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正月

昨日削除したものを書き直して、投稿しました。

内容は変更されています。

この後は本編の恋の視点を書きます。


いつもありがとうございます。

『正月』

 それは旧年が終わったことと、新年が新しく始まることを祝う日である。

 正月といえば、大抵の人は三箇日までを正月だと思いがちだが、実際は一月が終わるまでが正月となっている。

 また、親戚一同が集まったり、お年玉を貰えたりと子どもの頃はやたら楽しみだった思い出がある。



 おそらくは日付が変わり、新年が開けただろう頃。

 俺は早速宴の中央にて膝で丸くなった春蘭を撫でている華琳を眺め、新年の行事を行う。

「あうー、気持ち悪いです・・・・

 冬雲さん? 華琳様を見つめて、何をしているんですか?」

「おっ、起きたか。斗詩。

 新年の行事として、初日の出を拝んでるんだよ」

 宴会場に戻ってきた斗詩に隣を叩いて、来るように促しつつ、水を差しだす。

 酒が飲めない人などはいないが、酒と同量の水を飲むことで悪酔いや潰れることを防ぐことが出来るらしく、俺の提案で宴の片隅には水を置いてもらうことには成功していた。

「ありがとうございます・・・・

 初日の出って・・・・ 本物の太陽はまだ出ていませんよ」

 水を受け取りつつ苦笑する斗詩に、俺は得意げになって笑って見せる。

「あってるさ。

 魏の日輪はあそこに出てるんだからな、眩しくて綺麗だろ?

 みんな、朝日に照らされて、とっても楽しそうだ」

 華琳(太陽)の周りで楽しげに酒を飲み、料理を食し、それぞれが楽しんでいる光景が広がっていて、それを眺めながら飲む酒は最高に美味い。

 料理も勿論美味いが、これ以上の酒の肴はそうはないだろう。

「そうですね。

 それにしても皆さん、お酒強すぎですよ・・・」

 俺に同意して優しく微笑む斗詩は、そっと俺の体にもたれかかってきた。

「まったくだ。

 霞なんてずっと飲んでるから、折を見て俺が水を飲ませに行かなきゃいけないくらいだしなぁ。

 まっ、俺は弱いけどな」

 斗詩の言葉に同意しつつ、俺は朝用に出されつつあるおせち料理の食べやすそうな豆をよそって斗詩に差し出す。

「嘘を言わないでください。

 結局、ずっと宴会場(ここ)にいられたのなら、十分強いですよぉ」

 豆を食べつつ、溜息を()くようにそんなことを言う斗詩に俺も食事をつまみつつ、答えた。

「コツがいるんだよ、みんなの速さに合わせて食べたり、飲んだりしてたら体がもたないだろ?

 だから、たまに立ちあがって酌をしに行ったり、ふざけてあの芸の中に混じったりしてればいいのさ」

 流石に度が過ぎた牛金は俺が強制的に沈黙(気絶)させ、疲れ切った樹枝と樟夏に久々に尊敬の目で見られたな。

「・・・・慣れ、ですか?」

「じゃないと俺の場合、酔い潰されて何されるかわからないしなぁ」

 ニヤッと笑って答えると斗詩も笑顔になり、髪を梳くようにして撫でて肩を抱いた。

「確かにそうですね」

 クスクスと笑ってくれた斗詩をそのまま腕に抱きながら、あまり変わりようのない宴を眺めた。



 華琳は・・・・ 春蘭が寝てたところに秋蘭が増えてるよ。

 羨ましいなぁ、正直あそこに混ざりたい。


 風と稟、桂花は・・・・ なんかさっきこっちを見た後に作戦会議開いてるのは何故だ?


 樹枝と樟夏は二人して隅で寄り添いあうように酒飲んでるし、あれは愚痴ってんな。みんなが居るところだとよした方が身のためだと思うんだが。


 天和たちは今日も公演があるとかで行っちゃったし、人和にはある一件に関してお願いされたけど・・・ どうすっかなぁ。


 流琉と雛里は結局季衣の腹を満たすために厨房に立っていて、司馬八達も『私たちが仕事をしないわけにはいかないでしょう』とか言って途中で仕事に戻ってしまった。


 霞・・・・ お前はどんだけ、底無しなんだ? そして、凪、沙和、真桜、どうしてそれに付き合って平気になのかを、俺に教えてくれ。



 懐に入れておいた人和によって渡された書簡を見て、眉間に皺を寄せていると斗詩が俺の顔を覗きこんでくる。

「どうかしましたか?

