第五話
「リュイ」
「はーい!」
そろそろ町につくころ、ネビロスはリュイを呼んで立ち止まった。ニーラは地図から視線を移し、何をするのかとネビロスを見る。リュイは元気にネビロスの傍に寄ると、大人しく魔術に掛かった。すると、ピンクの髪は金色に、金の目は青色になった。
「…魔族の色はそう簡単に隠せないと聞いていたが」
ニーラが静かに言えばネビロスは自らにも魔術をかけながら答えた。
魔族ということを象徴している赤系の髪色に、金の目。それは並大抵の魔術師じゃ隠せない代物だ。
「俺を誰だと思ってるんだ。リュイ、俺の傍を離れるなよ」
「うん!!」
ネビロスも同じく金髪青の目に、耳も普通の人間の物になっていた。傍から見れば親子だ。と、そのまま歩き出すネビロスの長い髪の毛をニーラは掴んだ。
「おい!上半身裸のままで行くつもりか!?」
最初は翼が生えるときに邪魔だから、という理由で渋々納得していた。だが、さすがに町へ上半身裸のままだと視線が痛い。
「当たり前だ。なんか文句あるか」
「大有りだ!魔術でも何でも良いから服を着ろ!」
今までこいつは人の目というのを気にした事ないのか!?と今更ながらネビロスの適当さに呆れる。
「チッ…。人間というのは実に服に縛られるのが好きだな」
「お前が露出狂なだけだ……」
渋々魔術で服を作りあげ、それを来た。黒いズボンにおしゃれYシャツを着こなす彼はどこからどう見てもイケメンの部類に入る。
「お兄ちゃんカッコいい…!」
「ん?ありがとう」
キラキラした視線を送るリュイに少し苦笑いしながらも礼を言った。ニーラは地図を仕舞い、リュイを肩車して歩き出したネビロスの後を追った。町に入れば何故か少ない女子の黄色い視線がネビロスに注がれた。ニーラは居た堪れなくなって軽く溜息をついた、その時…。
「勇者様とその御一行様ではありませんか!?」
「本当だ!!あの剣はまさしく聖剣!勇者様が来たぞぉー!!」
「これであのキマイラを倒してもらえるわ!!」
『御一行』扱いされたネビロスが盛大に舌打ちをしてリュイをつれてさっさと宿屋へ向ってしまった。その間にもニーラは村人達に囲まれる。ふと、村人に若い女性の姿が妙に少ない事に気が付いた。
「あの…村長さん、若い女が少なくないですか?」
人ごみを掻き分けてやってきた長老に話しかければそれまで騒いでいた人々が一斉に静かになった。
「…そのことについて勇者様に頼みたい事があります……。立ち話もなんですので私の家へどうぞ」
長老に案内されて1番大きな家へ入った。使用人らしき人物が客間へと案内し、別の使用人がお茶を出して退室した。長老とニーラは向かい合ってソファに座る。
「で、俺に頼みたい事ってなんですか」
ニーラの問いに少し俯き加減になった長老。しばらく間を明けてからゆっくりと話始めた。
「少し前にキマイラという魔物が現れましてね…。私達に「魔王様を見ていないか」と聞いたんですよ。我々は見ていないと答えると顔を鬼のように歪め……」
ふるり、と長老の体が震えた。
――魔王様…ということは穏健派の魔物か。
「我々は恐ろしくなって、裏の山に住み始めたキマイラに定期的に生贄を捧げる事にしました」
「…!だから若い女が居ないんですか」
「えぇ。どうにかしようにも相手は幹部クラスの魔物ですからね……。どうか勇者様、退治してくれませんか?」
――幹部クラスといえばネビロスも知っているはずだな……。
ニーラは少し考えてから頷いた。
「……分かった。準備が整い次第、向いましょう」