第二十話
「予定変更、急ぐぞ」
「は?なんだよいきなり……」
朝、全員が朝食を摂ったのを確認したネビロスはいきなり言い出した。吃驚する3人。行き先は図書の国、リララ国と決まっていた。ネビロスは黒い翼を背中から生やす。スイレンにかけていた魔術を解けばスイレンも飛べる体制になる。
「飛んでいくぞ。リュイとへっぽこは俺に乗れ。スイレンは俺のスピードになんとしてでも付いて来い」
「兄さんの負担が大きくなるから僕がリュイを…」
「気持ちだけもらっておく。さぁ、乗れ」
鳥頭を撫でるネビロス。彼はそのまましゃがんだ。リュイが先に乗り、彼女を支えるようにニーラも背中に乗った。漆黒の翼が力強く羽ばたく。浮くネビロスの身体。スイレンも今一納得のしていないままネビロスにしたがって宙に浮いた。
ネビロスは2人を乗せているとは思えないスピードで空を飛ぶ。スイレンも全力で付いていった。しかし、徐々に2人の距離が広がっていく。ネビロスは一旦止まった。今まで飛ばされないようにとネビロスに捕まっていた2人は驚く。直ぐにスイレンも追いついて息を切らす。
「…急き過ぎたな。もう少しゆっくりいくか」
落とさないように身体は地面に平行にしたまま疲れているスイレンを見る。
「だい、じょうぶ!!」
「無理はするな。なんならお前も乗るか」
名案とばかりに言うがスイレンは首を横に強く振る。
「自分で飛ぶ!!」
「よし、行くぞ」
一度頭を撫でてから先程よりもゆっくりの速さで飛び始めた。しかしそれでも時速30km。あっという間にリララ国が見えてきた。半径5kmぐらいだろうか。薄い膜が何重にも張られている。ネビロスは軽く舌打ちをして止まった。スイレンに合図して2人とも着地をする。ニーラとリュイもネビロスから降りた。スイレンは息を切らしているのに対してネビロスはそんな様子は皆無だ。
「結界が張られているが、お前らは入れるのか?」
ニーラも気が付いており、結界に触れるギリギリのところに立つ。スイレンも結界の近くに立っているのでネビロスは少し遠ざけた。
「入れるわけが無いだろ。そんな事も分からないのか」
「唯の確認だ!」
「ふん。…ほぼ確実に俺とスイレンは入れないな。リュイは…『勇者様』が一緒なら平気だろ」
皮肉たっぷりにニーラを見る。それにいらつきを覚えながらも確かにな、と同意。
リララ国は世界的にも防衛意識の高さで有名だ。世界最大の図書『塔』があり、歴史的にも、文学的にも重要な書物が多数保管されている。魔物に襲われ、それらの書物を失くしては大打撃だ。その為、国から少し離れた所から何重にも掛けてある強力な結界、高い塀、鉄の門、兵士の数も質も世界一と謳われている。魔王であるネビロスでさえ、攻め懸けるのには骨が折れるだろう。
「俺とスイレンは此処に残る。へっぽことリュイは国に入り、【世の理】とりわけ【魔王の存在意義】【勇者の存在意義】を調べて来い。ついでに現実と理想の神話もだ」
注文が多いな、と不満になりつつも流石に今回はネビロスが関わるわけにもいかないので渋々頷いた。スイレンもネビロスと共に野宿する事に異論は無い。しかし、リュイはそうはいかなかった。
「やだ!!私もお兄ちゃんといる!!!」
ネビロスのズボンの裾を引っ張って口をへの字にし、大きなクリクリとした目でネビロスを睨む。なんと可愛らしい事か。ネビロスは軽く微笑んでしゃがんだ。
「いいか?此処は春大陸とは言え、魔物が居ないわけではない。国の中の方が安全だ」
しまい忘れていた翼をしまいながらリュイの頭を撫でる。
「……でも」
「俺は命を狙われる身だからな。一緒に居ると危ない。俺と一緒に居たいのは分かるが、聞き分けてくれ」
一緒に居ると命の保障は無い、とその目は語っている。これまでに何度か命を狙われる事もあったリュイ。コクリと静かに頷いた。ネビロスは良い子だ、と褒めながら立ち上がる。
「俺達はここら辺りに潜伏しておく。まぁ、国から出てきたら音で分かるからな。結界の外に出て待ってろ。期間は1週間と2日間だ」
「分かった。リュイ、いくぞ」
「うん…。ばいばい、お兄ちゃん、スイレン」




