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二話 猫と子供

水月スイゲツ水月ミズキ

 

 ナー。

 小さな何かの鳴き声で目が覚める。声のする方向へと手を伸ばそうとするが、手が思うように動かせない。 それどころか目を開けているはずなのに、辺りは真っ暗で少し恐怖する。 恐怖で声を上げようとしたが、 


 「……あ、う?」

 

 どういう訳か、舌が上手くまわらない。 喋れない動けない光が無い、それだけで恐怖し気が狂ってしまいそうで仕方ない、ただでさえ自殺した時精神が異常をきたしていた筈で、女神と邂逅したとき普通に対話できていたのが不思議なくらいで――……考えてはいけない事を考えてしまった、もう女神はわたしを抱きしめてはいないのだと。


 「あ、やー……!た、けて……!」


 (嫌だ、なんでわたしは生きているの!?誰か、誰でもいいから、何だって良いから、どれだけ痛くても良いから!早く殺して……!) 思考を止めようとしてもフラッシュバックし頭に浮かぶたくさんの死。 大切な親友が死んだ、優しい親戚が死んだ、気を使わなければならない母と父が死んだ、溺愛していた妹が死んだ。 みんなみんな、私の目の前で血を出して、みんないなくなってしまった!

 

 “ナー”


 ネガティブな事を永遠と考えていたら、先程よりも鳴き声が近づいてることに気付きようやく思考が止まる。 この鳴き声は――猫? どことなく幼さの残る声のため、おおよそ二週間少し経ったぐらいの子猫だろう。 二分程度経った後、カリカリと削る音がすぐ近くでし、ビクッと肩を揺らし驚く。 相変わらず全ての癖が女々しいなーと思いつつ、この音の正体が子猫によるものだと確信する。

 直後カタンと音がした後、パリンッという音と同時に光が目に入り眩しいと感じる。


 「ナー……なんてね……」


 「え、うあー?」


 目が光に慣れ、最初に目に映ったのは黒色が目立つ猫。 全体的に細めでシャムネコを連想させたが、何となく違うと思えた。それよりも目の前の猫が喋ったような気がしたが、


 「食料じゃなくって……子供、ね。この村の生き残りはあなただけ、悲惨、ね」


 わたしは食料と勘違いされたのか、食べられないだけましかなー。 そんな事よりもか、今の日本には村なんて存在は絶対的に存在しない筈、本当に転生させられたのだと分かり、不思議な気分になる。 なんとなく黒猫ではなく真上を見上げると、焼け朽ちた木の屋根の隙間から見える、夜空の数多に存在する星々。 わたしの星座はないし知らない星しかない夜空を見たため、さらに不思議な気分となったが、満月が見え心が落ち着いた。 

 黒猫さんはまだ一匹愚痴っているが、それを無視し現状をすぐに憶測も入れながら整理する。

 黒猫さんはここは村であると同等の言葉を発言、ここは過去の日本かと考えられたが否定。女神さんはこの世界に生き返らせることが出来ないと発言、それは過去だろうが多重世界パラレルワールドだろうがこの世界――地球に当てはまりそうだからだ。 つまり異世界と言う結論で今は収拾をつける。

 黒猫さんはわたしを子供と発言。 この世界の平均身長や平均寿命など知らないが、黒猫さんが恐らくわたしを見た目で判断した事と、何となく馴染めないというか窮屈な感覚があるため、本当に子供なのだろう、感覚から恐らく百辺り、年齢にして七歳前後だろう。 だけどおかしい。

 言葉を話せない、狩に話せたとしても通ずるか分からないが、異常なくらい話すどころか言葉をうまく発せ無い。 色々な理由を考え、前世の影響と適当に当て嵌めた。 現状を整理するだけなのだから多く考えていくのは不毛だから。

 最後に黒猫さんはどうして喋れるのか、どうしてこの家の屋根は焼け朽ちているのか、黒猫さんが何かを引っ掻いた後のパリンッとガラスが割れるような音がしたのはなぜか。 三つを考えようとしたが、最初の疑問以外は何となくだが分かった。 この村は襲われ、わたしは誰かに何か結界のようなもので守られたのだと。 後者はまるでファンタジー理論だが。

 そうこうして現状整理していたら、 


 「あなた、聞こえているの……?というか、聞こえているでしょう……」


 目の前には黒猫さんはいなく、代わりに猫耳の付いた女の子がいた。


 「あーえーーうー」

 

 必死に喋ろうとするがどうしても舌が動かせず、あ行くらいしか発言できない。 それに女の子は不審の目を向けてくる。


 「何が言いたいのか、分からない……喋れない、の?」

 

 喋れないのなら、と首を縦に振る。 それと同時に激痛。


 「あ゛づっ!!?」


 「ただでさえ、大火傷しているのに……バカ……?」


 女の子が何かを言っていたがそんな物は聞こえない、首に激痛が走ったことでまたもフラッシュバック。 理由は自分を包丁でメッタ刺しにしたとき最期に刺したのは喉。 自分の言葉で、声で誰かを不幸にするならば、と意識を保って刺した箇所だからこそ。


