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クリスマス

遅刻しました・・・

一日遅れのクリスマス。


これは完全・IF番外ストーリーです。

本編には一切関係ありません。

・・・・関係してる部分もあるような気がしますが、それは放置で。


これからもよろしくお願いします。

『クリスマス』

 そう、クリスマス。

 あの赤鼻のトナカイに乗って、老人が空を駆ける日であり、世界的に有名な聖人の誕生日である。

 豆知識となるがイタリアではこの日を『ナターレ』と言い、親戚や家族と過ごす日であり、一月六日までイタリアではクリスマスが続くらしい。

 およそ二週間のクリスマス、これを知った時はおもわず楽しげで羨ましいと思ったものだった。




 俺はまずこのクリスマスの一か月前に、行いたいことをまとめた企画書を書き、華琳に提出。

 許可が出たことを確認してから、作りたい物にかかる費用を仕事の休憩時間を利用して算出。人手も手配し、飾りつけは暇なときに遊んでいる子どもたちに頼んで作ってもらった。

 折り紙は手先を器用にさせるし、飾りも作れる素敵な遊びだと実感した。何より本が好きな子たちでも簡単に人の輪の中に入って行ける。遊びまわるのが得意な子と仲良くする姿は、とても微笑ましかった。

 ツリーの方はこれを飾りつけして、町のあちらこちらに飾るだけとなる。

 それが終わった後、俺はまず天和たちの元へと走った。


「というわけでさ、『冬』を元にし、子どもだって口ずさめるような曲を頼めないかな?」

 俺は入ってすぐに三人へと、事情を説明して深く頭を下げた。

「冬雲さん、とりあえず頭をあげてください。

 せっかく来てくれたあなたの顔が見れないのは、私たちが嫌です」

 人和の手に導かれて俺は頭をあげると、天和は笑って俺を抱きしめる。

「う~ん、久しぶりの冬雲成分補充~」

「いつから俺の体は、成分表示化されるようになったの?!」

 天和の発言に突っ込みつつ、難しそうに考え込んでいるのは地和だった。

 歌に関して任されているのは地和であり、天和は歌唱力、人和はその他の雑事を任されている。あの時も俺がしていたのは支援者(スポンサー)である華琳と繋ぐことと、公演の場の用意だった。

「難しい、かな? 地和」

「・・・・・そうね、冬雲の季節だし。

 少し書いたっていいわよね」

 小さく何かを呟いて、地和は筆を手にして何かをその場に書き綴る。その集中力は仕事をしているときの華琳を彷彿させ、声をかけることも憚られるほどだった。

「人和・・・・ 地和のこれって何なんだ?」

 とりあえず、今は声をかけてはいけないことはわかったため、小声で人和に確認すると苦笑しつつ首を振られた。

「地和姉さん、曲を考えてる時(こうなると)は何も聞こえないので」

「でも、この状態のちいちゃんなら大丈夫。

 大船に乗った気持ちでいてね、冬雲」

 そう言って俺を抱きしめて離さない天和と、さりげなく右腕から離れない人和。そして、その耳元に天和がそっと囁いた。

「あの調子だと、もしかしたら冬雲への愛の歌になるかもだけどね」

「?!! 嬉しいけども!

 そういうのは俺にだけ、みんなに広めたいから!

 頑張って、そうじゃないようにしてくれよ?!」

 真っ赤になり、熱くなる顔を隠すようにして俺は立ちあがった。

「じゃ、そういうことで歌の方は頼むよ!

 また来るから!

 それから、大好きだ!!」

 俺はそう言って、真っ赤な顔のまま外に駆け出していった。



 顔の火照りが落ち着くのを待ってから、今度は流琉の部屋へ。

「入るぞ? 流琉」

 戸を数度叩いてから、その場で声をかける。

「あっ、兄様。どうぞ」

 返事が返ってきたのを聞いてから扉を開けるとそこには、そこには・・・・


 チャイナ服を纏った季衣と流琉、その色合いは赤と青。

 季衣はいつも二つに括っている髪をお団子にまとめ、流琉は短めの髪をうまくまとめ一つのお団子にしていた。

 互いが尊敬する春蘭と秋蘭を意識したのだろうその衣装は、色気と言う面においては物足りないが、可愛らしさと言う面において最上級の威力を発揮していた。

 何この子ら、可愛すぎる!!!

 冷めたばかりの顔が熱くなるのを感じ、音を立てながら口元に手を当てる。

「すごく可愛いぞ・・・・ 二人とも」

 目を逸らしつつそれだけ言い、半ば目的を忘れかける。懐に用意しておいたケーキの作り方を書いた書簡を置く。

 生クリームの作り方は何故か雛里が知っていたため任せたが、本来生クリームは非常に手間がかかるものだと記憶している。殺菌していない牛乳を放置し、脂肪分と水分にわける作業が困難を極めるため、天の世界ではまず家庭で牛乳から作ることはしないだろう。

「その、クリスマスっていう行事でな?

