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世の理  作者: 日暮レイン
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第一話

『きっと、今回の魔王様も勇者に倒されるんだろうな』

『…まぁ、この世界の(ことわり)だしなァ。才能はあるんだが、な』


魔王がすんでいる、不気味な城の中、兵士として勤めている魔物たちの会話。それを物陰からこっそりと聞いていた小さな赤髪、金の目で耳がとがっている人型の魔物…彼こそが魔王である。背中にある黒い羽が少し動いた。


+++++


「魔王様!何故、勇者討伐に行かぬのですか!?まだ旅に出たばかり…倒すなら今ですぞ!!」


数年後の不気味な城の玉座の間。椅子にふんぞり返って座るは成体となった魔王。金の目は鋭く部下を見ている。恐ろしいほどに尖っている八重歯がある口をあけ、静かに言葉を発した。外は猛吹雪。しかし、彼は上半身裸だ。


「何をやっても魔王は勇者に負ける…不思議だな?」

「あ、いや……。ど、どこでそのようなことを……」


三本しかない指がある手をこすりながら冷や汗をだらだらと流す。魔王には知られてはいけない事実。なのに、彼は知ってしまっていた。


「教えない。…じゃ、俺はしばらく留守にするから。じゃあな」


(おもむろ)に立ち上がってぼろぼろのレッドカーペットを踏んで歩いてどこかへ言ってしまった。部下は唖然として動けない。遠くのほうで翼が羽ばたく音が聞こえる。きっと、玉座の間に続く廊下にあるテラスや真っ白の雪の上には漆黒の羽が落ちていることだろう。

バサッ、バサッ……。漆黒の翼は風を切り、羽を落としながら魔王を運ぶ。春大陸の上空に行けば彼の目に映ったのは滅びた村の中心で泣き叫ぶ女の子。ピンクの髪色をしている。


――赤色が凄い薄いな。ありゃ、魔族の血もほぼ無いだろ。


魔族の特徴は金色の目と赤系の髪の毛。それは魔族の血がどんなに薄まろうとも、一度混じったら色は薄くなれど末代まで消えることは無い。魔王は長い赤髪をなびかせながら少女の前へ降り立った。


「ひっく、ひっく……」

「…お前、親は殺されたのか」

「人…間が、みん、なを…!うわぁぁぁん!!!」


大きく声を上げた少女に彼は爪を引っ込めた手で優しく頭を撫でた。

2人が居るこの村…いや、もうないが、魔族の血を引く物たちが住む村だった。人間は魔族を()み嫌い、血が交わった者に対しても冷たい。そのため、魔族の血を引く物たちは人里離れたところに村を作り、同族や、魔族と結婚した人間と暮らしていたのだ。しかし、過激派の人間は時々魔族の村を襲い、無抵抗の彼らを殺し、滅ぼしていく。魔王の目が一瞬、冷たくなった。


「泣くな、泣くな」

「ぐすっ……。おにぃ…ちゃん、は、魔族…?ひっぐ……」


泣き止もうと話を逸らす少女。涙が溢れる目をこすり、ぼやける視界で彼の燃えるような赤髪を見る。此処(ここ)まではっきりとした赤髪は唯一人しか居ない。


「そうだ。……他の魔族の村に送ってってやる」


立ち上がり、少女を抱っこしようとしたら拒否された。


「やだ」

「やだ、じゃ無くてだな……」

「お兄ちゃんと居る」


口をへの字にして、涙で赤くなった目で魔王を見る。魔王は溜息をついて勝手にしろ、と言った。翼がしまわれた。


「やったぁ!ねぇねぇ、お兄ちゃんの名前は?あたしはリュイ!」

「…ネビロス。リュイは変化できるのか」

「ううん。ままが「リュイは魔族の血がほとんど無いからほぼ人間と一緒」って言ってた」

「そうか」


じゃあ、移動は主に俺が抱っこするか…と最早面倒見る気満々のネビロス。一体、彼が魔王だと誰が信じるだろうか。左耳にだけ着けられた金のイヤリングが揺れた。


+++++


一方その頃、王の居なくなった城では魔物たちが会議を開いていた。


「魔王様はアレを知ってしまっている……」


両肘を突き、顔の前で手を組むは魔王の側近であり、最後に魔王の姿を見たあの魔物。バン!と机を叩いて立ち上がったのは一つ目の魔物。


「なんだと!?」

「じゃあ、魔王様は何をしに外へ…」


眉間に皺を寄せて言うはキマイラ。獅子の顔が机に乗っけられている。尻尾の役割なのか、蛇はゆらゆら揺れている。


「もしや、人間と和解とか…?」


一つ目が座って顎に手を添えてぼそりと呟いた。全員が一つ目を見る。側近の魔物が少し頷く。


「魔王様は先代方と違って確かに人間に対して憎しみを持っていない…。十分あり得る話だ」

「……俺は魔王様の決定に従うまでだ。それがどんな物であろうと俺は従う」


キマイラはそう言って席を立った。相変わらず魔王様第一よ、と側近が心で呟いた。


「…一度、魔王様を説得しよう。それで聞かぬようだったら……………」

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