*第4夜*
理由も判らずに追う夢の欠片
4.理由のない夢
冷え込みの激しくなって来た日々。
それでもまだまだストリートライヴを続けている。
重大とかそう言う一大事の事がない限り毎日俺は此処に来て歌う。
そして最近の常連のお客様。
寒い中でも毎日毎日ギターの音色と俺の声に耳を傾けてくれる女性。
ある意味俺の運命の人だとも言える。
「そう言えばさぁ、羽悠って学校何処?」
「悉華学園高等部...1年」
「私と一緒だっ!」
「マジでっ!?」
「うん!私、F組」
「俺、E組」
これもまた運命...なのかもしれない。
同じ学校でしかも学年が一緒で、隣のクラスで。
偶然が奇跡を呼び起こした。呼び起こしている。
...実を言うと入学してからまだ学校には数える程しか行っていない。
隣のクラスでも知らないのが当然だ。
彼女は知る筈もない。知っていたらこんな事訊かないだろう。
へぇーと微笑みながら色々と話し始めた。
俺はただじっと彼女の方を見詰めて、話に耳を傾ける。
学校の事をほぼ半分、語っている。
全然判らない事を楽しく話しいてく。頭が混乱して行くのを押える。
真面目に学校に行っときゃよかったぁーとこう言う時に後悔するのがオチ。
まともに行って損する事はたくさんあるけど得する事も少しはある筈。
「羽悠の事見かけた事もなかったよ」
「見た奴の方が珍しいと思うぜ、俺学校行ってないから」
「あ、そうなんだ...」
その後に続いて『如何して行かないの?』と質問が来た。
初めての質問。桂吾にも言われた事はない。
もっともアイツはそんな事考えた事もないだろうに。
親にだって言われた事はない...。両親は俺に何も言わない。
食卓についたって出掛けたってそんな事は話さない。
何時も違う会話で内容は弾む。
『如何して行かないのか?』
中2からストリートを始めた。
中3までは真面目に毎日学校に行って勉強に励みながらストリートを続けていた。
受験の時だって勉強に集中はしていたけれど片時もギターを触らないと言う日はなかった。
高校に受かって...入学して、突然学校に行かなくなった。
如何してか...俺にも理由が判らない。
昼は学校に行けばいいのに、夜はこうやってストリートをすればいいのに。
多分俺は、理由もあてもない...夢を見たんだと思う。
「歌を歌いたいって夢を追ってるんだ...そう言う夢を見ると如何してもそれに集中したくなるんだよ」
「...夢...」
「そう夢...ただの夢。理由にならない下らない答えはこれ」
「うんん、下らなくなんてないよ。私にだって夢はあるもん」
「じゃあその夢は何?」
「前向きな人間になるコト」
彼女の答えは意思の強さを感じる。
立て掛けてあるギターを持って、夢の為に歌っている曲を声に出す。
前向きに前向きに。
純粋に単純に。
俺の夢は...人に喜ばれるような歌を歌いたい...。