第十話
「私はこの場に残り、穏健派の魔物たちを守ります」
自分の身の置き場に迷っている魔物も一応此処に残る事を決めた。ガーゴイルはネビロスの腕の中ですやすやと眠っている。
「よろしく頼む。ついでに村人達にお前は何もしないとへっぽこから伝えておく」
「だから俺はへっぽこじゃない!!」
「俺の少し本気を出した姿に怯えていたのは何処のどいつだ」
空が白み始めている。夜明けだ。ネビロスは大欠伸をしながら気絶してしまった女達を魔術で起こしていく。ついでに今晩の記憶も消していく。ネビロスは自分に魔術をかけ、町に入ったときと同じ格好になった。ガーゴイルにも魔術をかけて、唯の少年の姿に変える。全員に魔術をかけ終わるとネビロスはさっさと山を降りてしまった。残ったのは目が覚め始めた十数人の女とニーラとキマイラ。
「……キマイラ、俺はお前を退治しに来たんだがその気は失せた」
「聖剣を持たぬ貴様に負ける気はしねェ」
ぎろりとネビロスほどではないが綺麗な金の目でニーラを睨む。彼女は嫌そうな顔をした。
「ネビロスと似た事言いやがって……。すまなかった。お前を悪者だとばかり思っていた」
「それが魔物に対する人間が決めた先入観だ。……俺は『勇者は男である』という世の理から外れた貴様がこれからどう動くか興味がある。まぁ、ネビロス様に害をなすようなら殺しに行くがな」
ニィと笑うキマイラ。ニーラは少し俯いた。しかし、顔を上げてキマイラを見た。その顔は晴れ晴れとしている。
――魔物にも良い奴はいる。少しイラッと来るときもあるけどな。俺はそんな根のいい奴を、人間でも魔物でも魔族でも亜種でも守っていきたい。へっぽこでも何でも良い。理から外れた俺にしか出来ないことだってあるはずだ。
「彼女達を守ってくれてありがとう」
「俺に生贄はいらないと伝えてくれ。魔術で村の前まで送ろう」
まだ少し怯えている女達を集めた。と、1番美しい娘はキマイラの傍から離れようとしなかった。キマイラが困った顔で行け、といっても首を横に振った。
「私、キマイラさんといます。最初に生贄に出されてずっと怯えていた私を攻撃してくる魔物から守ってくださったり、食べ物を与えてくださったり……。私も微力ながらキマイラさんを支えたいのです…!」
「っ!?」
獅子の顔がその威厳を無くすように赤くなった。ニーラが腹を抱えて笑い出した。
「ハハハッ!いいじゃないか、キマイラ。その子、凄く可愛いしな」
「……好きにしろ」
「はい!」
頬を染めて満面の笑顔になる娘。周りにいた魔物たちも微笑ましく見ていた。キマイラは一言別れの挨拶を言い、女達は礼の言葉を述べてから移動魔法をかけられた。目の前には女達が慣れしたんだ村が。
その後、女達は無事にそれぞれの家や家庭に戻り、ニーラは長老にキマイラは退治していないがもう生贄はいらない事を告げた。まだ不安そうな表情をしていたが、一人の娘と恋をしている事を告げればキマイラも村の一員にしようという動きも出てきた。この村はそのうちに魔族や亜種も住む村になるだろう。
ニーラは宿屋に戻るとベットに上半身だけを預けた。そして、その格好のまま眠りに落ちたのだった。風呂から上がったネビロスがそれを見かねて靴を脱がせ、ベットに寝かせ、布団をかけた。
「…へっぽこ」




