皆死野と夜空のデート 07
「――九枚も減ると、結構穴だらけになるね」
天岩戸の中で、防御板の状態を視認しつつ、幸手は続ける。
「これだけ穴だらけになると、複数方向から同時攻撃受けると、天岩戸を回転させても、攻撃が穴を通り抜けて来ちゃうだろうな」
天岩戸は幸手の意志通りに動くので、攻撃が来るだろう方向に、穴が開いてない方向を向ける形で、幸手は天岩戸を回転させて防御する。打突型ではなく、放出型の鳴神を受ける際、幸手は穴の開いていない側を、神流の方に向けていた。
「天小岩戸も、試してみる!」
そう幸手が言った直後、天岩戸の防御板は、接続を解除して分離する。防御板は幸手の周囲の空中に、浮いたまま漂っている。
残っている防御板は、正六角形が十八枚、正五角形が五枚。この内、正六角形の防御板が十二枚、再び幸手の周りに集まって合体し、正十二角形の防御殻を作り出す。
十二枚の防御板で作り出す防御殻は、三十二枚の防御板が形作る防御殻に比べれば、かなり小振り。それでも幸手や、その周囲にいる人間を守れる程度の大きさがある。
この、正六角形の防御板だけで、小さな防御殻を作り出すのが、天小岩戸。防御板の枚数が減った状態で、全方位防御を行う為の機能だ。正六角形の防御板が十二枚残っていない場合は、正五角形の防御板を正六角形に変形させるので、防御板が十二枚残っていれば、天小岩戸は作り出せる。
「天小岩戸、成功……だけど、かなり狭くなったな」
余った十一枚の防御殻は、天小岩戸の周囲を漂っている。この余った防御板も、幸手は自由自在に動かし、攻撃の防御に使えるのだ。
「余った防御板の移譲、試してみる! 朝霞っちも神流っちも、使ってみて!」
移譲とは、言葉通り……防御板を他者に譲り、移す事だ。天小岩戸状態の際、余った防御板は、幸手が望む相手に、譲り渡す事が出来るのである。
防御板を移譲された者は幸手同様、防御板を思うがままに動かし、身を守れるのだ。絶対防御能力を持った、防御板で。
朝霞と神流の元に、それぞれ五枚ずつの防御板が飛んで来る。防御板は二人を守る様に、周囲を漂い始める。
「思った通りに動かせるはずだよ、放っておいても自動でガードしてくれるけど」
「自動でガードねぇ……」
幸手の説明を聞いた朝霞は、興味深げに自分の周囲を漂う防御板を眺めつつ、神流に声をかける。
「エロ黒子、ちょっと俺に攻撃仕掛けてみてよ!」
「エロ黒子……ゆーなッ!」
天小岩戸の近くにいた神流は、朝霞に向かって跳躍する。神流の周囲を漂っていた防御板は、神流と一体化しているかの様に、神流と共に移動する。
朝霞の手前に着地すると、神流は長刀だけを抜刀。防御板の隙間を狙い、朝霞に斬りかかる。目にも留まらぬ早業といえる抜刀ではあるが、その刃は朝霞に届かない。
防御板の一枚が瞬時に移動し、斬撃を受け止めたのだ。鐘の鳴る様な通りの良い音を響かせるだけで、防御板には僅かに傷が残るだけだ。
「――成る程、こりゃ凄い」
朝霞は防御板の自動ガード能力の高さに、感嘆する。絶対防御能力を持ち、神流の抜刀術にも対応出来る、防御板の自動ガード能力は、かなり使い物になると考えたのだ。
「あたしにも攻撃してみてよ!」
神流に頼まれた朝霞は、地面を蹴って跳躍。神流の真上……十メートル程の高さに移動すると、そのまま急降下して神流に襲い掛かり、蹴りを放つ。
防御板に守られていない、真上からの奇襲だったのだが、防御板は一瞬で神流の真上に移動し、朝霞の蹴りを受け止める。鐘の音の如き音を響かせつつ、防御板は完全に神流を守り通す。
「これだけの精度と速さで、自動でガード……おまけに絶対防御能力持ちか。こりゃ相当に使える能力だな」
頭上に移動して、自分を守ってくれた防御板を見上げながら、神流は感想を漏らす。
「交魔法で俺達が得た新能力で、一番使えるの……乳眼鏡の天岩戸みたいだね」
防御板を蹴り宙を舞ってから、元の位置に着地した朝霞も、そんな感想を口にする。
「まぁ、でも……私はスピードやパワーが、二人みたいに上がってないし、増えた能力は天岩戸だけで、攻撃系の強化は無いも同然だから」
やや照れた様に謙遜の言葉を口にしつつ、防御板移譲の確認を終えた防御板を、自分の元に戻す。防御板は再び、天小岩戸の周囲を漂い始める。
基本的な能力特性が、大幅に強化されつつ、尚且つ新しい攻撃能力や撹乱能力を得たのが、朝霞や神流。逆に、基本能力は余り強化されなかったが、防御能力が集中的に強化されたのが、幸手といえる。




