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教室に戻って席に座ると、前の席の友達が振り返る。
「見たよ。中庭。司くんと話してたと思えば不破くんとまで話してたでしょ」
「ああ……」
「ほんとに、司くんと付き合ってないの?」
「付き合ってたら司、二股だよ」
「……ああ、今いるんだっけ?あんなに仲いいのに」
呆れたように言う言葉はもう、聞き飽きた。仲が良くても、そういう関係には発展しないらしいわたしたち。このままの方がずっと楽でいい。友達なら、死ぬまで続けられるから。
「何をどうしたら、赤ん坊の頃から知っていて、おねしょして泣いた顔を始め数え上げたらきりがないほど情けない顔を知っているわたしが恋心を抱けると?」
「……雪音?お前お互い様なんだからそうゆう事を口走るなと何度も言ってるだろう」
「あら……いたの、司」
「お前は……。不破にナンパされてたろ」
「ナンパ……なのかね、あれは」
「不破くんが自分から声かけるってないでしょ。だってあの人、声かけられたら適当に返事するけど自分からは話しかけないじゃない。それで女の人切れないんだから……顔がいいって特よね。まあ確かに、観賞用には最高だけど。でもまあ……この学校に何人お手つきがいるのか知らない……」
「下世話」
聞いてられない。少しきつく遮って、ため息をついた。
「確かにその話は聞いてるけどさ。関係ないじゃない。放っておこうよ。楽しんでする話じゃない」
肩をすくめて、わたしを見る。
「ほんと、呆れるくらいさばさばしてるよね。男らしいくらい」
「外見と中身のギャップで男できないでしょ、雪音」
「外見だけで好きになられても、中身見て幻滅するなら、それ嬉しくない。どっちもわたしだもん」
* *
確かに不破という人はまず自分からは話しかけない。はずなのに。あれは何かの気まぐれだろうとたかを括っていたのがはずれた。教室を出ようとした途端、目の前を遮られて顔を上げると、そこには噂の綺麗な顔がある。
「何……不破くん」
「雪音?」
答えを聞く前に、後ろから追いついてきた司が怪訝な顔で外に顔を出した。人の肩に顎を乗せて。
「れ、不破。何、やっぱりナンパだったんじゃん」
生憎司も人の噂に左右される性格ではないおかげで、むしろ前に聴いた様子では不破に何やら好印象を抱いていたようで。嬉しげに頭を撫でられる。
「何だ、やっぱりさっき仲良くなったんじゃんか。でもだめだぞ、雪音。部活はさぼらずに出ような」
「ちょ、司……誤解……つか引っ張らなくてもさぼんないから」
一応の抗議をしながら振り返ると、何か言いたげな不破の目がこっちを見ていた。