 その書簡は・・・・」

 書簡に軽く目を通し、内容を理解した斗詩は笑いたいのだが、笑ってはいけないような困った顔をされた。

「た、大変ですね、冬雲さん」

「・・・・ありがとう」

 苦笑されたので、俺も苦笑で返すしかない。

「何よ? その書簡は!

 というか、宴会の場に書簡を持ってくんじゃないわよ! 仕事中毒者!!」

 突然降ってきた言葉とともに書簡が奪われ、その手の主に視線が映り、そこには桂花が仁王立ちをしていた。

 よりにもよって、一番この書簡を見てはいけない人物に見られた・・・・!?

「何々、『役満姉妹、幻の四人目企画』・・・?

 芸名は海和(かいほう)ちゃん、人員は・・・・」

 一通り読んだ桂花は怪しく笑って書簡を懐にしまい、それとは入れ違いに算盤(そろばん)を出して弾き始める。

「この仕事、私と華琳様が進めるわ。

 あなたは天和たちとの仲介を任せるから、衣装も、掛け声も、人員もこちらで用意するとだけ伝えておきなさい」

 正直、嫌な予感しかしない・・・

 というか、人和もこれを見越して、直接華琳達じゃなく俺に渡したんだろう。

「あぁ、わかったよ・・・」

「それから・・・・・ 膝掛け、ありがと」

 立ち去る間際にそれだけを言って、風と稟の元に足早に戻っていく桂花は凄く可愛いと思う。

「膝掛けって、桂花さんは違う物にしたんですか?」

「クリスマスの時、いつも頭巾を被ってるお桂花にマフラーはつけにくいと思ったから、少し大きめにして膝掛けにも使えるようにした」

 実際つけてみるとわかるんだが、頭巾を被った上にマフラーを巻くと首が絞まるような息苦しさがある。

  だから、多少手間はかかったが、桂花の物は倍の大きさにし、折りたたんでもマフラーに使える物にした。

「頭巾をしないと落ち着かないだろうし、無理してつけてもらいたいわけじゃないからな。

 なら、普段から使える物の方がいいと思ったんだよ」

 文官としての仕事の多いし、首元と足が温かいだけで作業の効率はずいぶん違うだろう。役に立っているようでよかった。

「・・・・冬雲さんは、どうしてそう言う気遣いが細やかなんでしょうね。

 さっき、よそってくれた料理も、私が食べやすいものを選んでくれたんですよね」

 なんだか凄く優しい目で見られ、俺は気恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

「俺が食べたかっただけかもしれないぞ?

 流琉が煮てくれた黒豆が美味しいから、ついでに斗詩にもよそった。それだけ!」

「ふふ、そういうことにしておいてあげますね」

 必死に誤魔化す俺を斗詩は微笑ましそうに笑って、立ち上がる。

「流琉ちゃんと、雛里ちゃんを手伝ってきますね」

「酔い潰れてたんだから、無理はするなよ」

「もう、冬雲さんの意地悪!」

 俺は仕返しのつもりで返しつつ、そう言って笑いながら厨房へと向かう斗詩を見送った。

 まったく、俺の好きな子はどうしてこんなに可愛いんだ?

「さて、冬雲。

 やっとウチが冬雲を独り占めする時が来たでぇ!」

 そう言って俺の肩に絡みついてくるのは酒臭い霞、その割には意識がはっきりとしているらしくいくら飲んでもまったく酔わない不思議な体質でも持ってるんじゃないかと思う。

「俺としては嬉しいけど、それは厳しいだろ。

 宴会場の中でと二人っきりにはなれないし、ここでしたらどうなるか・・・・・」

 絡みついてきた霞の腕をとり、とりあえず隣に座らせて水を渡し、いくつかの点心をよそう。水を飲み、俺がよそった点心を美味そうに食べる霞におもわず顔がにやけた。

「だから、今から行くんよ。

 馬走らせて、二人で綺麗な景色でも見に行こっ!」

 諦める気のないらしい霞は、目を輝かせて話を続ける。

 俺も二人での逢引きはしたいけど、難しいとも思うんだよなぁ。

「あのなぁ・・・ そんなのすぐにばれて、みんなに追いつかれちまうぞ?」

「ウチと冬雲やったら平気やって!

