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覚悟と壁の向こう側 15

 神流は斬り上げていた長刀を、そのまま片手だけで袈裟懸けの形で振り下ろし、峰打ちで朝霞の右肩辺りを狙ったのだ。

 斬り掛かった体勢が不安定だった為、地面を蹴れず、高速移動では逃げられないと悟ったのか、朝霞は篭手風のプロテクターに守られた腕を十字に組み、長刀の峰打ちを受ける。いわゆる十字受けという、防御方法である。

 激しい衝撃と打撃音と共に、朝霞の身体が沈む。強力な脚力を持つ脚を中心に、全身をばねにして衝撃を殺すが、それでもコンクリートの床……朝霞の足元に、衝撃で細かく皹が入り、破片が飛び散る程に、峰打ちといえど衝撃は強い。

「くっ!」

 軽く呻きつつ、朝霞は十字に受けた腕を右に崩し、右腕だけで神流の長刀を身体の右側に流す。そして、空いた左腕を神流の身体に伸ばす、張り手の様に。

 予め朝霞自身が記述した魔術式を、与える黒に仕込んである左手が、神流の身体に届く寸前で、朝霞は左側に体勢を崩してしまう。結果、朝霞の左手は空を切り、神流に触れられない。

 長刀を右腕だけで流した時点で、朝霞が与える黒を狙って来るのを読んでいた神流は、右足で朝霞の脚を払い、体勢を崩したのだ。そのまま神流は、体を落として左足だけで床を蹴ると、朝霞の右側面に左肩で体当たりする。

 体格差のある小兵の力士が、大兵の力士のぶちかまし(いわゆる体当たり)を食らったかの様に、あっさりと朝霞は吹っ飛ばされ、コンクリートの床の上を転がされる。数回転した後に、何とか受け身を取って、素早く起き上がると、そこは壁際……ドアの近く。

 朝霞の視界に、幸手だけではなく、その傍らで呆然とした表情をしたまま、自分を見ているティナヤの姿が映る。朝霞は神流の方に右手を開いて突き出し、制止の意志を伝えると、ティナヤに歩み寄る。

 朝方、ティナヤが少し不機嫌だった事など、忘れてしまったかの様な気楽な口調で、朝霞はティナヤに語りかける。まるで、新しい玩具を手に入れた喜びで、友達との喧嘩の事など、頭の中から消え去ってしまった子供みたいに。

「帰ってたんだ、お帰り! 稽古に夢中で、気付かなかったよ」

 ティナヤの方も、これまた今朝方の事に関するモヤモヤなどは、驚きの余りに吹き飛んでしまった感じで、朝霞に問いかける。

「――今の、何なのかな? スピードとか……これまでと全然違うし、透破猫之神は……飛び道具投げたり、斧を使ったり……」

「普通、一番驚くのは……分身の術の方じゃない?」

 そんな朝霞の疑問には、幸手が答える。

「それは私が、説明しといたから」

 納得したとばかりに、朝霞は頷いてから、ティナヤに説明を始める。

「飛び道具は手裏剣、前に話した事があると思うけど、透破猫之神のスタイルの元になってる、忍者が使う飛び道具なんだ」

 朝霞は腰の袋から取り出した、青い硝子風の素材で出来た手裏剣と、トマホーク型の小型の斧を、ティナヤに見せる。右手には手裏剣、左手には斧を持って。

「これが手裏剣……六芒星みたいな形してるね」

「――だから、一応六芒手裏剣ろくぼうしゅりけんって名前にしたんだ。斧の方はトマホークに近い形状ではあるけど、特に特徴無いんで、そのまんま斧ね」

「どっちも硝子みたいで、さっきも神流に簡単に壊されてたけど、武器というには脆過ぎるんじゃないのかな?」

 ティナヤは六芒手裏剣や斧の、刃が無い部分に指先で触れ、質感を確かめながら、朝霞に問う。

「それが……見た目と違い、丈夫なんだ……それ。少なくとも、並の仮面者が持つ刀剣以上の、強度は有るよ」

 問いに答えたのは、三人の元に歩み寄って来た、神流だった。

「六芒手裏剣の方は、ある程度は朝霞の思い通りに、コースも変えられるみたいだし、数の制限が無いみたいだから、牽制に相当役立つと思う」

「――とかいいつつ、全部あっさり破壊してたじゃねーか、エロ黒子」

「まぁ、あたしの二刀は特別だからね……って、エロ黒子ゆーな!」

 実際は、二刀の強度や切れ味以上に、神流自体の技量に負う部分が大きいのだが、神流は自分の技には触れずに、話を続ける。

「斧も強度は悪く無いけど、リーチは短いし、こっちは微妙かな。そもそも忍者由来の透破猫之神なら、忍者刀やら苦無くないやら、他に色々と忍者風の刀剣の類は有るだろうに、何で斧なんだか……しかも、西部劇に出て来そうな、トマホーク風の奴」

「斧は便利でいいんだよ、戦闘以外にも色々使えるから」

 気に入った玩具でも見せびらかすかの様に、斧を見せ付けてくる朝霞を見ていたティナヤの頭に、一つの疑問が浮かぶ。

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