雪の日
お久しぶりです。投稿が半年近く出来ず、本当にお待たせしてしまいました。
また、待っていてくださった皆様、本当にありがとうございます。
リアルであったことをザックリ話すと
左の指一部壊死及び体中に蕁麻疹発生 → 退職 → 引っ越し → 求職活動 → 求職活動終了及び執筆再開(←今ココ)
というわけです。
現在は執筆の調子を取り戻すために過去に書いた番外の欠片を完成させたり、本編の執筆を急いでいます。
まだまだ全快とは言えませんし、週一投稿は続けることは困難ですが、書きあがり次第投稿していこうと思いますので、これからもどうかよろしくお願いします。
世界の全てが白く染まり、今なお空から白が降ってくる世界の様子を俺は城壁の上に立って静かに眺めていた。
「冬雲様、体が冷えます。
どうか、室内へ」
「いや、警邏隊の皆も働いてるし、俺もこの光景を見ておきたいんだよ」
白陽の気遣いの言葉を断り、街で雪下ろしや炊き出しに精を出す警邏隊を見ていた。
「やっぱり、雪は大変だよなぁ」
天の国でも大雪の際は何かしらの被害をだし、交通を滞らせ、あちこちで多くの被害を出していた。どれほど人間が発達しても天災には勝てないということは、向こうが証明している。だが、被害を軽減することへの努力を人間がしなかったら、ここまで発達することはなかっただろう。
「ですが、皆様の迅速な対応により凍えて死ぬ者も、飢えて苦しむ者も確実に減少しています。
民も皆、天災から己を守ってくださる皆様に感謝を捧げることでしょう」
「なら、良いんだけどな」
これぐらいしか出来ない。これしか出来ない。
税を貰ってる俺達が行える精一杯をやっているつもりでも、まだ納得できない。
「他に何か・・・ 出来ることはないかな・・・」
雪の中、武官の皆は警邏隊が配布する物を倉から運びだし、文官の皆はそれらの数などの管理を行っている。
俺は小休止の時間を見つけて、こうして城壁に立っているわけだが、俺の持ちうる知識で何か出来ないかを模索する。
人の気分を変えることの出来ることで雪、か・・・ なら、やっぱり・・・
「・・・白陽」
「はっ」
「真桜はどこにいるか、わかるか?」
「冬桜隊を率い、工房で火鉢の作成、樟夏殿と共に炭の手配を行っている筈です」
真桜は仕事で忙しい。そして、他の部隊も、皆も忙しい。そして、やりたいことを熟知しているのは俺一人だけ。これは良い機会かもしれない。
「白陽。
今夜も俺の無茶に付き合ってくれるか?」
そう言って悪戯気に笑っているだろう俺に、白陽は優しく微笑んで頭を下げる。
「冬雲様の御心のままに」
俺は最高の協力者を得て、いったん仕事場に戻って大人しく夜を待つことにした。
夜の闇を白い雪が照らし、いつも以上に静寂に包まれた街を通り抜け、俺は広場の中央で白陽を待っていた。あまり俺と白陽が二人っきりで行動していると、すぐに察しの良い皆にばれてしまうので待ち合わせをしようと白陽が提案してくれたことだったが・・・
「白陽が時間に遅れてくるなんて、珍しいな」
吐く息は白く染まり、ふわふわと降り続ける雪が肩に積もる。
「多すぎても見えないのに一つだけじゃ保っていられない、か」
空から落ちてくるこの白い粒を、一体誰が近くで見てみようと思ったのだろう?
