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(白)破恋多陰出- 【桃香視点】

タイトルの読みは『バレンタインデー』です。

読みに無理がある? わざとです。

「チョコ、欲しいなぁ・・・・」

「そっかー、ご主人様・・・・

 うーん、このご主人様って呼び方、そろそろ違和感覚えてきたから変えちゃ駄目?」

 ご主人様の発言を適当に流しつつ、なんか言葉に違和感を覚えて書簡をやりながら直していいかを聞くと何故かご主人様の方から嗚咽が聞こえてきちゃった。

 あれ? 私、何かおかしなこと言ったかな?

「泣くほど嫌かな?

 だって私とご主人様の立場って対等だし、そろそろ呼び方変えてもいいかなぁって思うんだけど、駄目?」

「俺の言葉を軽く流した上に、そのまま突き進むのかよ?!」

 その突っ込みを聞きながらも私は書簡を書いていき、見直しをしてから次の書簡を手に取る。

 少しずつ豊かになっているこの地も、だんだんとだけど形になっていってくれてるのがすごく嬉しい。

「んー・・・ じゃぁ新しい呼び方は『白いの』とか?」

「いや、今の俺どこも白くないからね?!

 上着ないし、曹仁さんみたいに髪が白いわけでもないし、それこそ俺が『白いの』なんて呼ばれる理由なんて・・・」

「流れてくる時の星の色が白かったんだよねー。

 あと管輅ちゃんの占いでそうだったし」

 上着とか別に赤の遣いの曹仁さんも着てなかったし、単なる名称っていう方が近いのかもしれない。

「いやでも、なんか距離感が遠い感じがして嫌なんだけど?!」

 もー、我儘だなぁ。

 大体最近、林鶏と一緒に行動してるから民の間ではご主人様のことを白の遣いってちゃんと呼んでる人もいるだけどなぁ。白の遣いの『白』を鶏の『白』と思ってる人が多くなってるけど。

「えー・・・ じゃぁ、北郷?

 紅火ちゃんもそう呼んでるし」

「まさかの名字呼び?! 普通に一刀でいいじゃん!

 それって俺が桃香のことを、『劉さん』って呼んでるのと変わらないからね?!」

 私の呼び方が想像外だったみたいで、なんか悲鳴あげてる。

 ていうか、せっかく最近になってようやく仕事を出来るようになってきたんだし、手を止めたりしないでしっかりやればいいのに。

「お姉ちゃんとしては、愛紗ちゃんの想い人を下の名前で呼ぶのはなんだか気が引けるんだよねー。

 でも、『弟くん』はまだ早い気がするし、うーん・・・」

「そんな、想い人だなんて・・・・

 って、それって桃香にとって俺って、恋愛対象じゃないってこと?!」

 照れたり、驚いたり、忙しないなぁ。

「愛紗ちゃんと競うつもりないし、それに貂蝉さんもいるから、私は特に出る幕ないと思うんだよね。

 それにほら、私達の関係って恋愛とか以前に相棒みたいじゃない?」

 妹の想い人をとる気なんてないし、貂蝉さんともやりあえるとは思えない。

 それに一緒に並ぶ相棒にそういう気持ちを抱くのって、なんか違う気がするし。

「ご主人様のことが嫌いってわけじゃないよ?

 友達として好きだし、一緒に成長する相棒としては最高だと思う。

だけど、それは人生の相棒って意味じゃないよね」

「何、その丁寧なお断り?!

 むしろ理由をちゃんと言ってる分だけ、心に刺さるんだけど?!」

「んー?

 お断りっていうか、もう恋愛対象なんて不確定なものじゃなくて、大事な家族みたいなものになっちゃってるから。

 だから、恋愛対象に見えなくて・・・ ごめんね?」

 私が謝ると床に膝を折って頭を下げてる姿勢になってるけど、事実そうなんだもん。それに、誰かの恋人をやる前に私は二人の・・・ ううん、みんなのお姉ちゃんや君主になることの方が今は大事だから。

「はい! これで私の今日の分の仕事終わり!!

 じゃぁ、私この後みんなとやることがあるから、先に失礼するね。北郷」

「それで通すの?!」

 何度目かの北郷の悲鳴を聞きながら、私はみんなが待っている部屋に向かって駆けていった。




「みんなー、お待たせー!」

 私が入っていくとそこには材料を丁寧に並べて待機している法正さんと王平さん、鈴々ちゃんと愛羅ちゃん、そして紅火ちゃんが居た。

「待ってねぇよ。

 つーか、マジでちゃんと仕事したのかよ?」

「わーい、相変わらず酷ーい!

