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四話 黒狼と白狼

 「はあぁぁあ!」


 小刀を逆手に持ち、練習用に作った案山子かかしに切りかかる。

 左肩に直撃し、左腕がもぎ取れ、ガシャーンと音を立て地面に落ちる。

 次いで小刀に風の魔法文字ルーンを付け、少し着地した所から離れ、三回ほど案山子に向かって切るふりをする、直後案山子の頭、右腕、左足はスパンッと音を立て切れてから先ほどと同じような音を出して地面に落ちる。 同時に案山子の胴体の仕掛けが発動し、無数の斬撃や魔弾がわたしに向かって忠実に飛んでくる。

 小刀を情報操作で無理やり左右上下に伸ばし、形状を盾にする。 でもそれは間違いで、盾はそのうちボコボコと窪んできてしまい、ついには耐え切れなくなり、魔弾が貫通してきた。

 魔弾が腹部を抉ったままそのまま後ろへ吹き飛ばされる。 ドゴンッという音と共に木にぶつかる。

 幸い腹部は貫通していなく、少々の背中打撲で済んだようだ。

 苦しんで咳き込んでいると、サクサクという音が足元に。


 (この程度、あなたなら、楽勝ね。)

 

 「んな訳ないでしょうー? いい加減魔物と戦わせてレベル上げさせてよー」

 

 (ここで訓練を積んでから、ね。)


 「もう十分だってばー、創造の能力だって初歩までは使えるし、武術に魔術に至っては完璧。何が悪いのさ」


 この世界にはレベルという概念なんて存在しないため、猫さんに教えられた創造というわたしの能力を使い、レベル――魔物を倒した分だけ成長させるという、ゲームのようなものを創ったが、肝心な魔物とは一戦も未だせず。

 転生した場所からほぼ動かずして訓練というのを、既に五年も行い、いい加減飽き飽きしていた。

 

 (そんなに、森へ行きたいの?)


 思っても見なかったことが猫さんの口?から飛び出て来た。


 「いいの、出ても?」


 (後一週間は続けたかったけど、一年も毎日、嵐だろうが関係なく修練を続けて来たんですもの、少しぐらいは、ね。)


 思わず顔がニヘラと緩んでしまう。 猫さんはしっかりわたし(・・・)を見てくれていたんだなぁーと思えたから。


 (じゃあスイゲツ、準備をしっかりして、行きましょうか)


 「……そうだね」


 猫さんの言葉に一瞬絶句するが、悟られないようにいつも通りのヘラヘラとした顔に戻しておく。

 

 「スイゲツ……ね」


 猫さんに気付かれないくらいの声で、ポツリと言った言葉はどこか哀愁が篭ってしまった。そんな気がした。


 


                     ◆




 ザァッっという木々の音に木漏れ日、サラサラと流れる川の音。 なんて物は無く、焼け朽ちた木々、元は森だったであろう場所はただの草原となっていた。 


 「五年も経てば、こうなるか……?」 


 自身のいたところが同じ景色だったため想像は付いていたが、まさか全体的に同一だとは思っていなかった。 あまりに火の手が激しすぎて木の根元が完璧に焼けたのかと思ってしまう。

 

 現実だとしたら虫がそこ等じゅうを飛びまわっていそうなものだが、皆無。 代わりに頭に鋭利な角が付いた兎、鉄を防具のように着けている猪など、魔物が数匹ほどいた。


 丁度良いと思い、早速腰に着けてある湾曲刃カットラスを手に装備。 魔物に切りかかろうとしたとき、突如轟音。 

 驚いて猫さんのいる方向を見ると、


 (あなたには、こちらの方がお似合いよ。)


 二度目の猫さんの人になった姿。 そんな事を気にしている暇は無く、後ろには黒い影。


 「二体……!?」


 空を見上げようやく見える敵の顔。 それは狼、一体は白で一体は黒。

 

 (さぁ……)


 二体の狼が大きく息を吸っている、口には高度な魔方陣が出現。 

 急いでわたしは猫さんに防御魔法を完成した硬度で作る。


 (あなたの実力、見せてあげなさい。)


