02:干物と攻防
結局その後のとこはよく覚えていない。
気がついたら足が氷の中から奇跡の生還を果たし(どっかのテレビで見た、物が壁を突き抜けるようなマジックのように)、
気がついたら綺麗な男の人に俵担ぎをされて(色気もなんもねえ)
気がついたら真っ白い部屋に移動してて(多分これがテレポーテーションだ。きっとそうだ)
気がついたら服を着ていた(そこで自分が全裸だと再認識させられた。恥ずかしいいいいいいい!!!)
今自分に何が起きているのかまったくわからない。
人間ってパニックになると思考回路が停止するんだ。きっと。
ちなみにこれが夢ではないことは、何度も頬を抓ったりわざと足の小指をぶつけたりして確認済だ。まだ小指がじんじんする。
白い部屋は病室よりも白で、頑張れば消毒液のあのアルコールの匂いも漂ってきそうな勢いのさだ。
いやほんと今のは自分何考えてるんだろうと思った。うん、とりあえずどうしよう。
あの綺麗な男の人は何してるかって?
はっ。それが理解できないから思考ぶっ飛ばしてるよね。
今、私の、真後ろに、座りながら、私の、首筋に、顔を、埋めていますが何か?
本当どうしたらいいの?時々私の名前囁くし・・・・・・ぎゃあああああ耳はやめてええええ!!!!
とりあえず妙なセクハラをかましながら私は必死に硬直し続けるという攻防を繰り広げているのである。
自他共に認める干物女であるこの私に恋愛経験なんぞあるわけもなく、このようなセクハラとは縁の無い世界に生きてきたために、正直脳内ではサードインパクト並にテンパってる。
どれくらいテンパっているかというと干物が東京ドーム十個分の面積の水の中で華麗に泳いでいるのを見たときぐらいのテンパりくらい。
要するに、言い表せないくらい。
しかし、そろそろこの攻防に終止符を打たなければならない。
防戦一方の私も攻撃に転じる時が来たのだ。
私はそろそろと体勢を変え、斜め45度(適当)を見上げ、すなわち、綺麗な(略)を上目遣いで見るように振り向く。
その際そっと腰に回された手に私の荒れた手を添えて、怯えたように、言うのだ。
「あ・・・・・・あの・・・・・・、離して、ください・・・・・・」
決まった。
そう思った瞬間、ふっと綺麗な(略)の力が弱まる。どうやら攻撃は効いたようだ。自分のHPを四分の一削った甲斐があったというもの。(※精神的ダメージ)
その隙を見計らって私はするりと抜け出し、彼と対面する。うっ・・・・・・綺麗。しかしここでひるんではいけない。
落ち着かせるために浅く息を吐き、気合いを入れるためにぎゅっと拳を握った。
まだ彼は呆然としているが気にしない。
「あなたは誰なんですか。そしてここはどこなんですか。説明、してください」
「・・・・・・・・・かい」
「は?」
「・・・もう一回やって?」
熱に浮かされたような目でとんちんかんな回答をかましてくるこの目の前の人は、よほど私に殴られたいのだろうか。どMと見なしていいんだろうか。
私は思いっきり冷めた目をしながら、まあ美形は変な人が多いしな、と妙に納得し、思いっきり拳を脳天に叩きつけたのだった。
***
「おれの名前は、清嵐。せいちゃんでもらんちゃんでも好きに呼んでね。おれ個人としては様付とかでもすっごく萌えるんだけど、あ!
できればなんていうんだっけ?ほら、あの白と黒の・・・・・・そうそうメイド服!あれ来て『せいらん様ぁっ・・・・・・』とかって啼いてくれたらすっごくイイ!」
「うん、すごくどうでもいいのでちょっと黙っててもらえますか?・・・・・・で、ここはどこですか?」
「え?興味ない?・・・・・・ごめんごめん冗談だからお願いだから拳を下ろして!おれそんなM気質じゃないから!どっちかって言ったら責めて責めてよがらせるほうが・・・・・・
ってほんとその殺気しまって?ねえ?冗談だから!ちょっとしたお茶目だから!」
「質問に答えてください」
「しょうがないなあ・・・。ここはおれの城。城と白をかけてみました。・・・・・・嘘嘘嘘嘘!!」
「天は二物を与えない」という言葉をこれほどまでに実感したときはあっただろうか。
せっかくの美形も口を開くたびにそのきらきらしたオプションが消えていく気がする。
とりあえず殴っていいかな。
「うん、とりあえずその物騒な拳は下ろそう、ね?そうだねえ、ヒロカには1から説明しなきゃね、ちゃんと。
・・・・・・俺は、氷を司る竜。ヒロカのことをずっと、ずっと待ってた」
真剣な顔になったと思ったらなんという電波発言。大丈夫なんだろうかこのお方。
疑いの眼差しのみを投げかけていたら、清嵐は説明を加え始めた。
話ってなかなか進まないものなんですね・・・・・・orz
ありがとうございました!




