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プロローグ 始まりは体当たりと共に

なろうでは久し振りに書きました。

連載でファンタジーをやるのは初めてなのですが、ゆっくりとやっていきたいかなと思います。

 それは唐突な始まりだった。


 「何で俺はこんな場所に居るんだよ……」


 悲壮に満ちた俺の声が、虚しく響く。見たことも無い薄暗い森の中。辛うじて木漏れ日だけが、今は夜ではないという事を親切に教えてくれる。


 何故俺はこんな森の中に居るのか。自らのことだというのに、記憶は非常に曖昧だ。もしも誰かにそう聞かれたとしたら、気付いたらこの場所に居たとしか答えようが無い。


 別に部分的な記憶喪失になったとか、そんなことは無いはずだ。有り得ない状況に陥っている今、その認識こそが間違っているという可能性も否定出来ないが、それを言い出すときりが無くなるので、深く考えるのは止めて置く。


 少なくとも俺の知る限りでは、自らこんな見知らぬ森の中に訪れた記憶は無いのだ。


「兎に角、一度落ち着こう」


 俺は自分に言い聞かせるように一人呟きながら、自分がこんな現状になる直前、今から三十分程前のことを思い出すことにした。


 俺はその日も一年間使い古した通学鞄をぶら下げ、深夜までゲームをしていて寝不足気味な眼を擦りながら、通い慣れた通学路を歩いていた。


 最近の変わったことと言えばつい先月、高二に進級した程度だろうか。


 身長に体重は日本人としては年齢的に言ってほぼ平均の値。特に勉強が出来るという訳でもなければ運動が得意なんてことは無いが、どちらも壊滅的な訳じゃない。


 良く言えば日本における模範的な高校生男子。悪く言えば地味で目立たない奴。それが俺、空野そらの 翔太しょうただ。


 そんな俺の前に、何の前触れも無くそいつは現れた。


 ……鶏だ。


 俺の前に現れたのは、食卓に高確率で並ぶ卵を産む、あの鶏に他ならなかった。ただその鶏は俺が良く知っている見た目とは少し毛色が違っていた。


 普通の鶏と言えば羽毛の色が白か、茶色と言ったところだろう。だが俺の目の前に現れた鶏の羽毛は、鮮やかな青い色をしていたのである。


 しかもあろうことか、その青い鶏は俺と目が合った瞬間。俺に目掛けて強烈な体当たりを仕掛けてきた。


 突然の事態に俺は抗う術も無く、腹に鶏の一撃が見舞われる。効果は抜群だ。もしもこの一撃が後数十センチ下に当たっていたのであれば、俺の男としての人生は、ここで終了していたかも知れない。


 だが今思い返してみれば、この一撃を受けた次の瞬間。俺の平凡な人生は終わってしまったのかもと本気で思う。


 何せこの青い鶏の体当たりを受けた直後、俺は見慣れた通学路から、この見知らぬ森の中へと迷い込んでしまっていたのだから。


「……思い出したら余計に訳が分からなくなったな」


 俺は自嘲的なな笑いを零しながら、大きな溜息を一つ。


 青い鳥と言えば良いイメージがあるものだが、俺の前に現れた青い鶏は不幸の象徴だとしか思えない。大体にして、何で体当たりされたら知らない森の中に居るという超展開なのだろうか。


 最近の漫画やゲームでも、もう少し親切な説明があるだろうよ。


「いつまでもこうしてる訳にもいかないしな。少し辺りを歩いてみるか?」


 もしかしたら、誰かに会えるかも知れない。そんな淡い期待を抱きつつ、俺がその場から動こうとした時だ。


 すぐ近くの茂みで何かが動いた。


 もしかしたらこの原因となったと思われる可能性が、現状では一番高い青い鶏かも知れないと予想したが、その予想は外れてしまう。


 現れたのは黄色い半透明でやけにプルプルとしたゼリー状の丸い球状の何かで、その中央には二つのつぶらな瞳と小さなクチバシが存在していた。


「……」


「……」


 お互いに暫くの間、無言で見つめ合っていたが、いつまでもこうしている訳にはいかない。


 俺は未知との邂逅に、戸惑いながらも、一歩足を後ろへと下げる。その際に落ちている小枝を踏んでしまい、静寂の中に、パキンと乾いた音が響く。


 それが始まりの合図だった。


「ピヨー!」


 未知の存在は、そんなユーモラスな叫びを上げると共に、ゼリーのようなその体をプルプルと揺らしながら、俺に襲い掛かってきたのだ。


「うわっ!?」


 俺は情けない悲鳴を上げながらも、何とか謎のプルプルの体当たりを回避することに成功した。


 急に襲い掛かってきたのにはびっくりしたが、青い鶏の時とは違いある程度の覚悟はしていたし、何よりも動きが遅かったから避けることが出来たのだ。


「取り敢えずここから逃げなくちゃ!」


 逃げるが勝ちとばかりに、俺は全速力でこの場から退散する為に駆け出そうしたのだが……。


「……嘘だろ」


 だが俺は足を止めて、全身から滝のような汗を噴き出す。


 何故なら俺が逃げようとしたその先には、黄色い半透明のプルプルした謎の生物が、大量に待ち構えていたのである。

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