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日常

番外投稿、二本目です。

 天和たちの様子もここ一か月で随分落ち着いたし、急ぎの仕事もなくなった。乱の爪痕は徐々に癒え、民は穏やかな暮らしに戻りつつある。

「まぁ・・・・ 即席ではあるんだけどな」

「冬雲! あんた、今日は休みでしょ!!」

「げっ・・・・」

 朝のまだ早い時間だというのに、後ろから聞こえたその声に反射的に声が漏れた。少しだけ気まずくなって、俺が後ろを振り向く前に背中を思い切り叩かれる。

「痛いって、桂花」

 マジで背中に手形出来てんじゃねぇかってくらい、痛いんだけど?!

 鞭を振るうのにこんなに力いるっけ?

「アンタが! 華琳様に昨日休みだって言われたにもかかわらずに!! こんな時間から鍛錬してるからでしょうが!!!」

 耳を掴んで容赦なく引っ張る桂花に抵抗することが出来ず、おもわずへたり込む。つか、正論で言い返せないです。

「いや、休みの日でも体動かさないと落ち着かなくて・・・・ いつもの習慣で体が勝手に起きたっていうか、その・・・・」

 毎日の習慣なんだが、この時間帯って起きてる人が少ないから知ってるのってごく一部なんだよなぁー。

 ん? ってことはもしかして・・・・?

「桂花、もしかして徹夜か?」

「違うわよ、アンタじゃあるまいし。

 いつもより早く目が覚めて、使ってた資料とか片づけようとここを通りがかったら、休みを言い渡されたにもかかわらずに鍛錬してる馬鹿が居たから寄ったのよ」

『アンタのことよ』と頭を小突かれ、汗をかくから上半身裸の俺を見下ろしてる桂花の目は少し厳しい。

 が、それは溜息と共に弱まり、突然抱きしめられた。

「汗がつくぞ。桂花」

「かまわないわよ。

 どうせ、着替えるつもりだったし」

 俺が座っているので、頭を包まれるような状態で、親が子どもをあやすようにそっと頭を撫でられる。

「ったく、休みくらいしっかり休みなさいよね。

 無理して倒れたら、それこそ迷惑よ」

 心底呆れたような再び溜息をつかれ、いい音をさせながら俺の頭を思い切り叩く。

「大体アンタ、馬鹿の癖にここの所、頑張り過ぎなのよ!

 書簡仕事を頑張るし、書簡仕事を取り上げたら天和たちのところに走るし、それがなくても他の仕事を見つけてやりだすし! 合間合間でお茶入れたり、私たちのことは気遣ってくるし! これだったら、前のぐうたらなアンタの方がまだこっちの気が楽よ! でも仕事やってるから怒るに怒れないし、本当にもう!!」

 その後ほぼ息継ぎなしで一気にまくしたて、俺の顔を無理やり持ち上げて、鋭く睨みつける。

「つーか、昼くらいまで部屋から出ずに寝てなさいよ! 目の下の隈が目障りよ!!

 そんな黒いのつけた顔で華琳様の前をうろつくことなんて、私が許さないわ!

 見かけたっていう話を聞いたら、寝台に叩き込みに行くから覚悟しておきなさい!」

「はい・・・ 昼まで大人しく寝ておきます」

 久しぶりの桂花の罵声を、内心喜んでる俺は変態かもしれない。

 これは俺の勝手な予測だが、桂花は本当にどうでもいい人間に対してこんなことを言わないだろう。そこに居ることすら認知しないのが、彼女が心底嫌いな相手に対して行う手段だと思う。だからこそ、素直じゃないがその言葉に多くの優しさを含んでくれる桂花のことがとても愛しい。

「言質はとったわよ。

 私はもう行くから、とっとと寝に戻りなさい」

「桂花。

 心配してくれてありがとな」

 そう言って身を翻す桂花に俺は笑って、その背中に声をかけると頭巾の猫耳が動揺したように少しだけ揺れる。

「そうよ・・・ 心配してんのよ、馬鹿」

 そう言って駆け足で去っていく桂花を見送り、俺は何だか懐かしい気持ちになって笑っていた。

 今の桂花は素直で、でもやっぱりどこか素直じゃなくて・・・ 俺はそんな彼女を

「愛してるよー! 桂花ーーー!!」

「「朝っぱらから何言ってんですか?! 兄()!?」」

「うっさいわよ!!」

「理不尽すぎますよ?! 姉上えぇぇぇーーーー!!」

 あっ、二人がひかれて、殴られて、とんでいっちまった。

 まぁ、二人が飛んでいくのも恒例行事みたいなもんだし、ほっといても大丈夫だろ。門番とか、警邏隊のみんなとかがいつも拾ってきてくれるしな。

「さて、っと・・・ 俺も桂花に起こられる前に部屋に寝に戻らないとな」

 あぁでもやっぱり早起きはするもんだよな、桂花のあんな顔が見れたんだから。




 水浴びと軽い食事を済ませ、俺は軽くなった足取りで部屋に行くと人の気配がしたので、考えを巡らせる。俺の部屋に誰かがいるのは別段珍しくないけど、舞蓮じゃないとしたらよほどのことがない限り前もって何かを言ってくれるはずだ。