小さな粒が六角を基礎にして、水蒸気や塵、温度によって形を変え、空から舞ってくる。近しい形はあっても、二つとして同じものはない。
「そういえば、『六花』とも言ったっけなぁ」
六角形の結晶を『花』と称するロマンチストな日本人。
だからこそ短歌や俳句が発展し、平仮名や片仮名を作り上げ、言葉に多くの意味を託した。
「寒いけど、やっぱり雪景色は綺麗だよなぁ・・・
動かずに待つのもあれだし、やりだすかー」
スコップと同じ形の円匙を手に俺はまだ柔らかい雪を取って、始めは握り拳ぐらいの雪玉を作る。これを転がして徐々に雪玉を大きくしていくんだが、一つの方向だけじゃ不格好になるので全体が均等になるようにばらばらの方向にも転がしていく。聞くだけなら簡単そうだが、綺麗な円形を作るのは難しいし、技術がいる。そして俺は雪国出身ではないので、形は歪だ。
・・・まぁ、俺が作るのはお試しみたいなもんだし、真桜が来るから大丈夫だよな?
「さっむいし、冷てー」
でも、無心に雪玉を転がすのはやっぱり楽しくて、自然と笑みがこぼれる。雪像とかかまくらとかも出来ればいいけど、俺には難易度が高すぎる。
どうにか体となる雪玉を作り上げ、転がらないように地面を覆う雪に同化させるように足元を固めていく。
「さっ、もう一個作らないとな」
今度は体よりやや小さめに雪玉を作り、その途中で腕や目にするための枝を集めていく。
しばらく無心で何体かの雪だるまを作っていると、突然背中に雪玉がぶつかってきた。
「ん?」
白陽はこんなことするとは思わないので誰が来たのかと思って振り向けば、今度は顔にあたった。
「さっすが、秋蘭さん!」
「ふふ、千里。褒めても何も出ないぞ?」
顔の雪を払いつつ、雪玉が投げられた方向を見てみれば秋蘭と千里殿のみならず、樹枝と緑陽、霞と真桜が立っていて、その端には今まさに秋蘭へと雪玉を投げようとする白陽がいた。
「秋蘭様、お覚悟を」
「甘いな、白陽」
雪玉を暗器のように投げる白陽と的当てが得意な秋蘭による壮絶な雪合戦が勃発し、千里殿はうまいこと避けつつも囃し立てて始める。
「隊長、水臭いなぁ~。
こういうことはウチの十八番やろが」
俺が作った雪だるまを見てニヤリと笑う真桜が雪を手早く人型に固めていって、何故か鑿を取り出して削り出す。
「ウチと隊長の結婚衣装の雪像を作り上げたるさかい、期待しててや!」
「真桜~?
他に見られたらどーなるか、わかって行動しぃや?」
霞の一言に真桜の動きが止まり、何故か人型の数を山のように増やしていく。
「樹枝殿、どうぞかき氷です」
「はい?! それ、その辺の雪を器に盛っただけの物でしょう!?
大体、かき氷と言いながら、甘い蜜も何もかかっていないじゃないですか!」
「いえいえ、少しの砂糖を水で溶かした蜜がかかっていますよ。
冬雲様曰く、『雪』と呼ばれるかき氷だったはずです」
樹枝と緑陽はじゃれ合い、樹枝は俺の体を盾にし始めた。
「兄上! 兄上からも緑陽に何か言ってください!!」
「ま・・・ まぁ、ほどほどにな」
「その止める気の薄い言葉はなんですか!?」
実際、止める気ないしなぁ・・・
形は少し違うけど緑陽が樹枝にしていることは俺がかつて桂花にされていたことに近く、それはつまり緑陽が樹枝のことを憎からずと思っている可能性があるということ。
命が危なくなったら話は別だが、司馬姉妹がそんなへまをするとは思えないし、もし緑陽が樹枝に好意を抱いているなら・・・ 今のこうしたやり取りすら愛しい思い出になる。
「大体、兄上は女性に対して甘すぎです!