 これでも最近はいろいろと仕事できるようになったんだよ?」

「愛羅様が想い人に菓子作ったのを言いふらした挙句、それを元に菓子作り教室なんざ面倒なもんをやろうとする奴なんざ、この対応で十分だっつうの」

 紅火ちゃんはそう吐き捨てて、愛羅ちゃんのところに行っちゃった。

「そんなに怒ることかなぁ?

 愛羅ちゃんがこの日に間に合うように、日持ちする焼き菓子を曹洪さんに贈ったことを話しただけなのに・・・・」

 わざわざ商人さんに頭を下げて、自分の給金から頼んで丁寧にお菓子を焼いている姿はとっても乙女で可愛くて・・・ ついつい自慢したくなっちゃんだよね。

「桃香様?! 改めて言わないでください!!」

「えー?

 だって私の妹はこんなに乙女で、とっても可愛いことは隠すことじゃないし。

 それに愛紗ちゃんは料理が出来ないのに、愛羅ちゃんは普通に料理が出来て凄い事もみんなに広まったらいいなって・・・・」

 愛羅ちゃんが反論してくるけど、事実だもん。

 私達の中で一番女子力が高いのは、もしかしたら愛羅ちゃんかもしれない。

 漢女力では貂蝉さんが一番だけどね!

「お、乙女?!

 こんな粗野な女を見てそんな、滅相もない!」

「全然粗野なんかじゃないってば、愛羅ちゃんは謙虚で可愛いんだから。

 お姉ちゃんがぎゅってしちゃうよ~」

「させるか!

 つうか、テメェ! また、愛羅様を辱めてんじゃねぇ!!」

「痛い! 頭を締め上げるのはやめてぇーーーー!」

 愛羅ちゃんがとっても可愛いから抱きしめようとしたら、私と愛羅ちゃんの間にすぐさま紅火ちゃんが入ってきて、私の頭を掴んで締め上げてきてすっごくいたあぁぁぁーーーい!

「翼徳、その粉をここに。

 王平、あなたは一人でさっさと作り始めるのはよしなさい」

「はーいなのだー」

「えー?

 だって私、普通に作り方知ってるし、窯とかもこの人数じゃ一気に焼けないからいいじゃーん」

「・・・・それもそうね。

 料理に関して危険そうな関羽は今、厨房で孔明がつきっきりでやっていることだし。

 では、翼徳。私達もこちらで始めましょうか」

「わーい!」

「そんなに慌てなくていいわ、ゆっくりやりましょう。

 今度は一人で作れるくらい、しっかり覚えて非番の日にやってごらんなさい。

 ただし、窯を使う時は誰かに一声かけてから。火は危ないわ」

「わかったのだ!」

「いい子ね」

 私達がそんなことをやっていると法正さん達は向こうでそんなやり取りをしてて、もうくっきーを作り始めちゃってる。

 っていうか、朱里ちゃんと愛紗ちゃんが居ないと思ったらそのためなんだね。納得しちゃった。

「最近、朱里ちゃんの料理上手なところを見ないで、趣味の方ばっかり見てたからなぁ」

 仕事をやってからすぐに部屋に引き籠って、満足した顔でそれを法正さんに確認しに行ったりとかを見てると、料理上手とか他の趣味が霞んで見えるよね。

 というか、朱里ちゃんにお菓子作ってるの見たことない気がする。

「法正さん、くっきーの作り方ってどうすればいいんですか?」

「そこに孔明が書いた書簡がある筈よ、説明通りに作りなさい。

 計量や材料を間違えなければ、それなりの物が出来る筈よ」

 流石法正さん、一言多くて厳しいよね。

 でも北郷は最近、そんな法正さんに他の子たちとは違う目を向けてるんだよね。相手が法正さんっていう所でどうなるかはわかっちゃうけど。

「はーい、わかりましたー」

「刃物は使わないのだから、くれぐれも妙なドジをして怪我はしないように。

 念のために、あなたは窯から一番離れたところで作業なさい」

「はーい・・・・」

 愛紗ちゃんの一件で法正さんはすっかり私達も危険なことをするんじゃないかって警戒してて、厨房ではあまり火の回りに立たせてくれなくなっちゃった。

 だから、私達の中で厨房に立ってるのは愛羅ちゃんと紅火ちゃん、たまに朱里ちゃんと王平さん。ごくたまーに北郷も立つみたいけど、自分だけで食べてるみたい。

「えっと・・・ まず、これとこれを測って・・・」

 いくつかの粉と牛乳、あとばたーっていう新鮮な牛乳を振って作った物を使いながら頑張ってると、なんだか他の人たちのも気になってきょろきょろと周りを見渡しちゃう。

 あっ・・・ 粉、入れすぎちゃった・・・・

 まぁ、いっか!

