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皆死野と夜空のデート 04

「あの煙幕、トレーニング場の時みたいに、旋風崩しで吹き飛ばせないのか、試してみていいか?」

 飛行能力を試し終えた神流が、朝霞の隣に飛んで来て問いかける。トレーニング場の時は、かなり加減して旋風崩しを放ち、煙を吹き飛ばそうとして失敗したので、加減しなければ吹き飛ばせるかも知れないと、神流は考えたのだ。

「吹き飛ばせないと思うけど、どうぞ……お好きに」

 朝霞の了解を取った神流は、煙幕のドームとイダテンの間、かなり煙幕のドームに寄った地点に降下する。そして、二刀を抜き……両脚を開いて身を捩り、構える。

 目にも留まらぬ早業で、身体を回転させつつ、神流は二刀を振るう。超高速で回転するスクリューと化した神流の全身が、周囲の大気を一瞬で巻き込みつつ、強烈かつ巨大な空気の渦を作り出す。

 交魔法のせいだろうか、普段の仮面者の時より、明らかに威力は数倍高い。旋風つむじかぜというよりは、既に小規模な竜巻と表現した方が良さそうな、神流が作り出した暴風の渦は、轟音と共に煙幕のドームに向かって、高速で突き進んで行く。

 土砂や小さな岩などを暴風に巻き込んだ空気の渦は、あっという間に煙幕のドームに接近し、衝突する。だが、ドーム周辺の地面の土砂を吹き飛ばしはするが、煙幕自体には何の影響も与えず、空気の渦は威力を失い……消滅する。

 その光景を目にした神流は、悔しげに言葉を吐き捨てる。

「――駄目か」

 煙幕がトレーニング場の時と同様に、吹き飛ばせないのを確認した朝霞は、ティナヤの元に降り立つ。飛行能力を試し終えた幸手も、朝霞に続いて、ティナヤの元に降下する。

 煙幕を吹き飛ばすのに失敗した神流も、飛びはしないで数度跳躍し、ティナヤの所に移動する。黒猫団の三人は、ティナヤのいる場所に皆、移動したのだ。

「ま、俺の煙玉は試し終えたし、次はエロ黒子か乳眼鏡の番だな」

「エロ黒子ゆーな」

 お約束といえる突っ込みの言葉を吐いてから、神流は続ける。

「じゃ、あたしから。危ないかも知れないんで、念の為に少し離れるよ」

 神流は軽く跳躍し、イダテンから二十メートル程離れる。そして、朝霞達が右後方に見える方向を向き、二刀を抜いて中段で構え、切先を正面に向ける。

 目を瞑り、深く何度が深呼吸した後、意を決した様に両の目を見開き、気合の入った声で叫ぶ。

神憑かみがかり……鳴神なるかみ!」

 すると、二刀が金色の光を放ち始め、その間をスパーク状の稲妻が行き交い始める。スパークは二刀の間だけでなく、神流の周囲に飛び散り、辺りの地面に直撃して穴を穿つ。

 左足を下げる形で脚を開きつつ、神流は両手を振り上げ、上段に移行する。そして、一瞬で二刀を、振り下ろす。

 二刀が纏っていた稲妻は、二刀から離れると、神流の正面の景色を、一瞬で金色の眩い光で塗り潰す。そして、大爆発でも起こったかの様に、爆音が大気を震わせ、砂礫や岩の破片が、あちらこちらにスパークと共に飛び散る。

 巨大な雷が続け様に、神流の正面に落ちたかの様な、強烈な金色の光と爆音が止み、舞い上がった土煙が収まる。すると、神流の前には、巨大な穴が穿たれていた。

 朝霞が通っていた高校の敷地が校舎ごと、そのまま収まりそうな程に、深く広い穴が……皆死野の荒野に、ぽっかりと口を開けていたのだ。神流の布都怒志の攻撃能力は、仮面者の中でも最高レベルなのだが、その布都怒志ですら、これ程の威力を持つ攻撃技は、今まで持ってはいなかった。

「神憑り……神の力を刀に宿して、攻撃に利用する能力。鳴神っていうのは、俺等の世界での雷神……雷の神様。つまり、雷神から得た雷の力で、攻撃を放ったって訳」

 呆然とした表情を浮かべているティナヤに、朝霞は神流が新たに得た能力を説明する。

「まぁ、実際は本物の神様の力を宿しているんじゃなくて、エロ黒子がイメージする雷神の力を、自分で作り出し……刀に纏わせて、攻撃しているんだけど」

「神憑り自体は、まだ新しく発生した魔術式に、未完成の部分が有るから、交魔法のレベルが上がると、未完成の部分が出来上がって、雷以外にも刀に纏わせられる属性が、増える可能性あるよ」

 幸手の言う通り、交魔法にはレベルがある、しかも六段階。レベルが上がる度に、額の六芒星の五芒星が、増えるのだ。

 一つの角にしか五芒星が存在しない、今の三人のレベルは、レベル1。六芒星には角が六つあるので、レベルの上限は6。

 レベルが上がれば上がる程、仮面者の能力は上がる。だが、その代わりに動作が不安定になっていくので、極力レベルを上げるべきでは無い……特にレベル4以上は死に繋がる恐れがあるので、可能な限り使うなというのが、解説書の記述だった。

 ナイル自身もレベル6で能力が不安定化し過ぎた結果、仮面者になる能力自体を失った。仲間の多くも、激化する八部衆との戦いの中、高い能力を求めてレベル6に手を出し、能力を失ったり、身体に障害が残ったり、死んだりしたらしい。

「強過ぎる力は麻薬に似ている、決して溺れる事勿なかれ」

 そんな言葉が解説書には、何度も記してあった。香巴拉と戦えば、より強い力を欲する様になり、その力は交魔法のレベルを上げれば、手に入る可能性がある。

 だが、交魔法のレベル上げは、己を滅ぼしかねない、諸刃の剣。その事を常に心に留めておかねば、過去に交魔法に手を出した多くの聖盗同様、身を滅ぼす道を進む羽目になるという意味合いの、先達のアドバイスなのだろうと、朝霞は解釈している。

 ふと、解説書で繰り返されていた言葉が、頭に甦った朝霞は、ぼそりと呟く。

「まぁ、極力……そのレベル上げを経験しないで、済ませたいんだけどな」

 朝霞の呟きに頷いてから、幸手が口を開く。

「じゃ、次は……私の番ね」

 神流程ではないが、幸手も朝霞達から距離を取る。大雑把に、十メートル程。

「鳴神の威力、見た? 凄くないか、これ? これだけの威力が有れば、八部衆だって……」

 神憑りの鳴神を試し終え、はしゃいだ様子で戻って来た神流は、幸手と擦れ違い様に、声をかける。

「強過ぎる力は麻薬に似ている、決して溺れる事勿れ……だよ」

 淡々とした口調で、幸手は神流を窘める。幸手も朝霞と同じ言葉を、思い出していたのだ。

「――分かってるって、そんな事」

 指摘されて気付いたのだろう、やや気恥ずかしそうな口調で言い捨ててから、神流は朝霞の元まで早足で戻って来る。そして、朝霞の隣に立ち、幸手の様子を見守り始める。

「俺も……色々と新しい能力試してた時には、あの警告……忘れてたよ」

 自省しているのか、無言の神流を慰める様な口調で、朝霞は続ける。

「思い出したのは、鳴神の威力見てからだ。自分で新しい力を試してる時には、思い至らないものなのかな」

「――だろうね」

 ぼそりと、神流が呟いた直後、幸手の声が響いて来る。

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