魔化され易いが、滑らかな肌の下には、鍛え上げられた筋肉が確認出来る。普通の女の子の身体では無い、共に鍛え、戦い抜いて来た仲間の身体。

 でも、今は仲間としての感情よりは、身体の奥底から湧き上がって来る欲望の方が強い。マッサージを心の中で言い訳にして、朝霞は右手に続いて、左手でも幸手の肩に触れる。

 高鳴る胸の鼓動を聞きながら、朝霞は幸手の肩を、揉み始める。肩や首の付け根……背中から腰と、凝っていそうな筋肉を揉み解す。

 自分の腕を枕にしつつ、顔を横に向けている幸手が、唇から甘い吐息を漏らす。凝った筋肉を揉み解された心地良さというより、愛撫でも受けているかの様な、切なげな吐息。

 露骨な幸手の反応が恥ずかしく、朝霞は目線を逸らす。逸らした目線の先にいる神流と、目があってしまう。

 好意を寄せる相手が、他の異性の肌に触れている事に対する嫉妬心。同じ行為を、後で自分もされるだろう事に対する期待。そして、性的な行為に対する、思春期の少女として当然持ち合わせているだろう、欲望や好奇心。そんな欲望や好奇心を、認められない潔癖さ……。

 それらが入り混じった、複雑な瞳の色を、朝霞は目にする。含まれる要素に違いはあれども、同様に複雑な瞳の色をした幸手やティナヤも、朝霞は見た事がある。

(ま、俺だけじゃないか……色々と拗らせてるのは) 

 自分の中でぶつかり合う、面倒な何かを抱え込み、拗らせているのが自分だけでは無いと、朝霞は神流の瞳を見て気付く。心地良さ気に瞼を閉じている幸手も、神流や幸手と同行する朝霞を、一人……送り出したティナヤも、きっと似た様なものだろう。

 思春期には皆、色々なものを拗らせる。それは、とても普通の事なのだろうと思いながら、朝霞は肌の触れ合いを続ける、限りなく恋人に近い少女達を相手に……。



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