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「雪音さん、部活って?」
「……吹奏楽」
「ない日は遊べるの?」
「吹奏楽部、休みなんてないよ。部活に遅れていく日は、委員会のある日」
「委員会?」
「図書」
「ああ……それも、彼は一緒?」
「……それよりも不破くん。何でそこにいるの」
昼休みのくつろぎの一時をすっかり邪魔されている。お弁当を中庭で広げていたところをつかまった。避けるために移動する気にもならず、そのまま人が食べている側でごろごろしている相手をしているけれど。正直、視線が痛い。
「それ、ちょうだい。サンドイッチ」
答える前に持っていく。ただ、食べた時においしそうな顔をしてくれたのに、思わず顔が緩んでしまった。気づかれないうちに、引き締めて。
「ねえ、何で一人で食べてるの」
「ひなたぼっこして食べたかったの。中庭か屋上で。本当は購買で買った友達が合流するはずだったんだけど、さっき不破くんがそこにいるの見て回れ右しちゃったのよ」
「それはそれは」
悪いと思っていないな、この男と、そう思いながらもため息混じりの苦笑いになってしまう。何だかこの人、憎めない。噂とは全然違う。
「雪音さんはさぁ」
本格的に居座るつもりらしい不破は、横になったまま片肘をついて少しだけ身を起こして、わたしを見上げてくる。少し意地悪な目をしている。身構えると、急にくしゃっと笑った。
「やっぱり雪音さんっていいね。ねえ、幼馴染みだからってあいつの弁当まで作ってるの?」
「今は作ってないよ。彼女がいるならわたしがやっちゃだめでしょ。もともと、司の家の食事はわたしが賄ってるの。共働きで忙しい家だから、一回何となくやったらそのまま。今だって、司以外の人のお弁当は作ってるよ、わたしの分と一緒に」
「奴の彼女、大変だね。その家族に、雪音さん以上に認めてもらわないといけないんだから」
ばかなことを言っている、と思いながら、本当は何となく図星をつかれた気がした。幼馴染みでその上さらにもうちょっと特別な位置をもらっている。そこに優越感と一緒にあぐらかいていないと言えば嘘になる。
「不破くんは何で、わたしにかまうの?」
「興味があったから。ついでに今食った飯もうまかったし」
「そういえばお昼は?」
「ないよ。面倒……」
そう言って仰向けになり、目を閉じた不破くんは何だかそのまま消えてしまいそうなほどに曖昧な印象になってしまって。思わず平手でその額をはたいていた。びっくりした顔をしているけれど、わたし自身、自分の行動に驚いているのだからもう、このまま勢いで口走るしかない。
「成長期の男の子がそんなこと言っててどうすんの。ちゃんと食べなさい、ちゃんと」
自分のお弁当箱を突き出しながらそう言ったのはもう、不覚だったとしか言いようがない。それから、わたしの作るお弁当が一つ増えた。
いつもいろんな女の人と……校内校外問わず、年齢もまちまちで、ヒモみたいな事をしているという噂も否定できないような派手な女の人の車で学校に遅刻して目立っていたりもする不破は、昼はまるで食事だけもらいに来る野良猫みたいに、どこにいても自分の分を取りに来たついでに、人の側でとりとめもなく話した挙げ句昼寝までするようになった。




