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三話 女神と黒猫

女神→水月=ミズキ

黒猫→水月=スイゲツ

  そこは暗く一切の光がない、一日……いえ、数時間でもここにいるだけで精神に異常をきたすほどこの闇といえる空間は、どれ程絶望を味わってきたのか想像も出来ない位に不安定すぎた。 

 今からこの闇の中で、まるで砂漠の中から一粒の砂を見つけるくらいのことをしなければならない。


 「早くしないと、ミズキがまた壊れてしまう……」


 ミズキを転生させる前に記憶ぐらい消し去っておくべきだったのに、記憶を消さなければどうなるかなど、簡単に想像がついたのにわたしはそれをしなかった。 

 ミズキはわたしの前にいる時だけ安定していただけであって、既に、


 「今はとにかくミズキを探し出さないと」


 懺悔するのはミズキを探した後で十分だ。 無駄な事を考えてる暇が在ったら心の破片を探し出さないと、もう時間など無いのだから。

 そんな時だった、また《・・》バリンッとガラスが砕けるような音がする。 音は今まで異常に大きく、冷や汗が止まらない。 胸が締め付けられる思い、呼吸が荒くなる、涙が零れそうになるのを必死に堪えて、目元を荒く拭う。

 既に私の着ていた綺麗な織物は見るも無残に破れており、色も変色し、今人に会ったとしても神の威厳などあってないようなものだ。

 だがそんな事を気にしている暇など無い、また一歩踏み出していくと、ナー、という子猫のような鳴き声、突如心の破片が一斉に光だす。

 

 「どうなっているの……?」


 首を左右に振り考えるよりも先に急いで心の破片を集める。 手が心の破片を拾うたび血だらけとなるが、痛覚を無視し、拾い続ける。


 「最後!」


 落ちている破片の最後を拾おうと手を伸ばした直後、地鳴り。

 そして、パキリという嫌な音が響く。 まるで皹が入るかのような音を連想させる。

 

 まずいと思いもう一度心の破片に手を伸ばすが、一瞬にして何者かに掠め取られてしまう。


 「つっ!?返しなさい!」

 

 「イヤ、よ」


 闇の中創造の力を使おうとするが思い直す。 今ここで多大な力なんて使ってしまったらミズキに尋常ではない負担を強いることとなる。 今それだけは避けたい、そう一瞬でも考え相手に隙を見せたのがまずかった。 腹部に激痛。

 震える手で確認すると、細く長く鋭い物がわたしのお腹にズプリと刺さっていた。


 「暫くは、寝て、スイゲツの力と、なりなさい」


 「この子は――ミズキよ!」


 相手の言葉に怒りを感じながらも腹部に刺さった物が何かと確認し、柄を持ち、思いっきり引き抜く。 意識を持ってかれそうになるが、堪えて――剣、いえ、細剣レイピアの情報を引き出し、ミズキに負担が掛からない程度に、能力を底上げする。 

 わたしに見合う業物になれたようで、レイピアは淡く光りだす。

 相手に殺気を放ち、見据えようと顔を相手のいる方向へ向けた。 そこには黒猫の耳、尻尾、先端は白く染まっており、手には爪ではなく双剣。

 両者の手には刃物、ならばすることは一つ。

 遠くでリンッという鈴の音、それにパリンッというガラスに皹が入る音。

 それと同時にわたしたちは前へ飛んだ。


   


                  ◆






 「つっ!?」


 あまりの苦しさにわたしは飛び起きる。 荒い息を整え、心を落ち着かせるため空を見上げる。

 周囲は先ほど見たときよりも明るくなっていたがまだ暗く、空には美しい星々、それに三日月が浮かんでいる。 そこでようやく悟る。 前起きた時よりも日数が少しばかり経っていると。

 自分の体には毛布が掛けてあり、足に重みがあるなーと思ったら、黒猫さんが毛布を上にして丸まって寝ていた。


 「猫さんが傍にいてくれたのかな?」


 今は人の姿をしていない猫さんの頭を、手の甲で優しく撫で上げると、くすぐったそうに体をよじらせながらもゴロゴロと鳴く。 いや、鳴いているのかは分からないが。

 どうしてか、ついため息が出てしまう。


 (わたしの顔を見て、ため息付かないで。)


 「え?」


 今、頭に聞いた事のある声が響き、つい首をかしげながら驚いてしまう。


 (それは、失礼よ。)


 「え、あ、ごめんなさい」


 (まぁ、いいわ。……やっぱりあなたは、わたしの声が聞こえるのね?)


 「声って……まさか」


 黒猫さんのほうをみると、黒猫さんはこちらを銀色の目でハッキリ見てくる。


 (その、まさかよ。……ねぇ。)


 「うん?なに?猫さん」


 どうしてか猫さんの声は寂しげで、話しかけているのが私な筈なのに、どこか違うと感じでしまう。


 (あなたの、名前は?)


 だからこそこう答えるしかないでしょう? 


 「自分は――水月だよ」

 

 

 

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