第十六話
『魔王様に触れてはいけない。魔王様の巨大な力によって殺されるぞ』
いつだったっけな。凄く凄く幼い時…生まれて間もない時だ。今までの魔王よりも力を持っていた俺は母親から恐れられ、父親から妬まれた。赤ん坊のときから皆の言葉を理解できていた。
誰か自分を抱っこして――
根拠のない噂で誰も叶えてくれなかった。
誰か自分に優しくして――
俺を妬む父親によって阻まれた。
誰か自分の母親になって――
俺に厳しい父親が母親を殺した。
誰か自分を愛して…!――
俺を恐れて誰も叶えてくれなかった。
独り、孤独…。俺は怖かった。誰も俺の話を聞いてくれない、誰も助けてくれない。
夏の大陸へ逃げ出したとき、魔族の村を見た。皆助け合って生活し、協力して襲ってきた人間を追い返していた。一人の奴には手を伸ばして大勢で生きていた。俺はそれが羨ましくて羨ましくて堪らなかったんだ。もちろん、その後は父親に捕まって酷く折檻を受けた。
日々行われる暴力に俺は屈してしまい、一度は父親や周りが望む『魔王』になったんだ。
「じゃあ戻れば良いじゃんか。君の中にはまだ『魔王』が居る」
目の前の子供…俺だが、笑いながら言った。いつの間にか後ろの親父は居なくなっていた。
居ない。俺の中には『ネビロス』しか居ない。
「じゃあキマイラの所で魔物を殲滅したのは誰?」
俺だ。
「違う。魔王だ。悪魔の名を持つ魔王が出てきたんだ」
確かに俺の名前は魔物に由来しているが、俺は俺だ。
「惨殺して笑っているのに?楽しかったでしょ?」
否定はしない。
「ほら、そんな残虐な性格を持つのは魔王だけだよ。委ねなよ。君の欲望のままに」
ゆっくりと手を伸ばされる。俺の頭の中で警報が鳴る。
ニゲロ。フレテハイケナイ。
もう一つ声が聞こえる。
ヨクボウノママニウケゴヨ。ラクニナルゼ。
目の前の俺が言う『魔王』って奴だ。逃げなければ、なのに体は動かない。
「クスクス。逃げられないでしょ?これが僕の…世の理の力さ!!抗おうなんて思わない事だね!!!それに、心の何処かでは戻って快楽に身を委ねたいと思っているんでしょ?だから僕がそこまで力を入れなくても動かない。さぁ……」
やっぱり干渉していたか。駄目だ。全部全部分かってやがる。
俺だってわかっているんだ。昔の記憶を封じたのは『完璧な魔王である自分』から逃げる為。あんな記憶があっちゃ親父の望みがままになっちまう。あの記憶を心理的に乗り越えない限り決別した事にはならない。…全部あのへっぽこの所為だ。
「そうさ。だから復讐するんだ」
……ばーか、誰かするかよ。
俺の肩に誰かの手が置かれた。温もりのある落ち着く手。大きさは違えど、おそらくリュイだな。俺は手をまっすぐ前に伸ばして魔術を唱えた。




