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皆死野と夜空のデート 03

(でも、今は他に優先する事があるから、高高度飛行の訓練は後回しだ)

 もう少しだけ、壮大な景色を楽しみたいとは思ったのだが、朝霞は空中停止を解いて、急降下し始める。飛びたいと思った速さに、やや重力が力を加えるのか、上昇した時よりも加速しがちに、朝霞には感じられる。

 高度三百メートル程で、頭を天橋市とは逆方向……飛んで来た方向に向け、朝霞は水平飛行に切り替える。

(次は、色々と向きを変えたり、スピード変化させたりして、運動性能を確かめてみよう)

 高速での水平飛行から、様々な方向に急カーブを繰り返したり、急上昇や急降下を繰り返したり、空中で円や8の字を描く様に飛んだりと、傍から見ていると無茶苦茶だとしか思えない、アクロバティックな飛行を繰り返した。

 朝霞だけでなく、神流や幸手も似たような事を試し始めた様で、皆死野の空には、三つの青い光が、無茶苦茶な軌道を描きながら、飛び回っている。

「ずるいな……三人ばっかり」

 イダテンに寄り掛かりながら、空を自由自在に飛び回る三人を見上げ、ティナヤは羨ましげに呟く。自分だけ放っておかれ、仲間外れにされたかの様な気がしてしまったのだ。

「朝霞が圧倒的に、速くて動きが良くて、次が神流……幸手は空でも遅いんだ。地上でのスピードや運動性能が、そのまま反映されてる感じかな、乗矯術の飛行能力は」

 単に羨んで空を見上げているだけでなく、一見無茶苦茶に見える飛び方が、おそらくは最高速度や高度、運動性能などを確かめる為の動きだろうと、ティナヤは察していた。その上で、そういった感想を抱いていた。

(だいたい、現時点での運動性能は、こんなもんだろう。まだ空中姿勢の取り方とかで、空気抵抗とか減らせるだろうし、飛び続ければマシになるかもしれない)

 現時点での飛行能力を、大雑把に確かめ終えた朝霞の頭の中に、本来の目的が甦る。右手に持ったままの、煙玉の屋外でのテストと、ティナヤへの披露を。

 朝霞はイダテンの辺りに向かって、餌の小動物を狙う猛禽類の様に降下すると、着地する。

「――悪い! 離れた所の上空まで飛んで、煙玉投下しようと思ったら、つい飛行能力がどんなもんだか、試したくなっちまった! 今から煙玉試すから、見といてね!」

 ティナヤに声をかけると、朝霞は再び宙に舞い、斜め上に向かって急上昇して行く。そして、イダテンから天橋市の方向に三百メートル程離れた、高度三百メートル辺りで減速し、空中停止状態に入る。

(この辺りでいいか)

 朝霞は心の中で呟きながら、右手に握っていた煙玉を落とす。重力に引かれて加速しつつ落下して行く煙玉は……すぐに地上で炸裂する。

 投下した朝霞の目線の先で、火山が噴火でもしたかの様に、煙が猛スピードで広がり始める。煙が形成する半球状のドームが、どんどん巨大化を続ける。

(まさか……ここまでは来ないだろうけど、一応……逃げとくか)

 朝霞は空中停止を解除し、その空域を猛スピードで離れ、イダテンの上空辺りに移動する。すぐに振り返り、煙の状態を確認する。

 時間にして、数秒足らずだったが、朝霞が煙の状態を確認した時、既に煙のドームの拡大は、止まっていた。朝霞の目測では半径百メートル程だったので、高度三百メートル辺りにいた朝霞は、逃げる必要は無かったといえる。

「これだけの空間を、一発で何も見えなく出来るのなら、逃げ遂せられる確率、高そうだな」

 閉鎖空間で使うと、自分まで完全に視界を奪われ、何も出来なくなるのは、朝霞自身が思い知っている。出口が分からないなら、壁や天井などを攻撃して崩せば、出口を作れる事は作れるのだろうが、目が見えない状態でやれば、無関係な人間を殺傷する可能性があるので、それは朝霞は避けたいのだ。

「いや、でも……閉鎖空間でも炸裂させる前に、出口の目星をつけておけば、使えない事も無いのかも……」

 トレーニング場では、うっかり炸裂させてしまった為、自分がトレーニング場の何処にいて、どの方向を向いているかを、朝霞は把握し損なっていた。故に、視覚が潰された状態で、身動きがとれなくなってしまったのである。

 朝霞は一応、換気扇の音などで、大雑把な位置を探ろうとはしてみたのだが、視覚だけでなく、音の響きまで撹乱する効果があるらしく、位置の把握は無理だった。

「撹乱能力は高いんだけど、敵だけでなく、自分や味方にも作用するから、安易に多用は出来ないと思っておいた方がいいか」

 眼下に広がる、巨大な煙のドームを見下ろしながら、煙玉の性能や使い方について、朝霞が色々と思いを巡らせている頃、同じ物を地上から見上げつつ、ティナヤは全く別の感想を抱き、呟いていた。

「黒いキノコみたい……」

 半球状の、暗いせいで黒く見える煙のドームを、ティナヤはそんな風に表現する。

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