 とりあえず、それを混ぜて混ぜて、生地にして固めておいて布巾でもかけておけば大丈夫!

「愛羅ちゃーん」

「・・・・樟夏殿はもう召し上がられただろうか。

 うまく出来たとは思うのだが、やはり菓子ではなく他の贈り物の方がよかっただろうか・・・ だが、好みがわからん以上、菓子の方が・・・」

 私が声をかけても反応がなくて、その上どこか遠くを見ながら恋する乙女状態な愛羅ちゃん。

「うん!

 普段貂蝉さんと戦ったりしてる愛紗ちゃんよりもずっと純情な恋する乙女っぷりがすっごく可愛い!!」

「桃香様?!

 一体何をおっしゃっているのですか?!」

「あっ、ごめん。

 声に出ちゃってた」

 そう言いながら愛羅ちゃんが作ったらしいくっきーを見ると、とっても綺麗に形が整っていて、形は単純でも丁寧に作ったんだろうなってことが一目でわかる。

「愛羅ちゃんは器用なのに、どうして愛紗ちゃんは料理が出来ないんだろうね?」

「・・・正直なことは桃香様の美点ではありますが、全てに対し正直であることが良い事だとは思われませんように」

 意味がわからなくて首を傾げると、愛羅ちゃんはどうしてか苦笑しちゃった。

「私は姉上のように素直ではありませんし、それほど個人の武に優れているわけでもありません。出来ないところがあれば共に補い合い、支え合う。

 それでよいではありませんか」

「うん!

 だから、愛羅ちゃんも何か困ったことがあったらすぐに言ってね?

 無理したり、抱えたりしたら嫌だからね?」

 前よりもずっとみんなのことが好きで、私に出来ることは大したことないかもしれないけど、誰かが抱えちゃったり、辛くなったりするのはもう嫌だから。

「えぇ、勿論」

 あの頃より優しく笑う愛羅ちゃんを見てると、なんだか幸せな気持ちになって私はさらに笑っちゃった。

「オイコラ、愛羅様の作業の邪魔してんじゃねぇだろうな?」

「してないよ?!

 というか、どうして私が邪魔してること前提なの?!」

「紅火、やめないか」

「チッ・・・了解です、愛羅様。

 それじゃ、窯の方に自分のもんを焼きに行くんで」

 そう言って紅火ちゃんが手に持っているくっきーは、愛羅ちゃんに負けず劣らず丁寧に作られていたちょっとびっくりしちゃった。

「紅火ちゃん、料理上手なんだねー!」

「はっ? 料理なんざ誰でも出来るだろ?

 じゃねぇと、食っていけねぇじゃねぇか」

 紅火ちゃんは不思議そうな顔をして、私の横を通り過ぎて行った。

 けど、ごめんね。私、あんまり料理得意じゃないんだ・・・・

 法正さんは相変わらず鈴々ちゃんに優しく教えてるし、王平さんは・・・ なんか真剣に整形してるけど、何作ってるんだろう?

「おー、劉備ちゃん。

 ちゃんと自分の作ってる?」

「生地は出来たので、他の人たちのを見て回ってるんです。

 それにしても、王平さんは凄いですね!

 みんなの顔を作るなんて、器用なんですねー」

「んー? そうかなぁ?

 まぁ、旅芸人なんてしてると一人で食っていかなきゃいけないし、いくつかの芸を覚えておかなきゃいけないもんなのよ」

 鬼の面をした曹仁さんと髪が長くて少しだけ厳しい顔をした法正さん、鈴々ちゃんと愛紗ちゃん、愛羅ちゃんと紅火ちゃん、それに私の知らない人の顔があったりもしたけど、どれもとっても可愛く出来上がっている。

 でも、その中に一つだけ文字の物があって、私はおもわず王平さんに尋ねてしまう。

「王平さん、その・・・」

「なーに?」

 王平さんは特に気にしてないみたいだけど、この一字はちょっと・・・・

「この『腐』って文字の書いてあるのは・・・ 誰ですか?」

「あー・・・ それは失敗しちゃったんだよね。

 孔明ちゃんの顔の方もこっちに作ったんだけど、そっちもしっくりきたから残しておいたのー」

 ぴったりでしょ? とまで言ってくる王平さんに、ちょっと苦笑いして目を逸らす。ここに居るみんなの分が並んだくっきーはなんだか可愛くて、今から食べるのが何だかもったいないなぁ。