恋人である華琳様達ならともかく、向き合った女性に対し平等に優しさを振りまくということがどういうことかを一度ですね・・・・!」
耳が痛い・・・ うん、寒さのせいだな。そういうことにしておこう。
だが樹枝よ、最近のお前を見ているとお前も結構俺や樟夏と似たり寄ったりだからな? 反董卓連合から戻ってきたかと思ったら、詠殿や千里殿はどう見てもお前のことを・・・
「冬雲殿~?」
何か一言言おうと思って口を開きかければ、千里殿から俺に注意が飛んできた。口元に指をあてて、『内緒』と示す。
俺は溜息をつきつつも、千里殿へとしっかり頷いた。
「・・・俺は女にも男にも優しいぞ。
なんせ今日のお前の部屋の周りを雪かきしたいって言った薇猩を止めて、お前が午後に外回りする時に使うだろう道を重点的に雪かきさせたんだからな」
「ありがとうございます! 兄上は誰に対してもとても優しい方です!!」
薇猩だからしないとは思うが、覗きとか許可されたらするぐらいの勢いはあるからなぁ・・・
直属の部下と義理の弟がくっついてもかまわないんだが、本人達の意志が伴ってないのは駄目だと思う。
「冬雲様、今宵薇猩様はどちらへ?」
「今日は日勤だけだから、飲みにでも行ってない限りは宿舎だと思うぞ?」
といっても、案外薇猩は真面目なので飲みに行くなんてめったになく、部屋で筋トレか、寝てるかなんだけどな。飲みに行くのだって同期や部下の話を聞いてやるためで、本人はあんまり飲み食いしないし。
改めて考えると、薇猩って樹枝のこと以外は本当にまともだよな・・・
「いえ、樹枝殿の今後の日程をお伝えする約束があったので・・・ おっと」
「あなたの所為かぁ!!
道理で最近、僕が仕事に行く先々にあいつが待ち構えてるわけだよ!!」
千里殿しかり、薇猩しかり、緑陽殿は樹枝周辺の人と友好関係築くの早いなー。友人関係が広がるのはいいことなんだろうけど、樹枝にとっては危険極まりない。
なんか手が空いてしまったので雪を握って雪兎を作り、大きさもいろいろ作っていく。
「雪兎、か・・・」
白と緑と赤、三色だけなのにとても冬らしい色。
「なんだか華琳みたいだ」
小さくて可愛くて、雪の中で隠れるように本当の自分を隠す。
自分は冬でもたくましく生きる狼だと言わんばかりに立ち上がり、多くをつれてその頂点に立つ。
「なんて・・・ 聞かれたら怒られるんだろうなぁ・・・」
「そうだな、我々がいるのにもかかわらず華琳様のことを想ってばかりいるお前には罰が必要だな」
「げっ、秋蘭」
肩に腕を絡ませながらも恐ろしいことを言う秋蘭に顔を青ざめつつ視線を向ければ、雪玉を握っていた冷たい手を俺の顔に押し付けてきた。
「冷えすぎだろ・・・
どんだけ白陽と雪合戦楽しんでたんだよ」
温めたいけど、俺の手も雪兎を作っていたので冷えている。
「少しばかり白熱してな。
勝負は結局白陽の試合放棄によってつかなかったが、なかなかに楽しかった」
「試合放棄?」
真面目な白陽らしからぬことに首を傾げれば、秋蘭が指さした方向には雪でかくれんぼしたり、鬼ごっこしている樹枝と緑陽に参戦し、樹枝へと雪玉を投擲している白陽がいた。時には氷柱すら投げてる気がするが、それは緑陽の驚くべき早業で砕かれていた。
「白陽、姉妹のことになると過保護だからなぁ・・・」
自分の手を裾の中にひっこめてその上から秋蘭の手を包んで熱を持つように擦り合わせてると、秋蘭は真面目な顔をして白陽達を見守っていた。
「私とて相手がお前でなければ、白陽と同じことをしていたさ」
「真面目な顔していうことかよ・・・」
「そうした点では、姉者の方が私よりもずっと大人びているよ。
なんだかんだで私は、白陽と同じ『嫉妬深い妹』さ」
秋蘭の手を擦っていた俺の手を裾から引っ張り出して、頬に当ててくる。
「冷たいだろ」
「いや、温かいさ。
この温もりが、お前が傍にいることを実感させてくれる」
じゃれついてくる猫のように抱き着く秋蘭を受け止めて、しばらく抱きしめ合う。
「温かいな」
「そうだなぁ」
今度沙和に恋人用の長いマフラーでも依頼しようかと考えつつ、俺は上着を秋蘭の方にかけて皆へと振り返った。
「さて、これだけの人数がいるし、真桜がいるんだから『かまくら』でも作ってみるか!」
正しい作り方はよくわからないが、真桜や皆の知恵を借りればどうにかなるだろう。
「冬雲殿、あれは放っておいていいの?」
熱心に魏将の雪像を作っている真桜の隣で、いくつかの可愛らしい動物の雪像を作っていた千里殿が樹枝達を指さす。
そんな千里殿の後ろには動物の雪像以外に薇猩と樹枝が絡み合っている雪像があるような気もするが、気のせいだということにしておこう。
「あれはあれで需要があるんやし、えぇんやないか? 冬雲」
「・・・俺は何も言ってないし、何も見てない」
今言っても、明日言っても樹枝の絶叫は間違いないし、雛里の布教活動により魏は順調に腐の需要が出てきているのも事実。だから俺は、何も見てないんだ!