 ウチの黒捷(コクショウ)と冬雲の夕雲やったら、それこそ華琳の絶影か、本気出したん秋蘭にしか追いつけへんわ」

 華琳と秋蘭(その二人)が本気を出しそうで怖いから、言ってんだけどなぁ・・・・

 酒を飲んで咽喉を潤しつつ、今年の干支が馬であることを思い出し、腰をあげた。

「夕雲を思いっきり走らせていいなら、その提案に乗る」

 みんなは怖いけど、黒捷と夕雲が本気を出して走れば。それこそ誰も追いつけない。

 あとは俺たちがしがみついていればいいし、二頭の散歩のおまけで綺麗な景色を見ることが出来たら御の字だろう。

「えぇよ。

 黒捷も鈍ってるみたいやし、思いっきり走らせてやりたいんや」

 言うが早いか、俺が立ち上がろうとした瞬間に霞に腰を持たれ、肩に担がれた。そして、霞が滅茶苦茶悪そうな顔をして、息を吸う。

 わーい、今年二度目の嫌な予感が、到・来!

「アハハハハ、今日の冬雲はウチのもんや!

 とれるもんならとってみぃ!!」

 その言葉とともに宴会場が殺気立ち、一斉にこちらを見る。

 だが、全員が見る先にあるのはまるで荷物のように肩に担がれた俺と、得意げな顔をしているだろう霞の姿。

「今年初めの宣戦布告、ね? 霞」

 華琳の言葉が静かになった宴会場に響き、誰かが少し動くだけでそれがやたら大きく聞こえる。

 酔っていた春蘭と秋蘭がゆらりと立ち上がり、武官だけでなく文官である筈の稟や風からも穏やかではない気が流れる。

 怖っ!?

 ていうか、本当に稟たちって軍師なのか?! 何でこんな殺気を出せるんだよ!

「ヒャハハハハ、どんな殺気も今なら怖ないわぁ!

 行くで! 冬雲!

 舌噛まんように、しっかり口閉じとくんやでぇ!」

 言うが早いかその身を翻して駆けていく霞と、それを追ってくるみんなの地鳴りにも似た走る音。

 しかし、下を向き、上下に揺れるような感覚に襲われるこの体勢は酔う。とりあえず、酔いを多少防ぐために顔をあげると、後ろからくる親の仇でも見つけたかのような全員の顔におもわず表情が強張る。

 突っ込みたいけど、突っ込んだらすぐに舌を噛みそうな気がして出来ないな。

「兄上は年が明けようと、暮れようと変わらないんだなぁ」

「兄者の運命なのだろうな・・・・ そしておそらく、我々も」

「縁起でもないことを言うな!

 あいつが蘇ってくるだろうが!!」

 宴会場を去る間際の義弟たちの会話と、その影に忍び寄る見慣れた部下の後姿を見たことは気のせいだと思っておこう。

 お前たちも頑張れ、義弟(おとうと)たちよ。



 霞にかっさらわれ、突然の事態にもかかわらず、状況を察してくれた愛馬たちには頭が下がる思いです・・・・

「ありがとう、夕雲。

 お前じゃなかったら、絶対逃げきれてなかったよ・・・・」

 走りながらそう囁くとさらに速さが増し、俺自身が本当に乗っているだけの状態だった。

 城を出た辺りまではわかったが、それ以降の道はどうも馬二頭が決めているらしく、霞はもう楽しんでるだけだな。

「気が済むまで走りや! 黒捷!!」

 朝日に照らされ、黒馬と共に駆けるその姿は雄々しく、美しい。

 『人馬一体』、まさにそれを体現している霞の姿に思わず見惚れてしまう。

 戦場を共に駆け、命を預け、生死すら共にすることもある愛馬。

 騎馬隊の者たちの愛馬へと駆ける思いは、恋人や親類に向ける感情によく似ていた。

「綺麗だなぁ・・・・」

 そんな俺の言葉の思いを察してくれたのか、夕雲は立ち止まって、その光景を見せてくれる。

「一つ不安があるとすれば、城に戻る時だな・・・・」

「そりゃないわ。

 華琳や、白陽も、他のみんなも似たり寄ったりやし、だーれもウチを責めることは出来んよ。

 今日はたまたま、ウチが先手を打てただけや」

 俺がそう言って頭を抱えていると、汗を拭いながらこちらに駆け寄ってくる霞の姿があった。

 流石にあれだけ馬に任せて動いていれば、汗くらいはかくか。

「はぁ・・・・ 汗くらいは拭けよ。まだまだ寒いんだから、風邪ひくぞ?