「そろそろ私も仕上げてきちゃいますね!」

「あいあい、適当にねー」

 そう言って王平さんから離れて、さっき作っておいた生地を伸ばして形を作っていく。なんだか不恰好だけど、焼けば大丈夫だと信じて私は窯へとくっきーたちを放り込んだ。



 何とか愛紗ちゃんも含めたみんなの分を窯に入れて、後片付けをして、あとは焼き上がるのを待つだけ。

 甘い香りがする窯をちらちらと見ながら、法正さんが入れてくれたお茶を飲んで待ってたら、廊下から誰かが駆けてくる音がして、扉が乱暴に開いた。

 挨拶も無しに乱暴に開かれた扉に対して、法正さんは誰かを確認する前に、調理中は出入りを禁止していた林鶏へ迷いもなく指示を出す。

「バレンタインに俺だけ仲間外れとか酷い!!

 ていうか、桃香! 教えてくれてもいいだろ!」

 当然、林鶏の蹴り技は北郷を襲って、その顔には足の跡がくっきり残ちゃった。

「だって、女の子だけの料理会に、男の人が混ざったら気まずいと思って・・・

 華佗さんはお仕事みたいだし、貂蝉さんはどうしてか朝から北郷の部屋から出てこないし」

「確かにそうだけど!

 でも、周りが女の子だらけでそれって今更じゃん!

 っていうか、北郷呼びで定着させる気なんだ!?」

「まぁまぁ、落ち着いてくだしゃい。ご主人様。

 これでも食べてください」

「ありがとう、朱里。

 これって・・・・ みんなが作ったクッキー?」

「はい!」

 いい笑顔で北郷に手渡してるけど、私はその独特な形のくっきーを誰が作った物か知ってるからね? 朱里ちゃん。

 でもまぁ、一応想ってくれてる子のからのくっきーだからいいのかな?

「まっず!」

 顔をすぼめて、全力で味を表現する北郷に愛羅ちゃんの隣の愛紗ちゃんが肩を落としてる。

 あぁ、やっぱり・・・

「すみません・・・ ご主人様・・・

 朱里が手取り足取り教えてくださったのですが、何故か失敗してしまって・・・」

「でも、食べれる物になったんです!

 凄い進歩なんですよ!」

「凄い進歩じゃないか! 愛紗!」

 申し訳なさそうにする愛紗ちゃんと、食べれない物の状態をどうにかした朱里ちゃんが熱論してる。

 うん・・・・ お疲れ様、朱里ちゃん。

 北郷も手のひらを返すみたいに褒め称えてるし、素直だよね。

「そ、それでその・・・・ 法正さんは誰に作ったのかなー?」

 何故か急にもじもじしながら法正さんを見るけど、法正さんはお茶をすすりながら、鈴々ちゃんとくっきーを摘んでいた。

 鈴々ちゃんは自分のくっきーを食べて、ちょっとだけ納得してないみたい。

 その隣で王平さんが曹仁さんの顔の形をしたくっきーを、ちょっと人には見せちゃいけないような顔で食べてるのは見ないふりをするね!

「誰って、そんなの決まっているでしょう?

 街の子どもたちによ?」

「ソ、ソウデスヨネー・・・

 法正さんですもんねー・・・・」

 何で答えがわかってるのに、聞くんだろう?

 それに法正さんはどう見ても、北郷のことをよくても出来の悪い弟ぐらいにしか思ってないのに。

「まぁ、北郷が来ちゃったのはしょうがないし、せっかくだからみんなでお茶会しよっか!」

 女の子だけのお茶会のつもりだったけど、北郷も仲間に入れてあげることにした。

「桃香って、もしかして俺のこと嫌いなの?!」

「だーかーらー、嫌いじゃないってば。

 ほら、愛紗ちゃんの隣に座って座って!」

 とりあえず、北郷の背中を押して愛紗ちゃんの隣に座らせて、お茶を入れてあげる。

「うわっ、これもまず!

 ていうか、しょっぱい!」

「あっ、それ私が作った奴ー。

 私って、料理苦手なんだよねー」

「お茶もまずい!」

「そんなことを言う北郷は、辛子たっぷり乗せたくっきーを口に入れちゃうね♪」

「マジで勘弁してください! 桃香さん!」

 ここでへこたれたら、部屋で待ってる貂蝉さんを見たらどうなっちゃうんだろうなぁ♪


今週はもう本編無理ですねぇ・・・

魏の方のバレンタイン後の話も上げたいですし、とりあえずギリギリまで頑張ろうと思います。

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