「いやー、なんでも出来ちゃう自分の才能が怖いね!」
得意げに言っているのにその横顔はどこか寂し気で苦笑まじり、それはもう一人の義弟を浮かべる表情に似ていて、何も言わずにはいられなかった。
「なぁ、千里殿。
真桜はしばらく手が空きそうにないし、ちょっと知恵を貸してくれないか?」
「うん? 冬雲殿が頼みごとなんて珍しいねー。
私でいいの?」
言葉の節々からの予想でしかないが千里殿は樟夏と同じ想いを抱いている、そんな気がした。
「頼みごとなんて珍しくないさ、だって俺は皆に頼ってばっかりだからな」
俺一人で出来たことなんて、何もない。
きっかけは確かに作ったことがあるかもしれないけど、そこから完成形に持って行くのには多くの人の協力があってのことだった。
「この雪で寒さをしのげるようなものを作りたいんだ」
「へぇ、この冷たい雪を利用して、そんなことが出来たら最高だね」
千里殿と俺がいくつかの枝で図式を描いていくと、横で霞がニヤリと笑った。
「二人して面白そうなことしてるやんか、ウチも当然混ざるで?
まっ、ウチは二人と違って知恵だせんけど」
「じゃぁ、霞はとりあえず雪をかき集めて四角い塊にしていってくれる?
で、これが崩れないように積んでいくとして、均等の厚さにしないと崩れるよね・・・ 冬雲殿、枝をいくつか同じ長さに揃えておいて!」
「おう」
何に使うかいまいちわからないけど、千里殿の頭には既に設計図が出来上がってるようなので言われた通りに枝を集め始める。
「だ・か・ら! 何で寒いのにそんな丈の短い女性用の下履きを履かなきゃならないんですか!!」
「似合うからですよ、樹枝ちゃん」
「樹枝ちゃん、言うなぁ!!」
「では、海和ちゃん」
「だぁーまぁーれぇー!」
「何ですか? 見せつけですか? 私の可愛らしい末の妹と随分楽しくじゃれ合っているんですね、そうですね?
フフフフ・・・ さぁ、この美しい雪景色の中、楽しい鬼ごっこをしようじゃありませんか!」
「これがそんな微笑ましいやり取りなわけあるかぁ!!!」
樹枝達が戦力には・・・ まぁ、あと四半刻くらい経ったら、協力してくれるだろう。もし終わらなくても、かまくらとかを作り終わって温かい飲み物を用意する頃には止めてやるかな。
「皆、喜んでくれるといいなぁ」
完成させた後のことを考えて頬が緩み、明日が楽しみでしょうがない。
「そのために、頑張りますかね」
だが、この時の俺は知らない。
皆の笑顔を見ることなく、極寒の寒さの中を薄着で作業していた馬鹿が風邪で寝込むことを。
風邪が完治したのち、玉座にて全員から説教される未来を。
リアルではいろいろありますが、楽しんで書いていきたいと思います。