 作ってほしい菓子があって、考えてくれるだけでいいから頼む。

 材料とかの経費は俺に言ってくれればいいし、そのほかに何かあったら、俺に言ってくれ」

 春蘭とかで見慣れている筈のチャイナ服、だというのになんだろう。二人が着ると健康的で可愛いのに、見ていることが後ろめたい。

 露出度的には普段着と変わらない筈だというのに、何故だろうか?

「はい! 勿論、やらせてもらいますね!」

「僕も手伝うよ! 流琉」

 直視しないように気をつけながら、料理に関して思い出したことを付け足しておく。

「あぁ、それからくれぐれも竈の使用には気を付けるようにな?

 慣れてきたとはいえ、油断は禁物だぞ?」

「はーい、兄ちゃん」

「はい、料理に油断は禁物ですからね」

 わかっている様子の二人に俺は頷いて、次の場所へと向かった。


「沙和! 知り合いの衣服系の店で、仕立てが早い店ってあるか?」

 町中を駆けまわってようやく目当ての人に出会い、肩を掴んで詰めよった。

「隊長、こんなところで情熱的なのー」

 俺のその様子に顔を真っ赤にして、そう呟く沙和に俺もまた赤くなる。すぐさま手を放し、少し距離をとる。

 急いでたからって、俺は何やってんだ?!

「こ、これは! いや、好きだけど、慌てていて・・・・ その」

「隊長・・・ いつものおふざけやん。

 何、真にうけとんねん」

 その横には真桜が並び、呆れた視線を送ってきたので俺が改めて沙和を見ると沙和は楽しげに笑っていた。

「ふざけたのもあるけど、隊長大好きなのー!」

「沙和? 凪に言いつけますよ?」

 そうして沙和が抱きつこうとした瞬間、白陽が影から飛び出し笑顔と手で顔を押さえつける。

「それは勘弁なのー!?

 許してえぇ、白陽ちゃん」

「ならば、この書簡に書いてある意匠をあと一か月以内に作れるように手配してください。

 大量生産、大きさはそれぞれ用意し、人手等も凪に言っておいてください」

 白陽が、三人に会ってからどんどん逞しくなっている気がする。

 弱みを握って、仕事をごり押しって・・・・・

 どうやら同じことを思っていたらしい真桜も苦笑し、俺も笑う。

「それじゃ、寒いけど警邏頑張ってくれよ。

 これで、あったかいものでも食っとけ」

「おおきに。隊長」

 そう言って手を振りつつ、その場を後にした。

 とりあえず俺も昼に食べるものを買い、白陽を追い出すように諸々の準備を頼んで、ある場所へと向かった。




 クリスマス当日、一か月前から準備した甲斐があって、町はいつも以上の賑わいをみせ、俺はおもわず頬を緩める。

 俺自身は贈り物の準備のために徹夜明けだが、何とか全員分完成させることが出来た。材料であるものから手配することにも、創り方を覚えるのにもは相当な時間がかかったが、それは仕方ないだろう。今夜にでもそれぞれの部屋の前にこっそり置いておけば、作戦成功だ。

「眠い・・・・」

 白陽に休みを与え、追い払うようにして一人の時間を作ったので、影に彼女の気配はない。

 徹夜明けは食事をとる気分にもなれずに、とりあえず町を見に来た形だ。

「あぁ、だけど楽しそうでよかった」

 昨日の昼間に二人を手伝ったクッキーを子どもたちに配るのも順調に行われているようで、広場には子どもたちの笑顔が溢れていた。

 が、わずかな胸の痛みを感じ、俺はそこから目を逸らす。

「・・・・それにしても、眠いな」

 俺は怪しい足取りで、音のない方へと吸い込まれるように歩いて行った。



 草と土の香り、それからやわらかな感触と優しい匂い。そして、暖かな手の感触に目が覚める。

「・・・・・・起きたかしら?」

 目をわずかにあけるとそこに居たのは、夢那。

「メリークリスマス、私の旦那様」

 寝ぼけながら、俺は彼女が優希であることを知る。そして、この事実を俺は目が覚めた時には忘れてしまうのだろう。

「・・・・俺の部屋、執務机の二重底の一番奥に二つほど贈り物がある。

 よかったら、受け取ってくれないか? 夢那」

 その贈り物は優希ではなく、彼女のためのもので再会した時に同じものを渡そうと思っていた。

 それだけ言うと彼女は一瞬だけ驚いたような顔をしてから、幸せそうに笑んで唇が近づいていく。夢と現実の境のような中で、俺の彼女だけのほんのわずかな時間がそこには確かに流れていた。

「ありがとう、冬雲」

 それだけを聞いて、俺は再び眠りへとおちていく。

 忘れてしまうだろうこの時を今だけは心に焼き付けて、また出会えるその日を願い、俺は眠りの中へと落ちていった。



「隊長! こんなところで寝られていたら、風邪をひいてしまいます!!」

 次に俺を起こしたのは凪の声、見れば空は暗く、丸一日眠ってしまったようだった。地面で寝ていたせいか体は痛く、だが何故だか心には温かなものだけが残っている。

 良い夢でも、見ていたのかもしれない。

「おはよう、凪」

「そうではなく! 隊長が居ないので皆心配しています!!

