第十九話
「今回の魔王についてだけど……」
「既に人の心を持っているわ。修正は不可能よ」
豊かな胸、細いウエスト、所謂グラマーな深いスリットが入っている赤いドレスを着た女性が長い足を組みながら答えた。赤く艶やかな唇が綺麗に弧を描く。細い指が長い美しい金髪を弄る。
「でも、僕は出来ると思うな。この間は若干心が揺れたもん。邪魔が入らなきゃ出来たもん!」
ドン!と小さな足が地団駄を踏んだ。白のワンピースのようなシンプルな服が揺れる。小さな手は強く握り締められていた。
暗い暗いこの世のどこでもない空間。そこに彼と彼女は居た。この世の生き物ならざる者の証であるブラッティレッドの瞳が互いを見る。
「現実と理想はいつでも違うもの……。あの子の理想は現実にならないわ」
綺麗な子なのに残念ね、と妖艶に笑う。
「悲しいね、理想は実現しにくいのに誰でも持っちゃう。あの人の現実は理想通りにならない」
僕の理想どおりにはなるけどね、と子供特有の無邪気な笑顔を浮かべる。
「フフフ。理想ばっかり追いかけて馬鹿な子……」
あっちの馬鹿な子は好きだけど、と長い睫毛が伏せられる。子供はムスッとした表情になった。
「君が現実的過ぎるんだよ。理想を持たなきゃ誰でもやってらんないよ」
「さっき、実現しにくくて悲しいと言ったのはだぁれ?」
クスクスと魅力的な唇の端を上げて、指先でくるくるとまだ髪の毛を弄る。男が見れば誰でも振り返る美貌を持っている。
「それはそれ、これはこれ。しにくいだけで叶わないとは言ってないよ」
子供は理想が好きね、と少しの嘲笑を篭めた。女は現実を見過ぎだよ、と少しの嘲笑を篭めて返す。
「理想なんて追いかけたって駄目よ。もっと現実を見なくちゃ……」
「現実だけをを見たって駄目だよ。もっと理想を見ないとね……」
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「っ!?」
丑三つ時、寝ていたはずのニーラは勢い良く起き上がった。幹に寄りかかって仮眠をとっていたネビロスも彼女が動いた気配で起きた。しかし目を瞑ったまま寝たふりを続ける。
「女と…子供?現実と理想……」
小さく、寝ている子供2人を起こさないように呟く。ニーラは頭を抱えた。
「…見せろ」
低い声が聞こえたかと思えばニーラの額に小さな光がくっついた。吃驚して声が聞こえたほうを見れば暗闇の中、妖しく光る金の目が此方を見ている。ネビロスか、と少し安心する。しばらくして光は消えた。
「何かわかるか?」
「……いや。もう寝ろ。途中で倒れられても困る」
何か隠しているような声色だったが、ネビロスは既に目を瞑ってしまったのでニーラはそれ以上深く追求せずに黙って再び眠りについた。寝息が聞こえてくるとネビロスは目を開けて宙を見た。
「現実と理想の神話…か。女と子供。現実と理想。恐らく理想の子供が俺を襲った……だろう?どこかで見ているお2人さんよ」
ニィッと笑った。
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「やっぱ、あの子は凄いわ…!私、ゾクゾクしてきちゃった」
自分を抱いてハァ…と意味ありげの溜息をつく。
「…力を与えすぎたね。でも、夢の世界じゃ僕が最強だ!!!」
「熱くなっちゃやァよ。彼はとってもクールなんだから……。感情に身を任せちゃ負けちゃうわよ?」
子供の後ろから右手を持っていき、左頬に添えた。軽く力を入れて首の方向を変えたと思えば、軽いキスを降らす。
「僕は頭に血が上って暴走したほうが強いんだ!!」
女を突き飛ばして喚く。女は残念そうに頬を膨らませた。
「んもう、子供ね……。まァ、そういう理想を持っているなら貴方はそれでいいんじゃない?理想こそが貴方の強みなのだからね…」