 この時期でも真桜と霞は二人して、そんな格好でいつも風邪ひかないか心配してんだからな?」

 手拭いで顔についた汗を拭きつつ、軽く注意をしとく。

 冬場でも上着を羽織ってくれないからせめてマフラーを贈ったんだけど、『もったいない』とか言って使ってくれないんだもんなぁ。

「ほつれたら直すし、ボロボロにしてもまた作るからさ。

 マフラーもちゃんと使ってくれよ」

 そう言って頭を撫でると、霞は赤くなった顔を隠すように俺の胸に顔を押し付けてきた。

「・・・・冬雲は卑怯や、いっつもこういう不意を打ってくる」

「そんなつもりはない。

 そんなこと言ったら、さっき黒捷と一緒に駆けてた霞だって・・・・」

 言いかけた言葉が流石に恥ずかしいものだと気づき、やめる。

 が、仕返しとばかりに霞がすぐさま顔を上げ、俺の胴へと腕を回してきた。

「おぅ、なんやなんや? 言うてみ、この色男。

 ウチに見惚れでもしてたんか?」

 その腕を払うことも出来ず、人をからかう時の霞の表情も好きだとか思うのは惚れた弱みだろう。

 だから、熱くなる頬を手で隠しつつ、俺は白状することに決めた。

「あぁ、そうだよ!

 朝日に照らされる中で、まるで黒捷と共に舞うように戯れる霞に見惚れたよ!」

 一息で言いきって、霞を見るとさっきよりも顔を真っ赤にしていた。

 言っちゃ悪いが、霞が照れるところって滅茶苦茶珍しいよな。俺が知っている限りだと、他のみんなの前でも見せたことないんじゃないか?

「あー! もう・・・・・ 冬雲やなぁ。

 年暮れても、明けても、なーんも変わらへん。

 どこ行っても、それこそ馬鹿と一緒で死んでも治らへんとちゃう? この天性の女ったらし!」

 えー・・・・ これって褒められてるか微妙じゃね?

 俺が微妙そうな顔をしてることに気づいた霞は、真っ赤な顔をしながら黒捷に飛び乗った。

「けどウチらは、そんな冬雲に惚れたんや。

 あん時の一刀に惚れて、帰ってきた冬雲に惚れた。

 ウチらはみーんなして、同じ男に二度惚れたんよ」

 そう言って笑う霞の笑顔はとても綺麗で、俺はまた見惚れてしまう。

「まっ、ずいぶん他所の女も惚れさしとるようやけど・・・ それもしゃーないやろ。

 華琳が惚れた男で、あん時のみんなを惚れさした男や。それに・・・・」

 その言葉を聞きながら、夕雲の背に乗った俺の横を通り過ぎ様とした瞬間。

 突然、俺の頭をその手にしっかりと掴んで顔が近づけ、唇を奪われた。

「ウチが惚れた男や。

 大陸中の女が欲しがっても、ウチは驚かへんよって」

 そう言ってにやりと笑って、黒捷と共に駆け抜けていった。呆気にとられた俺は、一度膝を叩いてから夕雲を翻した。

「ちょっと待て!

 言い逃げなんて卑怯だろうが!!」

「冬雲もよくやることやーん。

 仕返ししたかったら、ウチに追いつくか、捕まえるかをしてみー!」

「その言葉、後悔させるからな! 霞!!」



 この追いかけっこが日暮れまで続き、城に帰った時にみんなから笑顔で説教されたのは言うまでもない。


削除した話に関しては、歌詞を出さずに心情部分だけをうまく書くようなものに直したいと思っています。

それが本編になるのか、番外になるかは今のところ未定ですね。


次の投稿は恋の視点の予定です。その後は別投稿で蜀の視点を書きだしたいと思います。


感想、誤字脱字お待ちしています。


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