 白陽に至っては、城中のあちこちを隠れることも忘れて走り回っているほどですよ!」

 珍しく怒る凪に俺はなんだか笑ってしまって、その手を任せて歩いていく。

「それは悪かった。

 最近、忙しかったからついな」

「そうですね、この一か月本当にあちらこちらに走り回られている姿を、誰もが見ていました。

 ですがだからこそ、隊長はこの行事を誰よりも目に焼き付けなければならないのです。

 何より、宴会の準備をして城にて、隊長を待っています」

 雪がはらはらと振りだし、俺は上着を脱いで凪の肩にかける。体が冷やすのは体に良くないし、体調を崩してほしくないからなぁ。

「隊長は・・・ どうして、こういうことを普通に・・・・」

「うん? どうした?

 冷えるから、少し急ぐか。あんまり時間をかけると、歩きにくくなるだろうしなぁ」

 頬を赤らめる凪の冷えた手を取ろうかと考え、やめる。凪だったら、俺の冷えた体を心配しかけない。

「隊長!」

 突然俺を呼び、その場に立ち止まる凪に俺も立ち止まる。

「どうした? 凪」

「・・・・ここのところ、何かを物思いにふけることが多かったように思ったのですが、気のせいでしょうか?

 とても寂しげで、後ろめたそうにされていたような気がして・・・ 今もどこか寂しげに見えたので、その心配になってしまって」

 不安げで、心配をする凪の言葉に俺はまるで心を見透かされたような気がした。

「・・・・俺は、あっちにも誰かを置いてきた。そのせい、かな」

 雪を掌にのせて、少しだけ笑う。

 こんな日くらいは、多くを我慢してくれているこの乱世の子どもたちに贈り物をしたいという気持ちもあっただろう。

 だがそこには、確かに俺の後悔や後ろめたさから生まれたものも含まれている。

「俺って、身勝手で我儘なんだよ。凪。

 結局全部、捨てて来たものすらここに欲しいと願ってる。無理なのにな」

 数歩ずつ歩いて、凪へと振り返る。

 本当に、俺は我儘だ。置いてきたというのに、捨ててきたというのに、あの子たちもここにいればいいと思ってしまっている。

「想うことすら俺の身勝手で、後悔することも俺の気持ちを楽にするためだけのものなのに」

「それは違います! 隊長!!」

 俺の手を痛いほど握り、まっすぐに目を見てくる黒みを帯びた赤。

 その目があまりにも真剣で、俺は目を逸らすことが出来なくなっていた。

「想ってあげてください! どうか、忘れないでいてあげてください!!

 それがたとえ誰に自己満足だと映っても、私は・・・・ 私たちはわかっています!」

 まるで自分のことのようにその目を潤ませて、俺の手を包んでくれた。

「同じ場所にいなくても、忘れられることは、思われないことは・・・・

 そこに居た者の存在を否定されることと同じだと、思います」

 一つずつ選ぶように慎重に選ばれるその言葉は重く、実感がこもっていた。

 それはおそらく、俺が居なくなった日の後に考えてしまっていた考えの一つだったのだろう。

 俺が消えたことは、どれほど深く彼女たちを傷つけたのかなど、俺には想像することしか出来ない。

「苦しくても、辛くても、悲しくても、想っていてあげてください。隊長。

 共に背負うなどとは力不足な私では言えませんが、私は隊長の傍を絶対に離れません。

 だから、隊長。一人で頑張らなくて、抱え込まなくていいんです。

 隊長のことを支えたい者はたくさんいるんですから!」

 雪の降る寒い中だというのに、俺は温かさに包まれたようなそんな錯覚を抱く。その嬉しさを誤魔化すように、俺はおもわず凪を抱きかかえてしまった。

「た、隊長?!」

「俺、結構重いぞ?

 それでもいいのか?」

 こんな俺、いろいろ抱えて面倒事を増やす俺をそんなことを言ってくれるような心の広い人たちはほんの一握りだろう。

「と、当然です!

 隊長はそれを、私たちに当たり前のようにやってくださったんですから、どうか今度は私たちにあなたを支えさせてください!!

 心からお慕いしています。隊長」

 その言葉が嬉しくて、俺はそのまま凪を抱えて町を通って見せびらかすように城まで駆けていった。



ちなみに冬雲が送ろうとしていたプレゼントは、マフラーです。

全員分、模様・柄無しのそれぞれの髪の色をメインに、瞳の色で真名を端に作ったお手製です。


次は本編か、視点変更かというところですね。

今週は結構、投稿を頑張っているので、来週になる可能性もありますねぇ。


感想、誤字脱字お待ちしています。

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