「白陽も今日は強制的に休暇に出したし、紅陽と青陽が買い物に連れ出すって言ってたよな?

 華琳は昼間に俺の部屋に来るにしても大抵は仕事を絡めてくるし、うーん・・・・ まぁいいか」

 扉を叩かずに入ると、腹を襲ったのは二つの軽い衝撃。

「とーうん♪」

「遅いのよ」

 濃い桃色の髪をした天和と、淡い青の地和。そして、俺の寝台の付近で本を片手に待っていたのは人和。

 ・・・・何で三人がここに?

 いや、確かにまだ活動は再開してないし、別におかしなことじゃないけど。

「冬雲さん、こちらへ」

 優しい香りのする香がたかれ、人和が柔らかく微笑んで、綺麗に整えられた寝台へと俺を促す。

 それだけでまるで麻薬のようで、俺は二人に手を引かれながら吸い込まれるように寝台へと横になる。

「昨日華琳様から使いが来まして、冬雲さんが休みであることを伝えられたんです」

「けど冬雲って『休め』って言われても休まないし、なんだかんだ言ってちぃ達のところに来ちゃいそうだってことで、いろいろと任されたのよ」

「今日はね、私たち三人で冬雲に安眠をお届けしたいなって思って。

 冬雲がぐっすり眠れるように私たちが作った子守歌を歌ってあげる」

 俺って信用ねー・・・・

 いや、ある意味信用されてるんだろうけど、華琳は人のこと言えないと思うんだけどなぁ。はぁ・・・ まぁ、俺にこんだけ休ませたんだから、華琳にもしっかり休んで貰うけどな。

「そんな顔しないでください。冬雲さん」

 俺の目元を指でなぞりながら、どこまでも優しく人和の声が耳に響く。

「でも、冬雲も悪いのよ?

 休めって言っても休まないんだから」

 言葉とは裏腹にどこか嬉しそうに笑って、地和は俺が動かないように体へとのしかかってくる。

「さぁ、寝よう。

 珍しくちぃちゃんじゃなくて私が作った、私たちの歌。

 これまでと、これからを紡ぐ大好きなあなたの歌」

 天和の言葉と視線を合図に、三人は俺に触れながら寝台の横で思い思いのところに触れながら、歌を紡ぎだす。


 出会いはそう とても突然

 あなたがいて あの方が居て 私たちと出会う それだけの単純なこと

 でも歩いた道は 単純なんかじゃなくて

 砂利があって 橋があって 池もあって 時には断崖絶壁

 そこに集いし 優しき花々

 天も 地も 人も 照らされ 覆われ 救われて

 笑って 歌って 広げていこう

 あなたと あの方と 皆の誰もがこの先で笑ってる そう信じて

 その傍らで 私たちは永久(とわ)に歌い続けると誓うから

 

 おかえりなさい

 世界があなたを待ってたの

 ほら あなたの周りで また笑顔の花が咲く

 優しく 温かく 柔らかな 詩が生まれ 鳥が奏で

 強く 勇敢で しなやかな 木々が力強く伸びていく

 全てがあなたを歓迎して 笑顔があなたを包んでいく


 この世界よ 永久(とこしえ)

 愛する人よ 傍にいて

 今度はもう二度と 繋いだこの手を離さないで

 あなたに会えたその時から

 あなたの傍を離れないって 決めたから

 

 ずっとずっと いつまでも

 今度こそ続いてほしいと願うから

 誰よりも 何よりも愛したその傍で

 全ての者が かつて抱いた夢を乗せ

 あなたと あの方と 皆で紡ぐ優しき物語

 共に 共に いつまでも

 愛してる 離れない

 だからそう 傍にいて



 眠気からか、それとも歌にのせられたささやかな三人の願いが染みたのか、俺の目からは自然と涙が溢れ、その穏やかな調べから眠りの中へと(いざな)われる。

「約束するよ・・・・・」

 俺はもう、ここから離れない。


『再臨』名物、デレ桂花。

そこに特製の詩を書き足しました。

曲にするセンスはありません・・・・

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