 「あ゛ああぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!?」


 「つっ……!?」


 意識が途絶える前に思ったのは、最近女性の前でよく意識飛ばすなーということと、女の子が戸惑ってるけど大丈夫かなー? なんてバカなことだった。




                       ◆  



 

 わたしはいつも通りスイゲツと言う名の少年がいる家へと食べ物を貰いに来ただけだった。 だけどスイゲツのいる村は真っ赤に燃え盛っていて、漆黒の鎧を纏った十数人の騎士たちによって村の人間達は、切られ、嬲り殺され、犯され、地獄絵図と化していた。

 

 スイゲツ以外の人間共にはわたしはとことん苦しめられた。黒の猫というのはこの村では不吉の象徴とされていたため、大人に見つかれば切りかけられたり火の魔弾を撃ってきたりと、子供に見つかれば首根っこを掴まれ川に投げ飛ばされたり石ころを投げ飛ばされたり、スイゲツに出会ったのは魔弾がわたしの腹を貫通して血だらけになっていたのを見つかったとき。流石にその時は死を覚悟した、今のまま川に投げられたりでもしたら溺れ死んでしまうから。

 だけどスイゲツは違った、それどころかスイゲツはわたしの想像を遥かに上回ることをしてきた。

 この世界の人間は魔法を使い、火・水・風・土・光・闇という六元素で成り立っている、しかしおよそ三百年前に人間は神の反感を買い、火・闇しか使用できなくなってしまった。 人間共は己を反省せず神などいなくてもやっていけると豪語し、炎・氷を生み出した。つまり火・炎・氷・闇しかこの世界の人間共は使えないと言うのにスイゲツは――いや、今はそんな事はどうだって良い。

 思考を打ち消し、スイゲツの家までひたすら走る。この村の周囲は森となっていてオプションとして、一度一本の木が燃えてしまえば全ての木が同じように燃えるという呪いのようなものが施してある。

 そのためこの村の周囲には人工的に水溜めが作ってあるが、スイゲツの家は村から離れた所に建っている。だから――逃げ場が無い。

 ようやく着いたスイゲツの家、だけど、


 「ナー」


 呆然としながら鳴き声を発する。 スイゲツの家は既に燃え尽きていて、炭だらけとなった木の塊があるだけだった。

 (スイゲツ……返事、して……お願いだから、ねぇ……)

 そんなときカラッと音がした。 微かな希望を抱いてその場所へと走っていくと、スイゲツの……赤く焼け爛れた体、辛うじて息をしているが、もう無理だと悟ってしまった。

 

 「ネコ……さ、ん」


 (やめて、お願い、喋らないで)


 「いっしょ、に、いて、あげるって、いった、のに、ごめ、ん」


 「フシャー!」


 わたしが喋るなと言う意味で怒ったのを理解しながらもスイゲツが言葉を淡々と連ねていく。

 お願いだから止めて欲しい、スイゲツが喋るたび皮膚がドロドロと零れ落ちていくのを見ていられない。


 「ねこ、さん、もう、わたし、もたない、から、簡単、に、言う、ね?」


 「ナー!ナー!」


 「ネコ、さんに、いきて、ほしい、から……!今、から、やること、うらま、ないで」


 彼の能力の最期の発動条件をこれほど憾むときが来るなんて思っても見なかった。

 リンッと無い筈の鈴の音が、燃え尽きた森に寂しげに響く。


 (猫さん)


 (本当に……バカ、やっと話せた、なのに、苦しいわよ)


 頭にスイゲツの声が響く、もう彼の体は息をしていなかった。 

  

 (えへへ、ごめんね?)


 (あやまったって、どうしようもないわ)

    

 (猫さん、わたしすぐに消えなくちゃならないんだ、だから今から言う事――(いやよ!)


 子供だって分かってる、だけど大切な人との最初で最期の会話が遺書みたいな事なんていや。ましてや説明だなんてもっといや。


 (……猫さん、わたしの体はもうすぐ別の体になる。そして生き返った時には別の人格が。)


 スイゲツの淡々とした言葉がわたしの胸に突き刺さる。どうしてこんなにも苦しいのか分からない。


 (その人はわたしよりも大人な癖に心はわたしより幼くて、脆い、そしてここに来る時にはもう壊れてしまっている。 わたしは猫さんと一緒にその人を支えたかったけど無理なんだ、だから、猫さんがその人を支えてやって欲しい。 じゃないとその人は、もう一度でも壊れてしまったら、永遠と自分の罪ではない他人の罪を背負って苦しまなければならないんだ。 それをわたしは許せないから。)


 (……猫さん、お願いだ。 そのひとを、わたしを、彼を、自分を。 支えて下さい。)


 (……条件が、あるわ)


 その条件はわたしにとってとても欲しかった時間


 (あなたが逝ってしまうまでの間、お話しをしましょう?)


 (……!ええ……!)


 スイゲツの姿はもう見えないが、泣いているような気がして、幸先が思いやられるとぼんやり思った。


 (あなたがそこまで、思い入れる人……だもの、きっと良い人。なのでしょうね。)


 


  

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