皆死野と夜空のデート 10
「一週間か……それなら、覚えようかな」
無数の星が瞬く夜空を見上げながら、ティナヤは続ける。
「私も空……飛んでみたいし」
「飛んでみたいんだ?」
朝霞はティナヤに問いかけつつ、ペンダントのミニボトルから、煙水晶粒を一粒取り出す。
「だったら、とりあえず感じ掴む為に、飛んでみない?」
「飛んでみるって、どういう事なのかな?」
問いには答えず、朝霞は袖をめくって左腕の内側に、素早く五芒星を描く。煙水晶粒が消え失せ、五芒星から灰色の煙が大量に噴出し、朝霞だけでなく、その場にいる皆が煙に包まれる。
煙玉の煙と違い、煙はすぐに周囲に散り、夜の空気に溶ける様に消え失せる。そして、姿を現した朝霞の背中には、小さな翼が出現していた。
交魔法状態の仮面者の姿では、装束と一体化していた感じの翼だった。だが、変身しない状態での乗矯術発動時の翼は、色や形は似ているが、装束……というか、朝霞が着ている青いツナギとは一体化せず、背中から十センチ程離れている。
朝霞が動くと、その翼も朝霞と同調して動く。乗矯術を発動している朝霞の身体と離れてはいるが、何らかの見えない力で、繋がっているという感じだ。
「俺も、変身しない状態での乗矯術を、試してみたいし。夜なら見付かり難いだろうから、飛んで帰ろうよ」
そう言いながら、朝霞はティナヤに歩み寄ると、その身体を抱き抱える。
「え、ちょ……ちょっと、朝霞!」
恥ずかしさ半分、驚き半分と言った感じの声を上げるティナヤを、抱き抱えた朝霞の背中の翼から、明るめの灰色に輝く粒子群が、噴出し始める。交魔法発動時とは光の色が違うが、光の粒子群が翼の様に見える風に噴出する点は、変わらない。
ティナヤを抱き抱えたまま、朝霞の身体が宙に舞い上がる。
「イダテンは二人に任せたから!」
そう言い残すと、朝霞はティナヤと共に、夜空に向って急上昇して行く。
「あ、ちょっと! 朝霞!」
神流は声をかけるが、既に声が届かない高さなのか、それとも聞こえていながら無視したのか、朝霞は止まらずに上昇を続ける。そして、小人の様な大きさに見える程の高度をとってから、天橋市の方に向って水平飛行に入る。
「追わないの?」
幸手は神流に、問いかける。イダテンを運転しなければならない幸手と違い、神流は乗矯術で追いかけても、構わないのだから。
神流はミニボトルを取り出し、蓋を開けようとするが、考えが変わったのか、ミニボトルを元に戻す。
「――止めとく。あいつがティナヤ抱き抱えてるの、見続けながら飛ぶのは、精神衛生に悪そうだから」
「そうかもね」
ティナヤを抱き抱え、飛び去って行く朝霞の姿を……いや、朝霞に抱き抱えられ、飛び去って行くティナヤの姿を、神流と幸手は眺める。先程、ティナヤが飛び回る三人を眺めていた時と同じ、羨ましげな目で。




