*第5夜*
変わっていく気持ち
5.可愛いエンジェル
翠が此処に来るようになって今日で2週間。
飽きずに毎日毎日通い詰める。
最後まで俺に付き合ってくれて、俺より先に此処に来て待っている。
最初は本当に物好きな奴だとか思ってたけど、今は考え方が違う。
何て良い奴なんだろうと心の其処から思える。
最近では彼女にギターの弾き方を教えている。
自己流で覚えて来たからいざ教えるとなると難しいものだ。
俺がギターを始めたのは桂吾の兄貴の影響。
桂吾の兄貴も元はストリートライヴをしていた人。
2年前、このギターを俺に託してアメリカへ旅立っていた。
このギターはその兄さんが俺にくれた大切な宝物。
「ん...ん」
「今日のレッスンは此処まで、ずっと練習してたら俺歌えないまんま終わっちまう」
「はぁーい、では曲をドウゾっ!」
最近はこんな調子。
曲は欠かさず歌い続ける。何しろ夢の為ですから。
と言いつつも最近はレッスンと会話の方が多い気がする。
まぁいいや...。
相変らず寒い夜が続く。
何しろソロソロ12月のビックイベントがありますからね。
「羽悠」
「何?」
「手貸して」
ギターをケースに戻していると突然彼女が言い出した。
何かとゆっくりと右手を差し出す。
翠は差し出した俺の手を小さな両手で包み込んだ。
カァァッと顔が熱くなっていく。
「暖かいでしょ」
「...うっ...うん」
「あ、でもこうやってると片付けられないよね」
そう言って彼女は手を離した。
さっと左手で右手を押さえつける。震えが止まらない。
何だ...この震えは...。
落ち着かなければ怪しまれると思って、右手をポケットに突っ込む。
これじゃ余計に怪しまれる。
慌ててポケットから手を出してギターを片付け再開。
「どうかした?」
「なっ何でもない!」
「明日もギターのレッスンしてね」
「おぅよ」
曖昧な返事にも彼女は微笑んで答えてくれる。
たった2週間一緒にいただけで俺の気持ちは彼女に向けられていた。
天使のように笑顔で何時も俺の傍にいてくれて...。
夜だけだけど。
俺の気持ちは完璧に傾いていた。