第三話
「見つけたぞ!!勇者と裏切り者の魔王だ!!!」
その言葉にゆっくりと右を見たネビロス。勇者もその言葉に困惑しながら左を見る。
「…巴か。ご苦労な事だな」
「見つけましたぞ。勇者と共に死んでいただきましょう」
巴が一言合図すれば後ろに居た大勢の魔物が一斉に掛かってきた。それと同時にネビロスの口角が上がった。その笑みに背筋に悪寒が走る勇者。ネビロスが返り討ちにしようと動いたときに我を取り戻し、とっさに聖剣を取りに向った。
「ハッ!数だけ揃えたって俺に敵わないのは貴様が良く知っているだろ!」
毒を秘めている両手の爪で次々と魔物を倒していく。勇者はリュイの傍に行き、ネビロスの倒し損ねた魔物から庇っていた。勇者はネビロスを見る。
――この魔物たち、俺でも一撃じゃ倒せないのに……。流石は魔王って所か。それにしても何故、この子と共に行動しているんだ…?
ちらりと後ろを見ればこういう場面は慣れているのか大人しく勇者に守られていた。
「…やっぱ、あっけなかったな。さて、最期はお前だけか?」
返り血でいっぱいのネビロスは光る金の目を巴に向けた。恐怖で体が固まりながらも必死に言葉をつむぐ巴。魔物は全員倒された。
「くぅ…!魔王様!!何故そのような人間に近い者と一緒に居るのです!?貴方様は全ての生き物の頂点に立つべき魔王ですぞ!!!」
「何を言っているんだ。俺は魔王だ、だからそこに居る勇者に殺されるのが運命って奴だろ。死ぬ為に世界征服をするぐらいなら、生きる為にお前達を敵に回したほうが良い。立場なぞ、俺はいらん」
「っ!?」
困惑する勇者。巴はネビロスを説得する事に諦め、逃げるように移動魔法を唱えた。ネビロスの爪が仕舞われ、頬についた血を乱暴に腕で拭った。
――魔王と言う立場を捨てる!?第一、俺よりも強いくせに勇者に殺されるって……。何なんだよ、何なんだよ!
「負ける宣言か、魔王!!!」
「…まだ居たのか、へっぽこ勇者。リュイ、こっちにおいで」
トトト、とネビロスの今の姿に怯えることなく、しかし彼に触れることなく傍についた。勇者は細い腕で聖剣を持ち、切っ先をネビロスに向けた。しかし彼は動じることなく魔術で血が拭われ、綺麗になった。
「俺に殺されるのが運命って、どういうことだ!!?」
「知らないのか。…俺が話す事は何も無い。去れ、今のお前じゃ俺には勝てない」
踵を返そうとした瞬間、掛け声とともに聖剣がネビロスの首に向って振り下ろされた。しかしそれはネビロスが止めることなく止められた。
「……【世の理】なら聞いた事がある。だが、信じては居なかった」
「…お兄ちゃん、世の理って?」
ポン、とリュイの頭にネビロスの大きな手が置かれた。
「お前は知らなくても良い事だ。勇者、俺は何度か幼いお前にレベルの高い魔物を送った。俺自身で手を下そうとした事もある。だがな、全てお前だけは生き残り、周りの人間は死んだ。分かるか、この意味が」
勇者は何も答えなかった。心当たりがあるのだろう。リュイは聞きたそうな顔をしていたが、ネビロスの優しい目を見て諦めた。何も言わないときの目だと理解している。
「…だが、お前を見て本当は嘘じゃないのかとも思っている」
大きく見開かれる目。そして、収められる剣。ネビロスはゆっくりと勇者を見下ろした。何かを決意したような目。緑色の瞳は綺麗な輝きを持っている。
「決めた。俺はお前達についていく。そして、貴様の旅の目的を見届けるか、貴様が諦めた瞬間のその首を頂く」
「……ふん、勝手にしろ」
何を言っても聞かないな、と諦めた。と、ジャンプして全身で喜びを表し始めたリュイ。
「やったぁ!!お友達が増えたよ!!!ねぇねぇ、お名前は?私はリュイ!」
「ニーラだ。魔王…」
「ネビロス、だ。俺は魔王の座を降りている」
魔王にも名前はあったのか、と些か失礼な事を考えたニーラ。
「…ネビロス、いつでも俺が貴様の首を狙っている事を忘れるなよ」
「取れるもんならとってみろ、へっぽこ」