 口から放たれたのは、数多の斬撃と無数の魔弾。 それは修練に使っていた案山子以上で、数十倍と軽く超えたものだった。


 「剣――創れ創れ創れ創れ創れ!」


 私の言葉と同時に、私を中心として円を作るように、量産品のような粗悪な剣が五本現れる。 すぐにしゃがみ手に持っていたカットラスを地面に刺す。 この場が淡く光ったところで、カットラスを引き抜き、もう一声。


 「完成させて創れ!」


 突如、左手に同じカットラスが現れる。 それと同時に斬撃と魔弾がわたしの元に辿り着く。

 手足に激痛が走るが、落ち着いて――逃げる!


 なんてことはせず、白狼の後ろへ回り込むため走る。 尻尾のところまでついた辺りで、尻尾に飛び移る。 当然白狼は振り落とそうとしてくるが、しがみつきながら登っていく。 胴体に着いたあたりで、黒狼が白狼を気にもせず再び口から斬撃を放ってくる。

 面倒と思いながらも、防御魔法陣を展開し斬撃から身を守る。 

 私を振り落とそうとしながらも、黒狼に抵抗するため白狼が口から魔弾を放つ。 

 仲が悪いのかー? と思いつつも急いでカットラスを縦に伸ばしていく。

 もはやカットラスなどではなく、切れ味の異常に良い細長い鉄。 それを思いっきり振りかざす。

 グニュリと嫌な音を出しながら二体の狼は真っ二つに裂けていく。

 ドクンドクンと脈打つ音が、柄を通して伝わってくるのが小気味よい。

 先ほど五本の剣を創って行ったことは、カットラスに鋭さの受け継ぎ。 粗悪品でも五本集まり集計すれば異常に鋭い物となり、カットラスは簡単に業物となった。

 

 「創造の力はすごいねぇー」


 二体が轟音を発し倒れたあと、その砂煙の中感嘆の言葉を漏らす。

 使い物にならなくなった長い鉄の棒を、持っていたカットラスで叩き割る。 それと同時に鉄の棒とカットラスはパキンっと音を発し淡く光ったあと全て消える。

 

 (相変わらず、可笑しなことをするのね。)  


 「防御魔法を切ったはずないんだけどなぁー、相変わらず猫さんはハイスペックだねぇー」   


 (質問する権利は、与えていないわ。)


 「相変わらず手厳しいことで。 別におかしいことじゃないよ? この力が異常だから使ったあとは全部消しさらないと、ね?」


 この力はわたしのものではない、それを猫さんはわたしに知られたくないようだけどそんなこと、無理千万。 隠し通したいのならわたしが寝ないように監視しなさいっての。


 (ドロップした物は、取っておきなさい。)


 「りょーかいー」


 少しづつ消えかけている白狼と黒狼に近づき、手をかざす。 原理は不明だが、これにより勝手に倒した敵から手に入るものが結晶化し、自身のバッグに入る。

 今の行為で少しやることを思い出し、自身のレベル状況を見る。

 

 《レベル:一→三》


 「随分と上がりにくいことで……」


 (流石、ね)


 「嫌味ですかーっての。これがゲームだったらどんだけ鬼畜なのさ」


 (あなただから、しょうがないわ)


 「流石レベル五千越えとなると貫禄が違いますねー」

  

 (そちらの方が、嫌味に聞こえるわ)


 「くっ……こうなったらステータスも創って――(止めなさい)むぅ」


 猫さんは相変わらず毒舌。 これ以上口々に言われたくないので手に入れたドロップアイテムを見てみると、恐らく普通とは違う物が。


  《アイテム》

 ・【白の魔石】

 ・【黒の魔石】



 「……まぁ、いいか」


 (何が、かしら)


 「猫さんが連れてきやがりました狼について聞こうかなーと思ったことが」


 (……さぁスイゲツ、町へ行きましょうか)


 「……へいへいー、別に良いですよー」


 (全く)


 「それ、こっちの台詞ね」


 他愛のない事を喋りながら猫さんがよく物を盗んでくる町へと行く事にした。 

 少しばかり、不安を抱きながら。


 

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