第十七話
「リュイ…!兄さん……!!」
スイレンが悲しげにぐったりとしている2人を見る。徐々に目に涙が溜まってきた。ニーラが人間の姿から半分程元の姿に戻っているスイレンを慰めようと手を伸ばした瞬間、ネビロスの目が開いた。
「…なぁに泣き出しそうな顔してんだ、スイレン」
「っ~!!兄さん!!!」
勢い良くスイレンは抱きついた。ネビロスはちゃんと受け止めた。自分にもたれかかっている姿の変わったリュイの頭を撫でた。大きくなった彼女の姿に驚いている様子はない。
「お前のお陰で助かった。ゆっくり休め」
その言葉が聞こえているのかそうではないのか、姿が元に戻った。スイレンにも労いの言葉をかける。と、ニーラを睨んだ。
「半分ほど、お前の所為だ」
「はぁ!?」
意味が分からない、という風に素っ頓狂な声を上げた。スイレンがネビロスから離れる。ネビロスが明後日の方向を見る。
「これで全部が終わったわけでもないし、やっと接点を持てた。スイレン、またこうなったら叩き起こせ。俺は滅多な事じゃ傷はつかないからな」
「…わかった」
リュイを抱っこしたまま立ち上がる。
「だから俺の何がいけないんだよ!」
苛立たしげに声を荒げる。ネビロスは少し黙った後、リュイをスイレンに渡して少し離れろ、と指示を出した。スイレンたちが声が聞こえない程度に離れるのを確認すると、いきなりニーラの頭を掴んだ。抗議しようと口を開いた瞬間、彼女の頭の中に映像が流れ込んできた。いきなりの事に吃驚してネビロスから離れようとするが、彼の手がそれを許さない。しばらくそうしているといきなり顔が開放された。
「今のは……?ってか、掴まれた頭が痛い」
「先程俺が見た夢だ。…お前が暴れるから強く掴まなくちゃいけない羽目になったんだろ」
ニーラはネビロスの記憶が流れ込んだ事と、掴まれた頭が痛いのとで手を頭に添える。何とか理解しようとするが、いまいち分からないらしいニーラは首を傾げるばかり。呆れたように溜息をついたネビロスは一発デコピンをかます。
「痛っ!」
「お前は本当に馬鹿だな。仕方ないから説明してやる」
「何だよ、その上から目線は……」
額を押さえてむっとした表情になる。ネビロスは馬鹿にした態度のまま説明を始めた。
「俺は幼い頃に先代魔王である親父から『魔王のための教育』を受けた。洗脳や恐怖による植え込み教育といっても良いかもな。一度、完全に俺の言動や思考は今までの魔王と変わらぬものとなった。……ここまでいいか」
ドヤ顔をしながら神経を逆なでするように聞けば効果は抜群。
「そんなに馬鹿じゃない!」
「で、親父が死んでから俺は【世の理】…とりわけ【魔王の結末】を知った。俺は魔王である自分自身に絶望し、完璧な魔王である事よりも結末を変えることにした。その為に親父から受けた教育の賜物である『完璧な魔王である自分』は邪魔だ。そこで記憶を無理やり自分の魔術で抑えた」
「一つ良いか?抑えたって事はその記憶自体はあるんだよな」
少しネビロスの心外だと言うように目が開かれた。ニーラがまたむすっとする。
「なんだ、お前にしては良い線だな。そうだ、今でも抑えているし、思い出す事もできる。ただ、そこに感情や思い込みはない。……簡単に言えば第三者の記憶を見ているようなもんだ」
「へぇ」
必死に理解をしようとするニーラ。ネビロス自身完璧に理解しているわけでもないが、それでもニーラよりかは理解していると自負している。
「魔術が解けかかっている時にお前が余計な一言を言うから魔術がいきなり解けた。で、此処からは俺の推測だが、既に俺は【世の理】から外れかかっているのは分かるな?」
「城を出て、世界征服を目論むどころかそんな物どうでも良いと考えている事とか?」
ネビロスは小さく溜息をついた。
正確には勇者と共に旅をしている事、魔物を纏め上げていない事、人間に手助けをするような行動をとったこと等だ。もちろん、ニーラのいった事も間違いではない。
「…それでいい。俺の魔術が切れた事によって『完璧な魔王』になるチャンスが出来た。【世の理】に意思があるのかどうか知らんが、奴はそれを利用して俺に修正を掛けに来た」
「幼いお前と父親の問いかけがそうか?」
「あぁ。俺自身の本当の性格も見抜いているからな。正直リュイが居なかったら修正されていただろう」
これで終わりだ、とニーラに背を向けた。
「…そのリュイだけど……」
何で姿が変わったんだ、と続けたかったが面倒な表情になっていたネビロスが振り向いた所為で続かなかった。
「今日はこれで終わりだ。また話してやる」




