皆死野と夜空のデート 08
「大雑把な能力確認は終わったし、地稽古に入るか」
朝霞の言葉に、神流と幸手は頷く。
「複数の敵を相手にする場合に備えて、三人同時で! バニラを巻き込まない程度に、距離を取った上で……一分後に開始!」
「了解!」
声を揃えて、そう言い放った後、神流は乗矯術を使い、青い光を背中から放出しながら、幸手は天小岩戸のまま浮遊し、それぞれ別の方向に飛び去って行く。
「――そんなに長くは地稽古続けられないだろうから、もう少しだけ待っててよ」
ティナヤの方を向き、額の五芒星を指差しつつ、朝霞は続ける。
「みんな結構魔力使ってるんで、たぶん……五芒星が光り始めるまで、そんなに時間はかからないと思う。今日のトレーニングで使える蒼玉粒、もう残ってないし」
そう言い残すと、朝霞も乗矯術を使い、宙に舞い上がる。そして、青い光の尾を曳きながら、朝霞は飛翔して行った。
一人残される自分に気を使って、朝霞が声をかけてから地稽古に向かったのが、ティナヤには嬉しかった。嬉しい気分のまま、百メートル以上先で開始した、地稽古という実戦形式の修行を、ティナヤは観戦し始める。
二つの青い流星の様な光が、高速で宙を舞いながら、時折……攻撃らしき、強烈な光を放つ。スピードが比較的遅い、神流と思われる光の方が、攻撃らしい光は強力だ。
速い方の青い光が、揺らめきながら二つに分裂しては、元に戻る。空中でも分身の術が使えるかどうか、朝霞が試しているのだろうと、ティナヤは思う。
「地上の時より数が少ないし、足場が無いから難しいのかな?」
ティナヤの推測は正しく、空中での分身の術は、足場が無いので制動が難しく、朝霞は苦戦していた。不安定な分身を一つ増やすのが、せいぜいといったレベルで。
遠距離からでも、青いボールの様な姿が確認し易い、天小岩戸から、赤い光が放たれる。地上から天小岩戸の一枚をずらし、城壁の狭間の様に利用して、幸手が弓矢による対空攻撃を行っているのだ(狭間とは、城壁の壁などに開いている、弓矢や銃による攻撃を行う為の穴)。
赤い光……炎の矢は、打ち上げ花火の様に空中で炸裂し、数百の赤い小さな炎の矢となり、空中を飛び回る朝霞と幸手に、襲い掛かる。朝霞らしき方の青い光は素早い動きで、見事に襲い掛かる炎の矢を完全に回避するが、神流らしき青い光は避けずに、迫り来る炎の矢を、二刀を煌かせまくりながら、薙ぎ払う形で対処している様に見える。
幸手は続け様に、赤い炎の矢を放ち、次々と夜空に炎の花を咲かせ続ける。
「――収束火矢か。まるで花火大会みたいね」
賑やかで華やかな、遠くの空を眺めながら、ティナヤは呟く。収束火矢とは、多数の小さな炎の矢を、一本の矢に収束して射る、天久米八幡女の広範囲攻撃技。
対空攻撃(といっても、これまでは空を飛ぶ相手ではなく、高く跳躍して攻撃してくる相手に対するものだったが)や、広範囲の対地制圧用に使う技で、数が多い代わりに追尾能力は無く、威力も高くは無い。交魔法と無関係に、元から使える技であり、同種の火矢以外にも、雷撃能力がある収束雷矢や、極低温攻撃を行う収束氷矢などの、同種の技が有る。
空に咲き乱れる炎の花が、蜘蛛の巣の様に空に広がった金色の稲妻に、片っ端から打ち消される。空中で神憑りの鳴神を放ち、神流が収束火矢を一掃してしまったのだ。
炎の矢を一掃し終えた雷撃は、そのまま天小岩戸に襲い掛かる。だが、周囲を漂う防御壁の一枚が、それを受け止めて相殺した為、眩い稲光もすぐに消え失せてしまう。
「それにしても、随分と派手な戦闘になったなぁ……まるで戦争でもするみたい」
戦争という言葉が口を吐いて、ティナヤは不安感を覚え、背筋が寒くなる。これまでは、聖盗……泥棒の範囲での戦いでしかなかったが、多くの人が死にかねない戦争といえるレベルの戦いに、親しい三人が突入して行くだろう予感を、覚えたが故だ。
圧倒的な力を手に入れ、見せ付ける様に戦ってみせる、朝霞達の姿こそが、これから始まる戦争の予兆に、ティナヤには思えてしまう。ナイルに見せられた歴史書に、記され描かれていた、交魔法を使う聖盗達が香巴拉の八部衆と戦った、あの戦争の再来が、間近に迫っているのかもしれないと、ティナヤは予感せざるを得なかった……。




