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8/8

*最終夜*

最後に贈る最後の君へのストリートラヴ


8.ラストラヴ


夕日が沈んで、時計の針は止まる事を知らない。

時間は待ってと言っても止まってはくれない。

どんどん過ぎて行く時間と格闘して、午後8時にようやく作詞作曲終了。

ぐっと後に背を伸ばして欠伸を1つ。


ストリートに行く準備をしてから1階に下りる。

食卓の上に食事はない、台所から物音がする。

覗いて見ると母さんが料理を作っていた。そっと声をかける。


「何作ってるの?」

「あら、羽悠。今日はクリスマスだから特別にやらなくちゃ」

「あぁ...そうか、何か手伝う?」

「いいわよ、今日は遅くてもいいからちゃんと帰ってくるのよ」

「はい、母さん...メリークリスマス」


言ってみたら照れくさくなった...馬鹿な鈍感野郎です。

台所に背を向けて、リビングに向かいギターを手に取る。

弦を弾いて曲を弾く。

今日のリハーサル...みたいな。


ソファーに横たわり瞳を閉じる。

暫しの休息。目覚める頃には行く時間になっている筈。

そっと瞳を閉じて、目覚めると時計の針は10時を指していた。

そろそろ行くかとソファーから起き上がりパーカーの上からコートをは着て行く支度も整った。

玄関で靴を履いて靴紐を結んで。


何時もより早足で噴水に向かう。

白い吐息を掻き分けて、電灯の明りだけが頼りの道を進んで。

彼女の待つ場所へと向かう...鼓動は高まる。


噴水に到着。彼女の姿はない。

何時もなら俺より早く来ているのに、しかももっと早い時間に。

不安が過ぎり、恐る恐る噴水に近付きギターを下ろす。そして荷物も。

水飛沫を見詰めながらポケットから今日買ったラッピング済みのプレゼントを握り締める。


「やっぱり」


後から聞き慣れた声が聞こえる。

翠ではない。何時も電話の向こう側で生で、今日も飽きるほど聴いた。

後を振り返ると微笑みながら俺を見詰める桂吾の姿がある。

何故...?桂吾が此処に...?疑問ばかりが浮かび上がる。


翠は如何したんだ...?


「桂吾...お前如何して此処に...」

「お前が待ってる人の代わりに来ました、翠でしょ?羽悠が待ってるのって」

「そうだけど...何で桂吾が...翠とは」


表情を暗くして黙り込む。

俺は言う言葉を失う。

翠の代わりに来た、って如何言う意味。

訳が判らなかった。整理しきれないまとめられない。


桂吾は重々しく口を開く。


「翠と俺は幼馴染、詳しい話はこれを読んでから」


そう言って差し出したのは大きな包み紙と手紙。

ゆっくりと手を差し伸べてその包み紙を受け取る。


包み紙を破く前に手紙を読む。

綺麗な字で書かれている文章。俺はゆっくりと唇を噛み締めて読み始める。









『 葛城羽悠様


突然のお手紙お許し下さい。本当にゴメンなさい。

貴方にこの手紙が渡っていると言う事は私はもう貴方には逢えません、逢いたくても逢えません。

逢えない場所にいるのです。私から貴方が見えても貴方には私が見えない場所に。


本当に羽悠と一緒に過ごした数週間は私の一番の思い出です。

中学生の頃からずっと憧れていた葛城羽悠と共に過ごせた日々は私の宝物です。

我侭で消えて行く私を如何か許して...。

本当に羽悠の事が大好きです。ずっとずっと大好きです。勝手に好きになられても迷惑ですよね。

でもずっと大好きでいさせて下さい。


そして、約束を守れなくて本当にごめんネ。

私からプレゼントをあげられても貴方からのプレゼントを受け取れません。

私からのプレゼント要らなかったらゴミ箱にでも捨てて下さい。

本当に羽悠の曲を聴きたかったです。

羽悠の隣で笑って、聴きたかったです。

もう少し貴方の傍にいたかった...。


本当にゴメンネ。

如何か私の為に作ってくれた歌を空に向かって歌って下さい。

これが最後の我侭です。如何か如何か。

私のお願い、夢を叶えて下さい。


今まで本当に幸せでした。最後の1ページ貴方で飾れて本当に幸せです。

ありがとう。羽悠。

君に大好きと言えたらもっと幸せでした。

本当に本当にありがとう。


              紀平翠 』





力が抜けた。もう考える気力さえない。

ただ1つ理解出来る事。彼女は...。

翠はもうこの世にはいないんだ。


包み紙をゆっくりと開くとネックレスが入っていた。

俺が今日買った、雪の結晶のヤツと少し色違いの...。

涙は溢れても流さない。


「翠な、中学校の頃からずっとお前が好きで高校に入って11月に倒れて12月までの命って言われてさ、翠な...生きてる内に羽悠と一緒に過ごしたいって言ったんだ。だからな羽悠がストリートしてる場所教えたんだ。毎日毎日夜中になって病院から抜け出してお前の曲聞いて、俺が見舞いに行くとスゲェー楽しそうに話すんだよアイツ...メッチャいきいきしててさ、昨日見舞いに行ってさ「私もっと...生きたい」って言ったんだよ...スゲェー辛かった。でも羽悠の傍にずっといたいからそう言ったんだと思う」

「翠...」

「アイツのお願い聴いてやってよ、きっと聴いてるから」

「当たり前だろ...アイツの為に作ったんだから...」


震える手をぎゅっと握り締めギターを抱える。

楽譜を見詰めて、大きく口を開いて天に向かって。


「君に捧げるスノープレゼントだよ...翠...」


空を見上げて作ったばかりの曲を歌い綴る。

白い吐息で目の前が曇る。生暖かくそして冷たい雫が頬を伝う。

『愛してる、そして伝えきれない思いは流れ星に...君の愛する雪に乗せて優しく君に届けよう

             この愛しいラヴソングを...』


桂吾も微笑みながら涙を流して俺の曲に耳を傾ける。

プレゼントを握り締めて、夜空に向かって君に捧げるラヴソング。

段々と周りの人達が集まってくるのが判った。

人前で涙は流せないと涙を拭って笑顔で曲を歌いきる。


憧れの緋歳さんも蔭から俺の曲を聞いて言葉に出さないけれど『最高』と言うサインをくれた。

周りからアンコールと言う言葉がかかり、俺は笑顔で答えて。


夜空に向かって叫ぶ。


「愛してるよぉ―――!!!翠っ―――!!!」


君がいたから俺は道を見つけた。

君を愛したからこの爽快感を知った。


最初で最後に。

君に愛してるとラヴソングを送ろう。

俺の一番の思い出のストリートで出逢った天使に。


雪に乗せた俺の思いを...。


天は俺を祝福して最高のプレゼントをくれた。

俺と翠が大好きな大好きな...スノー...。

翠...見てくれてるよね?聴きいてくれた?

君と過ごしたこの道で...。


俺が愛を語ったストリートに雪が舞い降りた。



最後まで読んで頂き誠に有難う御座いました。

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