六話 マスターと贈り物
黒の帽子を被り、赤色の衣装に身を纏った少女。私に透けた水色の槍で攻撃してきたシルヴィは、軽快にステップをしながらギルドの中に入っていく。
周りがニヤニヤしている者、苦笑いしている者、ジト目をしている者。ジト目は後で他に買ってやるから勘弁して欲しい。
「そんなに他人からの貰い物は嬉しいのもかねー」
「貰った人にもよるんじゃないでしょうか」
「なにそれ?」
「よくスイゲツさんは、村で鈍感と言われていたでしょうね」
妙にフリンが棒読みで言ってくる。そんな名前の癖して言われたくないわ。
よくある西洋の酒場のような扉を開けて、Venusと看板に書かれたギルドへと入る。
「ようこそいらっしゃいました。私たち等ギルドはスイゲツ様を歓迎いたします」
「ご永寧にどーも、そして間違えたようなのでさようなら」
回れ右をしてギルドと偽りの店から出る。それと同時に首根っこを捕まれる
「離しなさいシルヴィ」
「なら帰ろうとしないと約束してください」
「断る!」
入った途端目に入った光景は、左右に数十と並ぶ女性。 そして目の前には一瞬誰かと思ったが、プレゼントした武器兼装飾品のブローチを服に着けていたため、シルヴィだと分かり、化粧は相変わらず怖いと思いながらも店を出ようとした。
こんな光景、どこの貴族のお屋敷だよと思うか、怪しげな店だよと常人ならば普通思う。
「グスッ……」
「あぁ……帰らないから、泣かないで」
泣く姿が少々妹と重なり、ついヘラヘラした顔を止めて、少しばかり膝を曲げながらシルヴィの頭を撫でながら、どうしようもない発言をする。
それと同時にシルヴィは笑顔になるが、後ろ二人からの蔑みの目が痛い。
全くどうしろと言うんだと思いながらも、ヘラヘラとした顔に戻しておく。こちらの方が最早しっくりくる。
「それではシルヴィー、ギルドの説明交えつつ登録させてくだ――「待ちなさい」……吹っ飛べ」
声が聞こえた方へ魔力の塊を圧縮させ放つが、逆に跳ね飛ばされて私が吹き飛ぶ事ととなる。
「スイさん!?」「スイゲツ!?」「スイゲツさん!?」「スイっ……!?」「スイさん!?」
私を心配する声は三者三様。何かこれで好感度が分かりそうだなーと考えながらも、結局スイゲツを見ているんだなーと馬鹿馬鹿しい事を考える。
「ゲホッゲホッ……あー口いてぇー」
口の中に広がる血の味。ギルドの向かいが武器屋だったため、私を吹き飛ばした人はそれを狙いこちらに吹き飛ばしたのだろう。おかげで背中がズキズキと痛む。中には私の腕や腹部を貫通している物もある。なるべくそれを意識しないようにして、腹部に刺さる一本を抜く。
「武器屋の親父さんー、御代ここに置いておくねー」
左手で痛む頭を抱えながらも立ち上がり、右手に買った剣を握り締める。
「さぁさぁー寄って来なさい、見て来なさい。素敵な素敵なーショータイム。御代は貰わない、さぁー見て酔いしれてーしまおうか」
ヘラヘラとした顔ではなく、微笑みながらギルドへと入っていく。周りが私を見ながら悲鳴を上げているが気にしない。別に吹き飛ばした相手は恨まない、自業自得だし。
「「「「「「ひっ!?」」」」」」
きっちり六名分、悲鳴を貰ったところで私を吹き飛ばした人の下へと詰め寄る。
「あ、ごめっ……!?」
何を怯えているのか分からないフリをしながら、目聡く相手の剣にギルドと同じ紋章を見つけて確信する。ギルドマスターと。
「にはははははははー別に良いよー自業自得だしねー何を気にする必要があるのさー」
そういうと共にマスターさんの手を、剣を捨てぎゅっと両手を両手で握り締める。見る見るうちにマスターさんの顔は蒼白になっていくが、気にしてあげない。
「えへへへへへへへーマスターさんは優しいねーギルドの中で泣きそうな人がいれば、すぐに行動できる人だもんねー」
「は、い……!」
ボロボロと泣き崩れているが気にしてあげない。
「にゃははははははーこれから私もこのギルドに加入する予定なんだーよろしくねーマスターさん」
今までの言葉は本音だが、他人から見れば「自業自得だけど過剰防衛だよねー」と「しっかり理由聞いてから行動しろよ」と「お前の事ずっと見張ってやる」
うんー他者から見たら脅迫染みてるね。
いい加減微笑むのをやめ、溜息を付いてからヘラヘラとした顔に戻り、自身に刺さった十本ほどの刃物を消し、地面に着いた血を全て消し去る。出血は収まらないので、治癒魔法を使って直す。
また騒がしくなるかと思ったが、恐怖が染み付いており、騒げないようだ。
「スイゲツ、ここは空気が、悪いわ。他へ、行きましょう」
猫さんは相変わらずゆったりとした口調だが、空気が読めて助かる。
シルヴィ達にまた後で来るからねーと伝え、ギルドを後にする。
私に魔法を放って来た無口っ子のラビスに、魔石とセットで何か買ってプレゼントしなくちゃなーと思いながら、猫さんにはリボンを上げようと考えて、私から人が離れる街道をスタスタと進んで行った。
「バカ、ね」
そんな猫さんの呟きも知らずに。