一話 わたしと自分
「ごめんなさい」
わたしは目の前の女性――とても美しい、今までかっこいいや可愛い女性には会って来たがここまで一言で容姿を表せる女性を見るのは初めてだった。
そんな目の前の女性から発せらてた言葉は淡々としていて、まるで誠意を感じられないものだった。
「なはははー、別に良いよー?故意ではないんだからー」
だけどわたしはバカでどうしようもない、そんな人間だから彼女のことを簡単に許してしまう。 もう二度と最愛の女性には会えないというのに。
わたしを自殺に追い込ませた彼女を憎みもせず、自分の責任だと自分に思い込ませ今の現状を楽観的に考える。
「お詫びといってはなんですがあなたを生き返らせ……いえ、この世界には不可能なので別世界へと転生をさせて頂きましょう」
その彼女の発言に吐き気を催してしまう。 なんで死ぬ事が出来たのにまたゼロからやり直していかなければならないのか、もう周りのことを考えすぎて自我を抑えることがしんどくなってきたと言うのに何故! と、そんなわたしの心読んだかのように彼女は美しくも妖しい笑みを浮かべる。
「ごめんねーミズキクン? しんどいだろうけど頑張ってねー?」
なぜかわたしの名前だけをたどたどしく言い、なおかつわたしの癖の間延びした発音で言ってくるためわたしを苛つかせる。
一度息を大きく吸い、大きく息を吐く。少し目の前がぼやけるが心を落ち着かせられた。目の前の相手に引っ張られるな、そう考えかぶりを振る。
「何のために自分を殺した……いんやー、自殺させたん?」
そういった後に首を肩に寄せる。 今は現状の説明が欲しいなーと思いつつも、癖になってる間延びした声や首を傾げるのを直さなきゃなーと余計な事を思う。
「別に意味なんて無いわよ?納得いかないならーそうね、ただ死んだらこの世界に一番影響を与えるのがあなただったから自殺させた、かしら」
「何それ、たかが一介の男子高校生に世界への影響力なんてあるわけないじゃん、頭大丈夫?精神科にでも行って来たらどう?日本ならいい精神科ある筈だよ」
やっぱりまだ苛々してるなーと自分のことながら客観的に見てしまう。 普段初対面の人には過度な人見知りで喋れないのに、とても饒舌。
頭が異常な彼女は溜息混じりに単語を言ってくる。
「ケーキ、菓子、セーブポイント、記憶、幸福、不幸」
その言葉はどれも衝撃的で、同時に喉が詰まる想いだった。 そんな私の苦い思いをよそに淡々と彼女は言葉を連ねていく。
「あなたがこのまま生きてたらこの世界おかしくなるのよねーだから自殺。普段から死にたいと思っているのに周囲から無理やり不幸を吸い取っているから善人と記録され、その世界のあらゆる神々はあなたに直接手が出せない、だからわたしが自殺させた」
分かったかしら? 彼女は理解を求めてきたがぼんやりと違う事を考える。 彼女の存在に人間ではないんだろうなーと考えながらも、わたしは苦いの思いで一杯で、とめどなく流れ出る涙を拭おうとせずたたずんでいた。
それを見かねたのか彼女――恐らく神に等しい存在、違う先ほどの発言からそれ以上の存在、彼女を改めて一言で言い表すのならば女神だった。 なぜなら優しく、触れただけで一欠けらなく壊れてしまう物かのようにわたしを抱きしめてくれた美しく神々しい彼女、比喩では一切無く、わたしは彼女を女神と言えた。
耳元で囁かれた言葉、それは先ほどには無かった悲愴の感情がこめられていた。
「ごめんなさい……この世界で歪んでしまったあなたを、わたしは癒す事も、支えてあげる事もできない……!」
ああ、肩がどうしてか温かい。 わたしの頬を伝うものはこんなにも冷え切っているのに、どうして彼女のはこんなにも温かなのか、不思議でしょうがなかった。
しばらくしてわたしは涙を止め、疲れてしまったのだろうか、まどろんでしまう。 一年ほど前から眠ると言う行為に恐怖したが、今はなぜか心地よかった。 彼女が何かを言っていたがもうわたしには聞こえない、わたしはそのまま夢へと堕ちて行った。
◆
わたしはどれ程の謝罪を彼にしなければならないのだろうか。
彼には自殺する祭に問題があるため遺書を残させないように仕向けた。 それがどれほど彼を苦しめるのだろうか。
彼が交友してきた人全てを彼を認識できないようにさせた。 それは彼にとってどれほどの辛さを強いただろう。
彼の作る菓子には人を笑顔にさせその日だけは忘れない幸せを作れたのに、彼が菓子を作ろうとするとトラウマを思い出す、フラッシュバックをさせるようにした。それは彼の支えを消し去ったに等しいだろう。
彼の母親と父親は離婚している。一ヶ月に一度の三人での食事に行く、母と父それに彼も乗っていた車を交通事故に合わせ殺した。それは彼にどれほどの絶望感を与えただろう。
彼には妹が居た、彼は妹を溺愛し妹も彼を兄としての存在以上に慕っていた、親戚は優しく親が死んだ際、親戚は引き取ろうとしたが二人も養えないためばらばらになる事となったが、二人は拒んだ。 翌日五等親までの親戚を殺した。どれほど彼らは泣きはらしただろうか。
彼の妹を電車で轢き殺した。彼は妹へ無我で涙し、彼の親が死んで入った保険金を電車の会社へ払い無一文とさせた。
まだかれは自殺しなかった。 だから夢で、「死ななければお前の最愛の人を殺す」そういった。
彼は公園で寝ていた。おもむろに起きたかと思うとどこかへ行き、包丁を持ってきた。そこの公園は彼が最愛の人に告白された、見晴らしの良い場所で彼の住んでいる町が一望できるところだった。そこで彼は包丁で無表情で泣きながら、自身のあらゆる箇所を意識が途切れるまでメッタ刺しにし自殺した。
わたしは悪魔にトリツカレテイタンダ、彼にした行いはどれもえげつない。 わたしがこんなことをするはずがないんだ。
そんな考えが頭に浮かんだときわたしは思いっきり自身の頬をひっぱ叩いた。じんわりとした痛みが広がる、だけど彼の痛みはこの何倍、何十倍だろうか。
「ああ、わたしは……どうしよもない。クズ」
その言葉は彼への裏切りだと、わたしは気付けなかった。