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一周年

フォルダを整理していたら、こんなものを発掘しました。


短いですが、出し損ねた一周年記念の番外です。

 それは、ある穏やかな日のこと。俺はいつものように仕事をしながら、書簡を書庫へと戻していた。

「あぁ~、いい天気だなぁ」

 鼻歌でも歌いたくなるような陽気、青い空、強すぎず弱すぎない風は心地よく、木々の揺れる音も心地いい。

「なぁ? 白陽」

「えぇ、冬雲様」

 そう話かければ頷き、影から出てくる白陽に頬を緩めながら、俺は珍しく静かな城内を台車を押しながら歩いて行く。

 特に行事のない日、いつもの日々。

 街にいるだろう凪たちでも誘って、一緒に食事をとるのもいいかもしれない。

「白陽、今日の昼・・・」

「今日の食事はこちらへ」

 俺が言おうとしたことを珍しく遮り、どこか悪戯っ子のように笑う白陽がいた。その笑顔は何か面白いことを考えている真桜と沙和の表情と被って見え、おもわず笑ってしまう。

「白陽・・・ 真桜たちから悪戯まで教わらなくていいからな?」

「ふふっ、『類は友を呼ぶ』と申します。

 そして私自身、冬雲様を困らせることを楽しく思っている面があるのも確かです」

「オイオイ・・・」

 互いに笑いながら、白陽に引っ張られる形で手を引かれる。

 最初の頃の白陽が嘘のように、凪たちが来てからよく笑うようになってくれた彼女を嬉しく思った。



 連れていかれたその場所は、中庭にある四阿。

 そこには机が用意され、多くの料理と魏の将の全員が並んでいた。

「はっ? これ・・・ 今日は一体何の日だよ?」

「あははは~、やっぱりお兄さんですねぇ」

 俺が何を言うかをわかりきっていたというように風が笑い、他の面々も同様に苦笑していた。

 どういうことだ?

 華琳たちの誕生日・・・ ならもっと大々的にやるだろうし、なおかつあの真面目な華琳が仕事のある昼間にやることをよしとする筈がない。

「兄様、この状況を見て、何か思いつきませんか?」

「状況?」

 中庭で机を並べられ、その上には多くの料理を彩りよく並べられている。椅子はない所を見るに、立食形式で料理を食べるのだろう。

 うん? 立食パーティー・・・?

 俺が今より昔、そう今じゃない今の時に華琳たちに提案した・・・

「鈍いわねぇ、アンタそれでも英雄って呼ばれてるのかしら?」

「そんなこと言われても・・・

 今日、何か祝いの日だったか?」

「・・・・どうして兄者は、いざご自分の事となるとお忘れになるのでしょう?」

 桂花に呆れられ、樟夏に溜息を貰ってしまうが俺には全く見当がつかない。

「まぁ、無理もない。

 当の本人にとってはもっとも忙しない日であったことだろう」

「ですが我々にとっては運命の日、と言っても過言ではない日です」

 秋蘭と稟が優しく微笑みながら、俺を見つめてくる。

 だが俺は二人からの言葉を受けて、さらに考え込んでいた。

「兄ちゃん、そんな考える事じゃないってば!

 僕らがこんなに喜ぶことなんて、そんなに多くないんだよ?」

「まったく、貴様は馬鹿の癖に難しく考えるなど出来る筈がないだろう」

「だー! 難しく考えることぐらい出来るに決まってんだろ!!」

 春蘭の言葉に反射的に怒鳴り返すと、控えめに雛里が前へと出てきた。

「で、ですから、これは難しく考えたら、答えが出ないと思います」

「冬雲さん、簡単に考えばいいんです」

 簡単に?

 これが俺に関連した何かであることは確かだけど、俺の誕生日なんてそんなに祝ってないっていうか・・・ こっちの暦って若干違うから俺よくわからないってことで誕生日祝わないようにしてたんだよな。

「まだ、わからないんですか? 兄上」

「隊長は鈍いなぁ・・・」

「まっ、そこがえぇんやけどな」

 樹枝の呆れ、真桜の溜息、何故かはいる霞の嬉しい言葉が続き、助けを求めるように凪と沙和を見ると同じような様子だった。

「隊長ー、自分のことをもっと大切にしないと怒っちゃうんだからね?」

「隊長はご自分を低く見すぎです」

 えっ? 何のことだかさっぱりなんだが? 

「完全に降参だ。

 いい加減、教えてくれよ。華琳」

 俺がそう言って手をあげれば、華琳は深く溜息を吐いて、俺を見た。

「あなたがこの大陸へと舞い降りた日よ、冬雲」

「えっ・・・・?

 あっ・・・・!」

『おめでとうございます!』

 華琳の言葉に俺が呆然とすると同時に俺達を囲むように炸裂音が鳴り響き、細かな紙吹雪が舞っていく。

 わずかに残る火薬の匂いから察するに、真桜によるお手製クラッカーだろう。

「・・・・まったく、こんなことのためにわざわざ」

「こんなこと? 何を言っているんです。冬雲様」

 俺の言葉を掻き消すようにあちこちから聞こえる祝いの声、それどころか場外からすら聞こえてくる祭囃子の音。

「あなたがあなたであったから、私たちを変えてくださったあなただから、祝いたいと思ったのですよ」

 そうして手で示された机上の一番大きなお菓子には、クッキーで作られた大きなプレートが立てかけら、まるでお菓子の家のようなそこに大きく字が書かれていた。

『私たちと出会ってくれてありがとう』

「・・・ハハッ」

 どんな言葉を尽くせば、この想いは伝えられるんだろうか。

 そう思いながらも、俺が今言いたいことは一つしかなかった。

「ありがとう! みんな!!」


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